第24話 教習も終わり、またヒモ生活に逆戻り
「やっと……やっと、終わったーーーっっ!!」
教習所のロビーに張り出された合格発表の張り紙を見て、ガッツポーズする。
祝、卒業検定一発合格!
AT限定とは言え、それでも合格したのは嬉しい。色々とあったようななかったような、教習期間だが、後は免許センターでの本試験だけだ。
「早速、佳織姉さんにも報告っと♪」
こんなに浮かれた気分になったのは、本当に久しぶりであり、即効で佳織姉さんにラインで合格報告を送信する。
これで、この一ヵ月半、殆ど毎日行っていた教習生活もおさらばだ。
免許取ったら何しようかなあ……流石に、車は佳織姉さんに買ってもらうのは躊躇しちゃうけど、親の車をちょっと借りて、乗るくらいはしてみたい。
「あ、野村君だ。ヤッホー」
「ん? 米沢さん」
「野村君も、卒検受かったんだ。私も昨日、受かったの」
「へえ。おめでとう」
いつの間にか、米沢さんも卒検受かっていたのか。
「今から、卒業証書、貰う所?」
「うん。米沢さんは何しに来たの?」
「私は、ちょっと教習所の自習室で、本試験の勉強しようと思って来たの。えへへ、野村君も卒業かあ……」
と、米沢さんも嬉しそうに言ってくれるが、卒業と言うキーワードを聞いて、ちょっと心がグサッと来る。
自動車学校は無事、卒業出来そうだが、高校を卒業したのもまだほんの数ヶ月前。
その間、俺は何をやっていたんだろう……佳織姉さんといきなり同棲始めて、家事をやって、小遣い貰いながら、遊んでいただけ。
教習所に通い詰めてからは忙しかったが、それも今日でお終いになるし、これからどうするのか、考えると、途方に暮れてしまっていた。
「あ、じゃあ、俺、卒業証書貰いに行くから……」
「うん、またね。あ、そうだ、野村君」
「何?」
「良かったら、本免試験、一緒に行かない? 一人じゃ、何か不安で……」
「え……? 俺と?」
「うん! あ、駄目? 私は大学あるから、平日は難しいけど、無理に都合合わせなくても良いよ」
思わぬ誘いを受けてしまい、困惑してしまったが、何故俺と行きたいのだろう?
米沢さんには失礼かも知れないが、彼女は俺よりずっとしっかりした子なので、免許センターまで一人で行くのが、不安と言うのはちょっと意外だ。
「別に良いけど……」
「本当!? 良かった……じゃあ、また後で連絡するから」
断る理由も無かったので、了承すると、米沢さんもパアっと明るい顔をして手を握って喜ぶ。
そんなに俺と行きたかったのかと、首を傾げていたが、まあ俺も一人で行くより、友達と行った方が良いかと思う事にし、二階の教室に行って、卒業証書を貰いに行った。
「合格おめでとー、裕樹君!」
「佳織姉さん……ありがとうございます」
家に帰ると佳織姉さんが、クラッカーを鳴らして俺を出迎え、彼女の温かい祝福の言葉に胸がジーンと鳴る。
「一発合格、凄いね裕樹君」
「いや、まあ普通じゃないですかね、はは……」
「そんなこと無いよ。私、卒検一回落ちたし。へへ、これでまた家事に専念出来るね」
「う……やっぱり、バイトとかしちゃ駄目ですか?」
「私、我慢したんだよこれでも……裕樹君も免許くらいなきゃ、可哀相だと思って」
あくまでも俺をヒモとして養わせろという強い意思に、俺もちょっと引いてしまうが、まあ教習が忙しかったのは事実なので、暫くのんびりさせてもらおう。
「んーー、じゃあお祝いになんか買ってくれませんか?」
「うん、良いよ。なになに!?」
「最新のスマホ買って下さい。俺の、高校入学の時に買った奴なんで、バッテリーがそろそろヤバくて」
「何だ、そんな事か。良いよ、最新のハイエンドスマホ買ってあげちゃう」
いや、そこまでは……別にゲー厶とかあんまやらないし、でも佳織姉さんが言うなら、遠慮しないで、おねだりしちゃおうかな。
「じゃあ、バッテリー持ち良くて、性能の良い、スマホを適当に探してみますね」
「うん。買ったら、一緒に対戦でもしよう。約束だよ」
「はは。良いですね」
楽しみだなあ……って、佳織姉さんに何か買ってもらうのが当たり前になってるじゃねえか。
こんなんじゃいけないと思いつつも、結局、買ってもらっちゃうんだろうなあ。
「ねえ、本試験はいつ受けに行くの?」
「あ……そうですね、近い内に受けに行きます」
「えー、明日の朝、行かないの? 裕樹君なら、早く行って、早く受かって終わりにしたいって思うと思ったから、意外」
夕飯の片づけを終わった後、部屋で適当にくつろいでいると、佳織姉さんが本試験をいつ受けに行くか聞いたきたので、ちょっとギクっとする。
やべえな……米沢さんと一緒に行く約束してるって聞いたら怒るよね、絶対。
「最近、ちょっと教習所に通いつめて疲れちゃったので、少し羽を伸ばしたいと思ったので。確か、一年以内に受ければオッケーなんですよね」
「そうだけど……わかった、女だな」
「そ、そんな訳……」
「あれ、図星? ああーー、そっか。この前、言っていた元カノとでしょう! 絶対そうだ!」
どんだけ鋭いんだよ、このお姉さんは!
いや、別にただ一緒に試験を受けに行くだけで、何も疚しい事はないんだけど、やっぱり二人きりで行くと聞いたら、良い気分はしないわな。
「そうなんでしょう、絶対、そうだ、浮気もの!」
「うう……す、すみません……今日、米沢さんに誘われたんで、つい……でも、本当にただ試験一緒に受けに行くだけですから! 何なら、付いて来ても良いですよ!」
「そんなの嫌。朝早く起きるの面倒だし」
そんな理由かよ! つか、マジで元カノだと思っているのかな……違うって説明しているのに、何でそう思われているんだろう。
「ふん、良いよ、別に。デート行ってきな。お姉さんのお小遣いで、精々、楽しむが良いさ」
「そんな可愛い顔をして膨れたら、本当に浮気したくなっちゃいますよ」
「きゃっ! も、もう……いきなり、抱きつかない」
膨れた佳織姉さんがあまりに可愛かったので、思わず抱きついてやる。
いやあ、ヤキモチ焼かれるのも悪くはないな。
あんまりやり過ぎると、追い出されそうだが、こうして嫉妬する姿もたまには見たい。
「んもう、調子に乗らない! 私以外の女子とこんなことしちゃ駄目だからね」
「しません、しません。じゃあ、スマホの件、宜しくお願いしますね」
「うん。あ、裕樹君」
「何ですか?」
「また明日から、ずっと一緒だよね? ちゅっ?」
と言った後、佳織姉さんは俺の頬にキスをしてくれた。
何度もされていたが、やっぱり良いなあ……いつか、佳織姉さんをドライブには連れて行ってあげたいと、固く誓ったのであった。
翌朝――
「ん……ふああ……はっ! もうこんな時間っ!」
朝になり、スマホで時間を見ると、既に朝の十時近くになっていたので、慌てて飛び起きる。
やべ、教習に……と焦ったが、
「あ……もう終わったんだっけか」
昨日、卒検に合格し、もう自動車学校に行く事もなくなった事を思い出すと、ホッとすると同時に、虚しさも湧き出て来る。
今まで、免許を取る事に集中していたが、それも一段落したので、何だか抜け殻にでもなった気分になっていた。
「俺、これからどうするかな……」
今は七月の初め――大学を再受験するなら、今が本当にギリギリかもしれない。
そんな欲が俄に湧いてきたが、必死に押し殺し、起き上がって、朝食と掃除、洗濯を始めていったのであった。
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