第23話 ヒモをしてることはやっぱり言えない

「はあ、やっと終わった……」


 応急救護の学科も終わり、教習所を出て、帰宅の途に着く。


 明日は路上二時間に、学科が二時間か……忙しいが、少し前までは学校で六時間、七時間授業受けていたんだよな


 これ位で音を上げちゃいかんのだが、ニート状態の時と比べても日々の充実感が全然違う。


 やっぱり、学校なり仕事行かないと、人間駄目になるんかな……と言っても教習所通いはもうそんなに長くはないのだが、免許取ったらどうしようマジで?


 また家事と買い物だけやる、自堕落なヒモ生活に逆戻りか……それもちょっとなあ。


 そう思いながら家路に着く。帰りに買い物していかないと……おっ、電話か。




「はい」


『よう、元気してる?』


「松川か。まあな」


 誰かと思ったら、松川かい。


『今、教習所に通ってるんだっけ?』


「まあな。仮免取ったばかりだよ」


『マジかよ、はえーな。俺、やっと卒検行けそうなところだってのに』


 そりゃあ、時間は有り余ってるからな。


 毎日が日曜日のヒモを舐めたらいかん。自慢にもならんけど。


 松川は大学があるし、通学も一時間以上はかかるから、教習所に通うのも大変だろう。


 バイトはもう始めてるんだろうか?


『まあ、いいや。今度の日曜、暇? また飯でも食いに行こうぜ』


「ああ、良いよ」


 日曜も教習所に行くつもりではあったが、まだ予約入れてないんで、時間の調整はいくらでも利く。


『あと、隆太も来る事になってるから』


「へえ、あいつもか」


 加藤隆太――高校の時の同級生で松川と一緒につるんでいた友達。


 あいつと会うのも卒業式以来か。大学も推薦で早く決まったから、卒業する頃には免許取得済みで、すげえ羨ましかったの思い出した。




『焼肉でも食いにいこうぜ。車は隆太が用意してくれるらしいからよ。じゃあ、後で連絡するわ』


「うん。またな」


 そう告げた後、松川は電話を切り、俺も家路に着く。


 加藤と松川の三人で、焼肉か……高校の時は、よく三人で飯食いに行ってたな。


 ファミレスでドンリクバー、飲みまくったり、焼肉食べ放題プランでどれくらい、食えるか競ったり。


 今、考えるとアホな事やっていたなと呆れるが、そんな事も高校生らしいなと思いながら、自転車に乗るが、もう遠い昔の様に思えてしまい、少し切ない気分になっていた。




「ふーーん、またお友達とご飯、食べに行くんだ」


「は、はい……」


 家に帰り、早速、今度の日曜日に松川達と遊びに行く事を伝えると、佳織姉さんは何故か不機嫌そうな顔をする、


「良いよー、行ってくると良いさ。お小遣いならあげるから、行っといでえ」


「どうしたんですか? 何か機嫌悪そうですけど?」


「べっつに??……最近、忙しくてあんまり構ってくれないから、寂しい訳じゃないんですからあ」


 ああ、そう言う事だったのね。


 可愛い所があるじゃないか、佳織姉さんも。


「悪かったですよ。でも、もうちょっとで、教習も終わるんで、それまで我慢してください」


「我慢なんかしてないしー。てか、いきなり抱きつかない」


 急に愛おしくなってしまったので、彼女に後ろから抱きつきながら、カッコウつけてそう言うと、佳織姉さんも頬を膨らませて、言うが、俺を引き離そうとは一切せず、むしろ向こうからも抱きつく。


 もうちょっと……いや、まだ仮免取ったばかりで、半分以上、残っているから、一ヶ月は見ておく必要はあるが、そこまでだ。


 それが終われば、また前みたいに……いや、それで良いのかよ、俺?


 何かしないと格好つかない気もするが、でも何かしようにもなあ……。




「心配しなくても、佳織姉さんに養われる生活にすっかり慣れちゃってるんで。また、遊びに行きましょう。遊園地にでも行きたいなあ。佳織姉さんのお小遣いで」


「やん、約束だよ。裕樹君はお姉さんを楽しませるのが、お仕事なんだからね」


 佳織姉さんを楽しませるのが、お仕事か……悪くはないが、ちゃんと出来ているかは不安である。


 でも今はとことん彼女に甘えて、パラサイトしたいので、もう遠慮なんかしない。




「もう、いい加減にする。お姉さん、お仕事しないといけないから、裕樹君は、洗濯取り込んで、掃除でもしておいて」


「はいはい。頑張ってくださいね」


「あん。もう……じゃあね。ちゅっ」


 更にぎゅっと抱きついて、胸を軽くタッチして佳織姉さんから離れると、彼女もお返しとばかりに、頬にキスをしてくれる。


 ああ、マジでラブラブのバカップルやな、俺ら。


 もう理性なんかすっ飛ばして、襲っちゃおうかななんて、思ってしまうが、俺達って、今、付き合ってるんだよな?


 何か不安になって来たが、もう二ヶ月以上、一緒に住んでいて、他の男と付き合っている様子は全く感じないから、大丈夫だと思うが、念の為、佳織姉さんに付き合ってくれと告白しようか、どうしようか……


 今更になって、悩み始めたが、とにかく今は免許に専念だと言い聞かせて、部屋に戻り、今後のスケジュールを立てる事にしたのであった




「はああ、今日も疲れてしまったぜ……」


 路上教習を二時間終えた後、学科も片付けて、グッタリしながら、教習所を後にする。


 今日は高速教習を行い、第二段階ももう教習を大半終えて、後は卒検まで一直線。


 とっとと終わらせたい気もするが、免許を取った後はどうしようと今頃考えている。


 決まっているだろ。佳織姉さんのヒモやって、ずっと遊んで暮らすんだよ。


 だが、そこまで割り切れる程の決心は付いてないんだよなあ。


「ん? ラインが……ああ、松川か」


 着信があったので、スマホを取り出すと、松川から、


『明日、六時に駅前に集合な』


 と短い一文で、明日の集合場所と、時間が書かれていたので、わかったとすぐに返信する。


 そういや、明日は松川と飯を食う約束をしていたっけな。


 加藤も来るんだっけっか。久しぶりに三人で遊びに繰り出すか




「ただいまー」


「お帰り」


 いつもの様に帰宅すると、佳織姉さんが満面の笑みで出迎える。


「あ、そうだ。明日、友達と遊びに行くんで」


「ふーん。彼女と浮気?」


「普通に男の友達とですって。てか、前にも言ったじゃないですか」


「いいよーだ。いっておいで。お小遣いなら、上げるから。ほら」


 と、拗ねた顔をしてプイッと背を向けてしまい、自室へとまた篭ってしまう。


 最近、俺が不在で寂しいのか、どうも機嫌が宜しくない佳織姉さんだが、こんな子どもみたいに怒っている姿も可愛らしい。


「すみません。でも、俺もたまには友達と遊びたいですし……免許取ったら、佳織姉さんといっぱい遊んでエッチな事もしまくりますから」


「そんな事で誤魔化さないー。別に怒ってないし」


 佳織姉さんを後ろから抱きつき、胸をさりげなく揉みながら、耳元でそう囁く。


 こんな事まで、言い合う関係になるなんて、少し前まで思いもしなかったなあ……早く、免許取って、佳織姉さんとドライブにでも行きたいな。




 翌日――


「おお、ヒロ、こっちだ」


 集合場所の駅前に向かうと、既に松川と加藤が既に来ており、駆け出していく。


「よお、裕樹。久しぶり。元気してた?」


「まあな。加藤も元気してる?」


「ああ、まあボチボチ」


 と、ぶっきらぼうな口調で答えるが、こいつはいつもこんな感じだったので、相変わらずだ。


 黒髪でTシャツとジーンズのラフな格好でいた加藤は高校の時の同級生で、俺と松川の三人でよく昼飯を食ったり遊びに行ったりしていた仲であった。


 剣道部に所属して部長を務めており、成績も優秀で、進路も推薦でいち早く国立大への進学を決めてしまい、もう免許も所得済みで、めっちゃ羨ましかったのを思い出した。


「じゃあ、乗るか」


「あ、それ加藤の車?」


「ああ。親父のだけどな」


「羨ましいよなあ。俺、やっと卒研受かった所だよ」


「へえ、受かったんだ。おめでとう」


「ああ。んじゃ、出発ー♪ 取り敢えず、夕飯にはまだ早いから、ゲーセンにでも行こうや」


 と松川は助手席に、俺は後部座席に座り、車が発進される。


 友達が運転する車に乗って遊びに行く……これぞ、青春だよなあ。




「こうして、焼肉食うのも久しぶりだよなあ」


「そうだっけ?」


「三人での焼肉は、去年の一学期の終業式以来だから、一年ぶり」


「よく、覚えてるなそんなの……」


 ゲーセンで遊んだ後、焼肉店に行き、加藤がカルビを鉄板で手際よく焼きながら、そう言うが、ここで焼肉食ったのは、それ以来か。


「はは、隆太も、大学どうだ? 理系は大変らしいけど?」


「まあ、実験とか忙しいよ。それ以上に通学に時間かかってなあ。そっちはどうだ?」


「思ったより、面倒くさいなあ。経済学部だから、もうちょっと楽だと思ったけど……」


 何て、焼肉を食いながら、松川と加藤がお互いの大学生活の近況を話し合うが、やっぱり付いていけん。


 いや、自分で選んだ道なんだけど、凄く気まずいわ……特に加藤には、俺がヒモをしている事は話しておらず、浪人していると思っている。


 いっそ、打ち明けてしまおうかと悩んでいるが、


「はは、だよなー……あっ!」


「な、何だよ?」


「やべえ、今日、ログインしてなかったぜ……」


 急に加藤が血相が超えて、声を張り上げたので何事かと思うと、スマホを取り出して、ゲームを起動させる。


「お前、まだそれやってるのかよ」


「当たり前だ。ああ、あぶねー……千日連続ログインで、みのりの限定SSR貰えるから、あともう四日だぜ……」


 加藤がやっているのは、大人気野アイドルリズムゲーム。




 元々、オタク趣味などなかった固物だったんだが、俺が強引に勧めてやらせた結果、ドハマりしてしまい、それ以来、一日も欠かさずにログインし、ライブやイベント、アニメDVDなどグッズに金を注ぎ込みまくっているのだ。


 何か悪い事をしてしまった気分だが、まあ本人が楽しんでいるのが、良いかと言い聞かせていた。


「はは、相変わらずだな、お前も」


「まあな。裕樹はどんな調子?」


「ん? ああ、まあまあかな」


「ふーん。浪人も大変だろう。遊んでて大丈夫なのか?」


「まあ、たまには息抜きもせんと……」


 と加藤がスマホの画面を見ながら、俺に近況を訊ねると、凄く気まずい気分のママ、適当に嘘をついて、はぐらかしていく。


 そんな様子を松川が微妙に引きつった笑顔をして見つめているが、


「そうだ。隆太、お前この前、ネット配信していた、ラブセカの動画見たか?」


「ああ。アーカイブでみたよ」


 と、俺に気を遣ったのか、話題を逸らして助け舟を出す。


 そんな友人の心遣いに感謝しながらも、とてつもなく情けない気分になってしまい、泣きたくなってきてしまった。


 いつか加藤にも真実を話すようかもしれないが、やつも忙しいみたいだし、また会う機会はあるんだろうか……




「うーん、食ったなあ……じゃあ、もうお開きにするか」


「ああ、じゃあな」


 久しぶりに友人との焼肉ディナーを堪能し、店を出て、駐車場に向かう。


 が、駅まで歩ける距離ではあるので、今日はこのまま直帰するか。


「? おい、裕樹」


「あ? なんだよ?」


「いや、家まで送るけど……まさか、歩いて帰る気か?」


 あ、やべ……加藤は俺の家にも何度か遊びに来た事があるので、場所は知っている。


 ここからだと、俺の実家まで歩いて一時間近くはかかると思うが、そんな友人の気遣いにどう答えようか、しばらく考える。


「わ、悪いな。じゃあ、頼むよ」


「いや、最初からそのつもりだったし。松川の家も近くだったなよな」


「ああ」


 良いのかと松川が目配せするが、今日は仕方ない。


 加藤の気遣いを無碍にしたくない上に、まだヒモやってる事は言いたく久しぶりに実家に寝泊まりし、佳織姉さんの家には朝、帰る事にした。

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