第22話 お姉さんの友達にまた奢られる

数日後――


「やっほー、佳織。裕樹君も」


「桜さーん。しばらくぶりですー。会いたかったですよお」


 と、二人で待ち合わせ場所である、桜のマンションの前の駐車場に出向いて、待っていた桜と佳織が軽く抱擁を交わす。


「お、裕樹君、久しぶりー。元気していた?」


「ええ。初芝さんも元気そうで」


「ふふん、私が元気かは配信見ればわかるでしょう? この所、毎日配信していたから、ちょっと疲れてさあ。今日は、ちょっとジムに行って、お風呂入って、リフレッシュしたばかりなの」


 そういや、ジムに行ってるって言っていたな初芝さん。


 もう少し暑くなったら佳織姉さんと一緒にプールとか行ってみたいな




「へえ、免許取りに行ってるんだ」


「はい。AT限定ですけど、車の免許、どうしても欲しくて」


「ははは、まあどうしても必要になるよね。いつか、車買ってあげなよ、佳織」


「が、頑張るよ」


 三人で車に乗り、初芝さんの運転でしばらくドライブする事になり、俺の近況で盛り上がる。


「今、どのへんなの?」


「仮免取ったばかりなんですよ。ちょうど、一区切り付いたんで、息抜きしたいと思っていた所だったんです」


「早いなあ。ウチ、学生の頃、取ったけど、もうちょっと時間かかったよ」


 そりゃあ、学生と違って、時間は有り余っているし、今は混雑している時期じゃないからな。


 てか、話を聞いたら、初芝さんは女なのに、免許はMTなんだな……しかも、米沢さんもMTだって言っていたし、何か情けなくなってきたぞ。


 ま、後で限定解除すれば良いか。




「そうそう。裕樹君、教習所で元カノに再会したらしいんですよお」


「えっ!? 何それ、超興味あるんだけど!」


「元カノじゃないって言ってるでしょう! 高校の時の同級生です! 本当にそれだけですって!」


「ふん、その割りに一緒に食事したらしいじゃない。私のお小遣いで。年上彼女のお小遣いで浮気するのはどんな気分ですかあ?」


 と、佳織姉さんが腕を組みながら、頬を膨らませて、そう言うと、運転席の初芝さんも目を輝かせて食いつく。


 トホホ……やっぱり、米沢さんと会ったこと、内緒にしておけば良かったかな。


 余計に面倒な事になったけど、佳織姉さんの小遣いで、米沢さんと遊んでいるって言うのが、何故か妙な興奮を感じてしまい、またやりたい衝動に駆られていった。




「まあ、あるよね。教習所で昔の友達に会うとか」


「そうですよね。私も、上京する直前で取ったんですけど、同じ中学の友達とかと再会できて、ちょっとした同窓会気分でしたよ」


 確かに、地元の教習所に通っていれば、中学とかが同じだった奴らと、再会する事もありそうだが、俺は敢えてそれを避ける為に、地元の教習所は避けたのだ。


 が、それが裏目に出たのか、米沢さんと再会してしまったのであった。


「でもさー、その子、やっぱり裕樹くんの事、好きなんじゃないの?」


「え? そ、そうですかね?」


「うん。そうとしか思えない。話聞く限りでは」


 そうかなあ……誰に対しても、親しげに接している子なんで、俺にだけ特別親しくしているとか、そんな感じはしない。


 けど、食事に誘われる位なら、嫌われてはいないんだろうから、期待しちゃうかも。


「くす、まあ面白そうな話だから、何かあったら、相談よろしく??」


「もう面白がらないでくださいよ。私はプンプンなんですから」 


「す、すみません! でも本当に彼女とは何でもないですから、信じて下さい」


「納得させるの大変だよ。もし嘘ついたら、お小遣い1割減らすから」


 たった1割かよ。今でも貰い過ぎだから、減らしても良いくらいなのに、甘いんだか厳しいんだか、よくわからない。




「ほら、着いたよ」


 一時間程、ドライブした後、夕食を食べるレストランに到着する。


 高級ホテルの屋上にある、高そうなレストランで、場違いじゃないか


「あの、俺、私服なんですけど大丈夫ですかね?」 


「あー、大丈夫大丈夫。ドレスコードないし、別に服装で追い出すとかないから」


「ちゃんとそう言う場所選んだから、安心して。まあ、どうしてもって言うなら、一度くらいは、連れて行っても良いけど」


「着ていく服ないですよ……」


 スーツもネクタイも持ってないんだよな俺……制服は学ランだったし、そもそもネクタイの仕方もよくわからない。


 考えてみたら、スーツとかネクタイ必要になる事もあるだろうから、買っておいた方が良いかも……。


 大学に受かっていたら、入学式に着る為のスーツとか買ってくれたんだろうけど、そんな事も忘れちゃったな。




「どれにする? 好きなの頼んで良いよ?」


「あのー、メニュー見てもさっぱりなんですけど……」


「じゃあ、私が選んだコースで良い? メニュー、これなんだけど」


 メニューを見ても、よくわからなかったので、初芝さんのオススメのコースをそのまま注文する事にする。


 服装は自由だって言っていたけど、ちょっとこの優雅な雰囲気は慣れない。


 初芝さんも結構、高そうな服着ているし、佳織姉さんも俺よりちゃんとした服着てるし、周りの客も同じじゃないか。


「こういう店、初めて?」


「はい……一応、テーブルマナーの講習、受けた事あるんですけど、もう忘れちゃって……」


 学校の授業でやった事があるんだが、緊張していてよく覚えてない。


 しかし、今はそれ以上に美女二人が同席しているので、もっと緊張してしまう。


 当然の事ながら、今日は初芝さんの奢りなので余計にな……。


「佳織姉さん、こういう店、よく来るの?」


「来る訳ないじゃん。桜さんに誘われて、二、三回行った事、ある位だよ」


「私もそんなに頻繁に来ないよ。普段は、近所のラーメン屋とかファミレス行ったりするし。でも、今日は友達の彼氏に羽振りが良い所を見せたくて。お酒は、運転するから無理だけど、佳織は飲む?」


「ワイン、ちょっと頂こうかな」


 佳織姉さんもあまり慣れてないのか、ややぎこちない手つきで、出された料理を食べていき、優雅なディナーを彼女らと満喫していく。


 何だかいたれり尽くせりで怖い位だが、折角のご馳走なので、ありがたく頂く事にした、




「ういい……飲みすぎたかも……」


「そんなに飲んでないじゃん。でも、大丈夫?」


「何とか……いやあ、意外にアルコール強いんだね、あのワイン」


 飲みすぎた佳織姉さんはフラフラになりながら、俺に抱えられて、初芝さんの車の後部座席にもたれかかる。


 大丈夫かな……普段、あんまり酒は飲まないからか、あの雰囲気に酔ってしまったのか、


「気分悪くなったら言ってね。んじゃ、すぐに家まで送るから」


「大丈夫ですよー……へへん、裕樹君と一緒に寝るうう♪」


「くす、本当に裕樹君の事、大好きなんだね、佳織。大事にしてあげないと駄目だぞ」


「は、はい……もちろんです」


 大事にしない選択肢などないが、頬を赤らめて幸せそうに俺の肩に顔を預けている佳織姉さんを見て、こっちも幸せな気分になってしまい、二人で寄り添いながら、自宅まで送って貰ったのであった。




「うう……昨夜は食べ過ぎ、飲みすぎたかあ……あれ、裕樹君、もう出かけるの?」


「はい。今日は午前中から、学科があるんで」


 朝、出かけようとした所で、よろめきながら起床して、朝シャンを浴びに行こうとしていた佳織姉さんとバッタリ会う。


 今日は応急救護の教習が入ってるので、午前中は忙しいのだ。


「大変だなあ。てか、詰め込み過ぎじゃない? 大丈夫?」


「早く取りたいんですよ。佳織姉さんは学校行きながら、通っていたんでしょう?」


「うん、専門学校への進学決まった秋からね。それでも五ヶ月かかったよ卒検受かるまで……指定オーバーしちゃったし、卒検も本試験も一回落ちたし、はは……」


 遠い目をしながら、佳織姉さんが自嘲気味に話すが、まあうん。


 おっとりした絵描きさんの彼女にバリバリ車乗り回す姿なんぞ似合わないので、むしろ、イメージ通りだ。


「なんか馬鹿にしてるでしょう? 鈍臭い女だなあって明らかに。ウチ、豪雪地帯だから、真冬の路上教習大変だったんだからね」


「思ってませんって」


「本当に???」


 信じて無いようだが、むしろイメージ通りで安心した位だ。


 昔から佳織姉さんはおっとりとした、インドア派のお姉さんという印象が強く、実際に一緒に住んでみるとその通りだったので、彼女との生活は本当に和むし、ストレスもなく楽しいのだ。


「あの、俺、もう行きますから」


「いってらしゃーい。浮気しないでよ」


「しませんよ!」


 時間に遅れそうだったので、急いで家を出て、教習所へと向かう。


 佳織姉さんに見送られながら、学校へ行く毎日もすっかり日常になってしまっていた。

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