第15話 お姉さんとの同居生活続けたいけど……

「ねえ、シャンプーなくなりそうだから、買ってきてくれない?」


「シャンプーですか? 良いですよ」


「はい、これお金。お釣りは好きに使って良いからね」


 午後になり、リビングでテレビを見てだらだらしていると、佳織姉さんにお使いを頼まれたので、彼女から金を受け取り、近くのドラッグストアにシャンプーを買いに行く。


 銘柄も教えてもらい、自転車でひとっ走りして、頼まれた買い物を済ませていった。




「はあ……何かなあ……」


 シャンプーを買った後、自販機でコーラを買い、近くの公園のベンチに座りながら、コーラを飲んで考え込む。


 今は平日の、夕方少し前――ようやく、授業が終わって、帰りのホームルームが始まってる頃だ。


 高校の時は一応、松川と一緒に部活には入っていたが、部室でよくゲームしたりダベったりしてたなあ。


 まだほんの数ヶ月前のことだが、偉く遠い昔に感じてしまう。


 俺、やっぱりこのままで良いのだろうか……佳織姉さんと結婚するのは良いけど、勢いで籍を入れちゃっても後悔しそうなので、もう少しじっくり自分の将来を見つめ直したい。


 受験、どうするかな。もう五月の半ばになってしまうが、浪人する気ならもう決めないと、時間がない。


「ん? 電話が……あ。はい」


『ヤッホー、元気してる?』


「初芝さん。どうしたんですか?」


 誰かと思えば初芝桜さんが、俺に電話をかけてきたので、何事かと思い、


『へへ、佳織と上手くやってる?』


「まあ、ぼちぼち」


『そう。なら良いけど。ヒモ生活ってどんな感じ? やっぱり、佳織から小遣いもらって、いつもゴロゴロしてるの?』


「家事はやってますよ……」


 まあそれに近い生活なんだけど、一応家事は全部俺がやるって条件だからさ。


『あはは、そうなんだ。んで、夜はいつも佳織とエッチしてるん?』


「し、してま……ノーコメントで」


 思わずしてないと断言しようとしたが、一応、付き合っていると説明しているのに、それはおかしいと思い、シラを切ることにする。


『くす、そっかあ。まあ、佳織みたいな綺麗なお姉さんと一緒じゃ、しょうがないか』


「はあ……用がないなら切りますよ」


『ああ、ちょっと待って。何か元気ないけど、悩みあるの? 相談に乗っちゃうよ」


「悩み……まあ、進路で悩んでいるというか」


『進路?』


 ちょうど良い機会だと、まだ知り合ったばかりの初芝さんに自分の進路について相談する。


 若くして、イラストレーター兼、人気Vに社長というとんでもないスペックの彼女が果たして、どんなアドバイスをしてくれるのやら。




『ふむふむ。まだ浪人しようか悩んでいるんだ』


「はい。でも、浪人するなら、佳織姉さんの家に厄介になるのもどうかと思いまして……」


『大学行って、何かしたいことあるの?』


「う……それは別に」


 特にない。一応、志望は文系の学部だが、将来どうしようかとかはまだ白紙の状態なのだ。


『私も絵の勉強できると思って美大行ったけど、何か合わなくてさあ。すぐ中退しちゃったんだよね。学べたこともあったけど、私のやりたい事じゃなかったって言うか』


 そうか、初芝さん大学中退したんだっけ。でも、志望の大学行っても、合わないとこうなるのか。


『別に今のままで良いなら良いんじゃない? やりたい事もないのに、無理に目指しても、得る物ないと思うよ』


「そんなもんですかね」


 今のままで良いという気持ちか……一生、佳織姉さんのヒモで居たい気持ちもある。


 その方が楽ってのもあるが、佳織姉さんとずっと一緒にいたい。


『そうだそうだ。佳織のヒモで主夫になって一生過ごしちゃえ♪ でも、いざとなったら、私の会社に来て良いよ。マネージャーか私の秘書でもやってもらうから』


 それじゃ、初芝さんのヒモやんけ! まあ、でも少し気が晴れたか。


「ありがとうございます。何か気分が晴れました」


『うん。今夜も配信あるから見てね。あ、また会おうねー』


 と言って、初芝さんも電話を切り、俺もちょっと肩の荷が下りた気分になる。




「お帰りなさい。遅かったね」


「いえ、ちょっと公園でジュース飲んで来たんで」


 その後、家に帰ると、佳織姉さんが満面の笑みで俺を出迎える。


 本当に可愛い笑顔だな……この笑顔があれば、俺、十分幸せかも。


「はい、これで良いんですね?」


「うん。ありがとー。へへ、お疲れ様。ちゅっ?」


 シャンプーを渡すと、佳織姉さんが俺の頬にキスをする。


 本当、サービス精神旺盛だなあ。じゃあ、ついでに胸も。


「もう一回して」


「えーー、もう……ちゅっ」


 とアンコールすると、もう一回、片方の頬にキスをしてくれる。


 こんな生活続けていたら、大学なんて、もうどうでも良くなる。


「へへ、甘えん坊だなあ、裕樹君は」


「佳織姉さんのせいですよ……俺、学校にも仕事にも行かないで、一生、佳織姉さんに小遣い貰って遊んで暮らす生活しちゃいますよ」


「うん、オッケー♪ あ、家事は適当に休んでも良いからね。外食や出前が良いっていつでも言ってね」


 半分冗談でそう言うと、満面の笑みで佳織姉さんもそう言い、彼女の眩しい位の可愛い笑顔を見て決心がますます固まる。


 俺は佳織姉さんとこんな生活をいつまでも続けていたいと――




「ねー、良かったら、今度一緒に旅行行かない?」


「旅行ですか? 良いですけど、急にどうしたんです?」


 ある平日の夜、リビングでスマホを弄りながら、テレビを見ていると、風呂から出てきた佳織姉さんが急にそう誘ってきた。


「取材も兼ねて、温泉旅行に行きたいと思って。今度、温泉地を背景にしたイラストを描くんで、その素材を撮影しに行きたいの」


「温泉かあ……良いですけど」


「やったー♪ じゃあ、早速、二人分の宿を予約しないと。何処か希望のホテルある?」


「お任せしますよ。つか、旅行の費用ってやっぱり……」


「うん。私が持つから、安心して」


 やっぱり。まあ、二人で旅行ってのも悪くはないか。


「へへへ……」


「な、何ですか?」


 佳織姉さんが俺の隣に座り、嬉しそうに腕を組んで、俺を見つめると、


「元気出た?」


「は?」


「いや、何か最近、元気なかったような気がして。もしかして、悩みでもあった?」


「悩み……そうですね。俺、このままで本当に良いのかなって、今でもたまに思うんです。こんな生活、一生続けて良いのかなと」


 もし、佳織姉さんとこのまま結婚する事になった場合、この生活をずっと続ける事になるのだが、これを何十年ってのは流石に……。


 つか、佳織姉さんも今の仕事、一生続けられるかわからないんだし、それなら俺も働きに出ないとと、


「良いんじゃない。続ければ? まだ悩んでいるんだ」


「そりゃあ、自分の人生の事ですし。今の生活は悪くないですけど、やっぱり佳織姉さんに甘えてばかりってのも……」


「もう、まだ言うか。裕樹君、膝枕」


「はい?」


「私の膝の上に寝て。膝枕してあげる」


「はあ……わかりました」


 突然、佳織姉さんが膝枕してあげると言い出したので、遠慮なく彼女の膝の上に寝る。


 柔らかくて寝心地が良いなあ……まだ寝るには早い時間だけど、眠くなってきた。


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