第14話 中々抜け出せないヒモ生活

(佳織姉さんは……仕事中か)


 部屋を出て隣に居る、佳織姉さんの部屋をのぞくと、佳織姉さんはタブレットに向かって真剣な表情でイラストを描いていた。


 仕事中では邪魔出来ないが、フリーとは言え、毎日大変だな。


「どうしたの?」


「あ……いえ、何か夜食でも作りましょうか?」


「うーーん……じゃあ、おにぎりでもお願い」


「わかりました」


 俺の視線に気づいた佳織姉さんが、何をしているのかタブレットで絵を描きながら聞いてきたので、俺もそう聞き返し、台所に向かっておにぎりを作り始める。


 ちょうど夕飯の時の白米が残っていたので、それでおにぎりを作り、彼女の元に運ぶ。




「どうぞ」


「ありがと♪ ねえ、私を襲う決心ついた?」


「いきなりですか! いや、その……まだです」


「そう。まあ、ゆっくりで良いよ。今の生活、まだ続けたいってなら、付き合うから」


「考えさせてください……」


 夜食を運ぶや、いきなり軽い口調でそう聞いてきたので、視線を逸らしながら、今の正直な気持ちを告げる。


 焦ることはないと思うが、やっぱり気持ちの整理がつかなかった。




「う……ふわあ……もう、朝か……今、何時……げっ」


 朝になり、ベッドから起き上がってスマホの時計を見ると、もう十時を回っていた。


 ちょっと寝すぎたな……昨夜、気を紛らわせる為に、ネットゲーム遅くまでしていたから、こんな時間になっちまった。


「ふああ……佳織姉さん……まだ寝てるか」


 起きて、佳織姉さんがまだ寝ているか確認すると、ベッドにくるまってぐっすり寝ており、しばらく寝かせることにする。


 何時に起こしてくれと、事前に言わない限りは、佳織姉さんを起こさないことにしているので、そのまま放置し、顔を洗って洗濯や掃除をやり始めた。




「今日はどうするかな」


 昼になり、カップラーメンをすすりながら、昼の情報番組を見て、今日一日どうするか考える。


 毎日、この繰り返し――簡単に家事やゴミ捨てを行い、それが終われば、ゴロゴロするか、買い物に行くか、佳織姉さんと一緒に遊ぶか、テレビやゲームか。


 何だこれ? 毎日が日曜とかおかしくない?


 しかもお金も特に困ってないし、わざわざ働きに出る理由もない。


 うーーん、天国かここは……じゃない!


「いかん、人として色々と駄目になりそうだ」


 こんな自堕落すぎる毎日を送っていたら、俺も人として大事なものを失ってしまいそうな気がする。


 そうだ。やっぱり受験勉強再開しよう。今からでも死ぬ気で頑張ればまだ間に合うはず……。


「おはよお……」


「佳織姉さん、おは……げっ」


 カップラーメンを食い終わった頃にそう決心すると、佳織姉さんが起きてきたのか、リビングに寝惚けなまこでやってくる。


 タンクトップにホットパンツとラフな格好なだけでなく、タンクトップの肩紐がずれていて、今にもおっぱいがずり落ちて見えそうになっていた。


「あ、ラーメン食べてるんだ。私も食べるー」


「作りますから、着替えてきてくださいね」


「はーい」


 そう言うと、佳織姉さんも子どもみたいに返事をし、洗面所に行って顔を洗い始める。


 全く、こんな姿を毎日、拝めるとは……いや、その気になれば、裸も見れるのか。


 いっそ脱いでくれるよう頼んでみるか。




「あ、今日、午後から出かけるー」


「何処に行くんです?」


「仕事で出版社に打ち合わせに行くの」


 昼を食べ終わると、佳織姉さんがよそ行きの服に着替えて、俺にそう告げる。


 珍しく仕事で外出か。まあ、イラストレーターだって、色々とあるんだろうから、当然か。


「七時か八時くらいには帰ってくると思うから、そのつもりでね」


「はい。いってらっしゃい」


 ベレー帽を被り、タブレットをバッグに入れて、玄関へと向かう。


 こんな格好も可愛らしくて似合っているなあ。ニーソをよく履くけど、好きなんだろうか?




「あ、裕樹君、ちょっと」


「ん?」


「いってきます。ちゅっ?」


「――っ!」


 玄関に見送りに行くと、不意に佳織姉さんが俺の頬にキスをする。


「えへへ、いってくるね」


「あ……いえ、ちょっと待って下さい」


「何?」


「も、もう一回、やってください!」


 彼女の唇の感触が忘れられず、佳織姉さんにそうおねだりすると、


「うん。じゃあ、今度はこっちね。ちゅっ?ちゅっ」


 と、今度は反対の頬にキスをし、おまけとばかり、もう一回した後、また反対の頬にキスをする。


 サービス良いなあ、佳織姉さん……。


「もう良い?」


「あ……じゃあ、ついでに胸も」


「やんっ! あん、急に触っちゃ駄目え……んもう、じゃあもう一回して行くね。んんっ」


 堪らず佳織姉さんの胸を触ると、彼女も嬉しそうな声を上げてそう言い、今度は口づけをする。


「んっ、ちゅ……んっ、んんっ! はあ……じゃあ、いってきます」


「……いってらっしゃい……」


 しばらく抱き合ってキスを堪能した後、佳織姉さんが潤んだ瞳で告げると、やっと家を出る。


 こんな毎日、砂糖のような甘い日々を続けていたら、俺の身も心も蕩けてしまい、何もかもどうでも良くなってくる。


 やっぱり、俺は佳織姉さんのヒモに……ずっと、この生活を続けたいと言う気持ちが更に強くなってしまい、再受験の決意も吹っ飛んでしまった。




「ふう、これでよし……」


 朝になり、溜まったゴミをまとめてゴミ集積場に出しに行き、家に戻る。


 起床時間は決まってないし、最近は昼近くまで寝ることも多いが、ゴミを捨てる日だけは朝早く起きないといけないので、目覚ましをかけて早目に起きて、生ゴミをまとめて出しに行った。


 帰りがけに同じマンションの住人でこれから出勤するサラリーマンやOLさんとすれ違い、何となく気まずい気分になるが、俺、何だと思われてんのかな……




「んーー……ふああ……おはよー……」


「おはようございます。今日は早いですね」


「お手洗い行ってきた所??。まだ寝るよー……あ、ごみ捨てお疲れ様」


 部屋に戻ると、トイレの為に起床した佳織姉さんと鉢合わせし、


 しかし、またけしからん格好してるな……シースルーのネグリジェに下着だけとは、いくらなんでも無防備過ぎる。


 誘っているのかな?


 だったら、遠慮なく襲ってしまっても文句はないだろう。


「おはよう、佳織姉さん」


「うわっ! ちょっ、何するのー!」


 急に後ろから抱き着いて、胸も揉んでやる。


 だって、いつ襲っても良いって言ってるんだから、この位の戯れはオッケーな筈だ。


「へへ、よいではないか」


「やああん……せめて、シャワー浴びさせてえ」


「冗談ですよ、すみません」


「あ……んもうっ! ビックリさせないでよ!」


 何か本気で、最後までイっちゃいそうな雰囲気だったので、怖気ついてすぐに引くことにする。


 佳織姉さんとするのは嫌じゃないんだけど、やっぱり決心が付かないなあ。


「また寝ますね」


「おやすみー。私もシャワー浴びたら、もう一眠りする」


 と言って、佳織姉さんは浴室へ向かって、シャワーを浴びに行き、俺も部屋に戻って、また一眠りする。


 学校に行くわけでも仕事に行くわけでもないぬるま湯のヒモ生活に完全に慣れてしまい、抜け出せなくなっていった。


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