第10話 お姉さんの友達ともお知り合いに

「それにしても、佳織が男と同棲するって聞いた時はビックリしたよ」


「えへへ、羨ましい?」


「どうかなー? まあ、羨ましいと言えば羨ましいけど、野村君ってさあ。ヒモなんでしょう?」


「う……はい……」


 近くの駐車場に停めてあった初芝さんの車に三人で乗り込み、初芝さんに佳織姉さんのヒモであるか聞かれて、渋々頷く。


 やっぱり事情を知っていたが……でも、ストレートに聞かれると、ちょっと気まずい気分になる。


「アハハ、まあ良いじゃない。佳織みたいな綺麗なお姉さんと同棲出来て」


「き、綺麗なお姉さんだなんて……もう、桜さん、お上手すぎですよー」


 同棲なのかなこれって? 俺と佳織姉さん、多分、付き合っている訳じゃないと思うんだけど。


「あの初芝さんの家って……」


「ああ、もう見えてるよ。そこのタワマン」


「え?」


 フロントガラスの前方に見える、タワーマンションを指差し、そう言うが、まさかあれが初芝さんの?




「うひゃーー、いつ来ても、桜さんの家、凄いですねえ」


「へへ、去年、買ったばかりだしねえ」


 初芝さんに案内され、タワーマンションの二十階にある彼女の部屋に入ると、豪華で綺麗な広々としたリビングが目の前に現れ、佳織姉さんも目を輝かせる。


 マジかよ、すげえなこれ……高いんじゃないの、このマンション。


「いやー、桜さん、一人でこんなマンション買えちゃうなんて流石ですよ。人気Vは違いますね」


「うへへ、まあ今はそっちの収入の方がデカイし。てか、今度、配信一緒にやろうよ。佳織とお絵かき配信したいなあ。あとゲーム配信も」


「うーーん、ちょっと仕事が……」


 と、配信に誘われるが、佳織姉さんはあまり人前に出たくないのか、難色を示す。


 見てみたい気もするが、無理にやらせても仕方ない


「あの、こんな広いマンションに一人で暮らしてるんですか?」


「まあね。つか、一応事務所も兼ねてるのよ、ここ。Vチューバーのプロデュース会社立ち上げてさあ」


「じ、事務所って……」


 そんな事務所があるのかと驚いたが、


「名付けて、『しばざくらプロデュース』まだ十人くらいしか所属V居ないけど、これからどんどん増やしていくよー」


「社長さんまでやってるなんて、凄いねえ。私、とても出来ない」


「まあ、忙しいけど。仕事部屋見てみる?」


 そう言って初芝さんに案内され、リビングの隣にある洋室に付いて行く。




「これが配信用のパソコンとカメラで、これがマイク。後、配信に使うゲームソフトとか機材ね。これはお絵かき用の液晶タブレット」


「ほええ……」


 広い部屋に最新の大きなパソコンが何個もあり、カメラやマイクやらタブレットも完備されており、めっちゃ本格的な雰囲気があった。


「今夜もゲーム実況の配信するよー。良かったら、二人とも一緒する?」


「いや、流石に……」


「そっかあ。君もいっそVになれば良いのに。男のVも人気あるし、良かったら私がキャラ作るよ。今からダッシュで描けば、深夜の配信には間に合うかも」


「か、勘弁してくださいって」


 見るのは割と好きなんだが、自分でやるとか絶対に無理。


 ゲームも喋りも上手くないし、やっても恥かきそうだから、続きそうにないって。




「今夜も配信やるんだあ。家に帰ったら見るね」


「生で見学しても良いよ」


「アハハ、まあ流石に邪魔しちゃ悪いし」


「そっかあ、残念。今日は夕飯一緒しようよ。ほら、君も」


「良いんですか?」


「もちろん。へへ、佳織の彼氏とか超興味あるなあ。あんなのんびりした佳織がこんな年下の彼をゲットするなんて」


 いやだから、彼氏じゃないんだけど、佳織姉さん否定しなくて良いのかよ。




「うわああ、凄い豪華な食事―」


「ほら、どんどん食って」


 出前で取った特上寿司やデリバリーのチキン、ピザなどが豪華にリビングのテーブルに並べられ、更に高級そうなワインまで用意されており、流石金持ちと感心してしまったが、まさかいつもこんな食事を食べてる訳ではないだろうな?


「じゃ、かんぱーい」


「かんぱい♪」


 何がめでたいのか、二人がワインをグラスに注いで乾杯し、俺もジュースが入ったコップで乾杯する。


「ふふ、二人って親戚なんだっけ?」


「うん。母親同士が従姉妹で、それで昔はよく遊んでいたの」


「へえーー、幼馴染って奴?」


「いや、うーーん……年に何回か会った程度ですけどね。でも、面倒見良くて、漫画やアニメの絵が上手い、凄いお姉さんだなって思ってました」


「へへん、凄いお姉さんだったんだぞ、私」


 と、胸を張るが、実際、俺にとっては頼れる面白いお姉さんだったので、


「凄いなあ、それで付き合っちゃうなんて。てか、野村君ってさあ、高校卒業したばかりなんでしょう?」


「はあ……受験したんですけど、全部落ちちゃって」


「残念だったねー。私も美大行ったんだけど、一年半で中退しちゃってさあ。それから生活に困っていたんだけど、同人や漫画のしごとで稼いで食いつないで、数年前にV始めて、それでこうなったの」


 それで成功するなら、大した物だわ。


 やっぱり絵を描けるってのは武器になるんだな。




「この子も料理上手いんだよー。だから、超助かっている」


「へえ。じゃあ、ウチも作ってもらおうかな」


「え?」


「いや? 私も君のお料理食べたいー。なんなら、家で働くう? 家政婦として雇うよ」


 酒が入ってるからか、冗談で言ってるのだろうが、そんな事を言われても返事に困る。


 てか、それって初芝さんのヒモになれって事じゃ……


「んぐ……いやー、だめえ! 裕樹君は私、専属なんですからあ!」


 隣で話を聞いていた佳織姉さんが泣きながら、俺の腕にしがみついて制止する。


「あはは! まあ、考えておいて。そうだ連絡先交換しよう。何かあったら、相談に乗るから、気軽に言ってね」


「あ、はい」


 良いのかと思いながらも、初芝さんと番号とラインのIDを交換する。


 人気Vのお姉さんの連絡先ゲット出来るなんて夢みたいだが、今の話は冗談……なんだよな?


「ふわああ……って、もう十一時か」


 昨日、佳織姉さんとのデートの途中で初芝さんの家に招かれ、結構遅くまでお邪魔してしまい、昨夜はタクシーで家まで帰宅し、着いたのは日付が変わった頃であった。


 二人とも酒を飲んでしまっていたので、タクシーを呼んだのだが、初芝さんがポンっとタクシー代として三万円も出してしまい、余ってしまう位であった。


 まあ、足りなくても困るんだけど、釣りは返さなくて大丈夫なんだろうか?


 後で佳織姉さんに相談してみようっと。




「あ、おはよお……」


「おはよう。もう昼ですけどね」


 洗濯と掃除を軽く済ませて、昼を食べている所で、ようやく佳織姉さんが起きてきた。


「それ、いつも言ってるねえ。一応、いつもより少し早起きだよ。ちょっと仕事があるから、今日はこれから頑張ってお絵描きしないと」


 確かに、まだ十二時半なので、佳織姉さんの起床時間としては早い方だ。


 しかし、無防備な格好をしているなあ。


 タンクトップに太股が露になっているショートパンツとは、毎度毎度刺激的な服装で寝ているんだな。


「あ、お昼、焼きうどん?」


「はい。もう作ってますから、すぐに温めますね」


 既に作ってあったので、ラップに包んでいた、佳織姉さんの焼きうどんをレンジでチンして温める。


 こんな何気ない二人きりの日常も当たり前になってしまい、佳織姉さんとの生活がいつまでも続くのかなとぼんやりと考えながら、のんびりとランチタイムを過ごして行ったのであった。


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