第9話 お姉さんの友達もすごかった

「着いたよ。ほら、この映画見よう」


「これは……」


 電車を二十分ほど乗った所にあるシネマに着き、佳織姉さんが指差した看板を見ると、どうやら恋愛物のアニメ映画の看板らしく、まあ佳織姉さんらしいなと思った。


「最近、人気のアニメなんだー。へへ、裕樹君、こういうの好き?」


「まあ、嫌いではないかと」


「何か微妙な反応―。ちょうど空いてるから、行こう」


「はーい」


 佳織姉さんに手を引かれ、一緒に映画館へと入っていく。




「…………」


 二人で並んで座り、スクリーンに釘付けになって、青春物の恋愛アニメ映画を観賞する。


 映像は綺麗だが、話の内容は少女マンガっぽいと言うか、まあ嫌いではないけど、ちょっと退屈な気も……。


(佳織姉さんはこういうの好きなんだ……っ!?)


 ふと、彼女に視線を送ると、佳織姉さんはスクリーンを見ながら、俺の手をぎゅっと握ってきた。


「か、佳織姉さん……?」


「へへ、良いでしょう? カップルらしいし」


「はあ……」


 いや、手を繋ぐのは全然良いんだけど、こんなことをされたら、俺も佳織姉さんの彼氏面しちゃうからな。




「んーーー、面白かったね。特に主人公が橋をかけるシーンとか最高だったよ」


 映画が終わった後、二人で近くのファミレスに行って、少し遅めの昼食を摂り、パンフレットを見ながら、佳織姉さんが目を輝かせて、映画の感想をどんどん話していく。


 クライマックスは結構盛り上がったので、俺も楽しめたが、ああいう恋愛映画を喜ぶとはやっぱり佳織姉さんも女性なんだなとドリンクを飲みながら感心していた。


「何か微妙な反応。男子はああいうの好きじゃなかった?」


「いえ、面白かったですよ。でも、館内に男子、あまり居なかったですね」


「カップルは結構居たじゃない。だから、全然浮いてない、大丈夫」


 カップルは目にしたが、みんな俺と同じ彼女の付き添いで来た感じなんかな。


 まあ、それなら浮く事はないか。


「ふふふ、まあどんどん食べて。今日はって言うか、いつもお姉さんの奢りだから」


「遠慮はしてませんって。でも、何だか悪い気がしますね……たまには俺も佳織姉さんに奢りたいんですけど」


「じゃあ、今日は裕樹君のおごりね。はい、これお小遣い。このお金で払ってよ」


「意味ないでしょ、それっ!」


 そう言うと、佳織姉さんが五千円札を一枚出して、俺に渡そうとしたが、それじゃ単に支払いを俺がしているだけじゃんか。


「どうして? これはもう裕樹君のお金なんだから、君の奢りだよ。あー、年下の彼氏に奢られるなんてなー」


「うう……」


 あまり拒否すると、佳織姉さんを怒らせかねないので、渋々五千円札を受け取り、今日はこれでお代を払う事にする。


 俺に小遣いとして渡した金なら、もう俺の金なんだが、出所が佳織姉さんでは意味が全くない。


 出来ればこうな。汗水働いて稼いだ金で奢りたいんだけど、せめてバイトくらいは許して貰えないだろうか。




「これから、どうするんです?」


「あ、もうちょっと付き合って欲しい所あるんだ」


「良いですよ。何処でも付き合いますよ」


 昼は結局、佳織姉さんが払ってしまい、二人でファミレスを出た後、佳織姉さんに手を引かれて、また電車に乗り込む。


 あの五千円、そのまま貰ってしまったが、これで彼女からいくら小遣い貰っただろうか。


 付き合って欲しい所ってどこだろうと思いながら、佳織姉さんに付いていったのであった。




「ここ」


「ここは……?」


 駅を出ると、小さなアトリエっぽい所に連れて行かれ、そこの店の看板を見てみると、


『厳選。絵師十人萌え絵展示会』


 と言う看板があり、そこに佳織姉さんと共に入っていった。


「ここの展示会に知り合いのイラストレーターさんの絵が展示されてるんだあ。ほら、昨日、写真見せたでしょう? 打ち上げに一緒に参加した同人友達の子」


「ああ、そうなんですか」


 打ち上げに参加した同人仲間の展示があるのかと納得したが、あの打ち上げには何人かの絵師が参加していたので、誰だろうと首を傾げていた。




「綺麗な絵だねえ……私もこんな絵、描ける様になりたいなあ」


 アトリエに展示されている、色彩豊かな美少女のイラストを見て、佳織姉さんもうっとりした眼差しでそう呟く。


 確かに綺麗で芸術作品みたいな絵ばかりだが、佳織姉さんも負けてないと思うけどなあ。




「やっほー、佳織」


「あ、桜さん。こんにちはー」


 二人で絵を見ていると、一人の女性が佳織姉さんに声をかける。


 あれ、この人って確か……打ち上げに参加していた人?


 栗色の髪の毛にサバサバした感じの瞳が特徴の美人のお姉さんで、ハット帽を被っていたがすぐにわかった。


「佳織も来てたんだ。やーん、嬉しいなあ」


「いやー、桜さんの絵、凄い綺麗ですねー」


「そっかなあ? 佳織も負けてないと思うけど。あれ、その子は?」


「ああ、この前話した、私の……」


「うわっ! この子が佳織の……」


「へへ、そうでーす♪ 裕樹君って言うの」


 と、佳織姉さんが俺の腕を組んでそう言うが、どうやら事情を知っているような反応だな……。


「わああ、この子が佳織の彼氏かあ。結構可愛いね。今、同棲してんでしょ?」


「へへ、私が養っているのだ。あ、この人、私と同じイラストレーターの初芝桜さん。昨日、写真見せたでしょ?」


「は、はじめまして」


「ふふ、はじめましてー♪ 初芝桜です。桜って呼んでね」


 と興味津々な目で見られながら、初芝さんが自己紹介し、握手を交わす。


 どうも俺が佳織姉さんのヒモであるのを知ってるみたいだが、面倒な事にならなければ良いなと願うばかりであった。「この絵、私なんだよ」


「へえ。何か凄いですね」


 初芝さんが指差した絵を見ると、落ち葉が舞う中に制服姿の美少女が描かれており、まるで芸術作品のような美しさに息を呑む。


『しばざくらりの』と言うペンネームらしいが、ここまで繊細に描きこむのに、一体、どれくらい時間かかるんだろう。


「本当、上手だよね、桜さん」


「へへ、まだまだだと思うけどね。野村君だっけ? 私の家、この近くだから、遊びに来る?」


「え? 良いんですか?」


「うん。色々と話聞きたいし」


「へへ、いいね、行こうか。私も桜さんの家、また遊びに行きたいです」


「じゃあ、レッツゴー♪」


 思いもよらず、初芝さんの家に行く事になってしまい、佳織姉さんも嬉しそうに承諾して、三人でアトリエを出る。


 佳織姉さんが居るとは言え、女性の家に遊びに行くなんて緊張しちゃうな。

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