第6話 お姉さんとのヒモ生活の中の焦り
「ちょっと一眠りするかな……」
ゴミも捨て、洗濯や掃除などの家事を簡単に終え、気が抜けてしまったので、また寝ることにする。
佳織姉さんもまだ起きて来ないし、この時間はテレビもつまらんのばかりなので、寝る以外の事は思いつかなかった。
「ん? 電話が……はい」
『よお、ヒロ。しばらく』
「おお、松川か。しばらくぶり」
誰かと思ったら、高校時代の友人の松川洋次が電話してきた。
中学と高校が同じで、一番よくつるんでいた友人であり、この春から都内の大学に通っている花の大学一年生だ。
「どうした、こんな時間に?」
『今、何をやっているのかなってさ。同棲中なんだろ? 羨ましいなあ、年上の彼女でイラストレーターとか。名前って言うか、誰なのか教えろよ。俺の知ってる絵師さんかもしれないし』
「その辺は流石に勘弁してくれ。仕事に支障出ると困るし。あと、付き合ってる訳じゃないから」
イラストレーターの彼女のどの辺が羨ましいか知らないが、正直、今の俺には松川の方が遥かに羨ましかった。
佳織姉さんと同居している事は親以外には、この松川にしか話していない。付き合いが長いのと、オタクだが口は堅い奴なので、誰にも言わない事を条件に佳織姉さんのヒモになった事をここに来てすぐに打ち明けたのだ。
奴なりに、俺が進路を決めずに卒業した事を心配していたみたいだが、佳織姉さんと同居するって聞いたら、『リア充死ねや!』と一括されたっけ。
「お前、今、授業中じゃないの?」
『休講になって暇なんだよ。昼はサークルで知り合った友達と飯食う約束してるんだけどな。あ、今夜、近くの飲み屋で新歓コンパあるんだ』
と、大学に入学してから、サークルにも入り、新しい友人も出来て、充実した毎日を送っているという報告を聞き、だんだん、胸が苦しくなってくる。
松川の入学した大学は都内にある有名私立大学で、世間では一流といわれている大学であり、俺が第一志望にしていた所。
去年、一緒にオープンキャンパスに行ったりもして、春には一緒にこの大学に行こうなとか言っていたのに、俺は落ちて、あいつは受かるという無情な現実が待ち受けていた。
そりゃあ、俺の成績じゃ厳しかったんだけど、模試の成績は松川もどっこいどっこいだった訳で、あいつだけ受かるのはどういう運命の悪戯なんだか。
「ふーん、そりゃ良かったな」
『お前が羨ましいよ、全く。あーあ、何だか不公平だよな人生って』
何が不公平なんだか。まあ、俺がもし逆の立場だったら、死ぬほど羨ましかっただろうが、今の俺は松川の方がよっぽどキラキラと輝いていて羨ましい。
俺ももう一回、来年受けてみようかな……今から、死ぬほど勉強すれば間に合うだろうか。
でも、松川の後輩になるのは微妙に嫌かも。
『マジで、家事だけやってるの今?』
「悪いか?」
『いや、ちょっと信じられなくてさ。ヒモって言うか、主夫じゃん』
主夫ねえ。まあ、結婚すれば、俺は佳織姉さんの夫で専業主夫って事になるんだろうが、それもちょっとなあ。
『あ、もう切るわ。じゃあな。近い内、会おうぜ』
「ああ」
用事が出来たのか、松川は電話を切る。あいつと会うのは楽しみだけど、いずれ佳織姉さんの事も紹介する日が来るんだろうか。
「大学か……」
松川との通話が終了した後、スマホに保存されていた写真を見て、溜息を付く。
去年の秋に、あいつとオープンキャンパスに行った時に撮った写真で、講堂をバックに松川と一緒に写っていた写真もあった。
ここに受かっていれば今頃は、俺も……どんな大学生活を送っていたんだろうか。
そんな事を色々と想像して、何だかとても切ない気分になっていると、
「おっはよーー、裕樹君♪」
「うわああっ!」
後ろから突然、起きてきた佳織姉さんに抱き付かれ、転倒しそうになる。
「ど、どうしたんですか、急に?」
「うーん? 起きたら、何か話し声がしたから、どうしたのかなって思って? もしかして、彼女と電話してた?」
「ち、違いますよ。高校の時の友達です」
急に飛びつかれたのでビックリしたが、キャミソールにホットパンツと言う、かなりラフで刺激的な格好なので、めっちゃ目のやり場に困る。
しかも背中には佳織姉さんの胸が当たっており、凄く柔らかくてふにふにしてる。
てか、スタイル良いなあ、佳織姉さん。ほぼ一日中、家に篭っているのに、こんなにスタイル良いなんて、どうなってるんだ?
「ふーん、私と一緒に住んでる事、知ってるんだ」
「はい。まあ、あんまり言い触らせる事じゃないんですけど」
何かあった時の為に、家族以外にも、俺が佳織姉さんと一緒に住んでいる事を知ってる人が居た方がフォローしやすいと思い、敢えて、松川には本当の事を話したのだが、それ以外の友人には一応、浪人していると話していた。
やっぱり言えないよな、ヒモになっているなんて……。
「つか、佳織姉さん、まさか俺と住んでる事、知り合いに言ったりしてるんですか?」
「今の所、友達には言ってないかなあ」
そりゃ、そうだわな。佳織姉さん位の年なら、彼氏と同棲してるのは珍しくないかもしれないが、年下の親戚の男子をヒモにしてますなんてのは、相当レアだし、考えてみると犯罪的な事かも。
十八歳以上だし、俺も同意しているから大丈夫だよな? 多分。
「友達が遊びに来る時は言ってくださいね。俺、外に出てますから」
「良いよ、そこまで気を遣わなくても」
「いや、俺の方が何か居辛いって言うか……」
正直、紹介されても絶対に変な目で見られるし、佳織姉さん位の大人の女性と話するのはちょっと恥ずかしい。
「ま、その時は考えるよ。でも、仲の良い友達にはそろそろ話しておこうかな。隠しているのは何か後ろめたい気もするし」
「それはまあ、好きにしてくれて構わないですけど」
「うん。じゃあ、ちょっとシャワー浴びてくるね」
と言って、佳織姉さんも部屋を出て、シャワーを浴びに行く。
俺もちょっと一休みしてから、昼飯の用意するか。
「ふう……」
トイレに行った後、シャワーを浴びている佳織姉さんが居る浴室の前を通りかかって、ぼんやりとドアを眺める。
曇りガラス越しに、佳織姉さんがシャワーを浴びている影が見えたので、この扉を開けて中に入ると、彼女の一糸纏わぬ姿が見れるのだと思い、息を呑む。
はやまるな……のぞきなんて出来る訳ないじゃないか。そんな事をしたら、即刻追い出されてしまう。
「裕樹くーん」
「っ! は、はい!」
いきなり名前を呼ばれて、覗きしようとしていると思われたかと、ビクっとすると、
「悪いけど、ボディーソープ取ってきてくれない? 洗面台の下にあると思うから」
「あ、はい」
何だそんな事か……ホッと一息したあと、言われた通りに洗面室に行き、ボディソープを取ってくる。
「ここに置いておきますね」
「うん、ありがとー」
「っ!?」
ボディーソープを持ってきて、ドアの前に置こうとすると、不意に佳織姉さんがドアを開けて俺の前に姿を現し、手に持っていたボディソープを持って、また中に入る。
い、今、佳織姉さんの裸……いや、タオルで前を隠していたので、肝心な所は見えてなかったと思うが、仮にも男子の俺の前にあんな大胆な姿を晒すなんて……。
思わぬ形で彼女の裸を見てしまい、いっそう佳織姉さんの事を意識してしまったのであった
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