第5話 お姉さんとのイチャイチャヒモ生活
「ぷっ、アハハハっ!」
数日後、佳織姉さんがスマホでアニメを見ながら、液晶タブレットに向かって、絵を描くお仕事をしていた。
珍しく昼間から作業をしていたが、アニメを見ながらでも仕事できるってのは、良い職業だなと、洗濯物を畳みながら感心していた。
(それにしても、佳織姉さんの下着まで畳む事になるとは……)
本人は気にしてないみたいだが、やっぱり女性用の下着は見ててドキドキするし、洗濯する時もちょっと目を逸らしてしまう。
まあ、俺が手伝えることがこれくらいしかないので、文句も言わずにやるしかないが、ずっとこんな生活するのもなあ。
「あーー、今日は神回だったな。何回でも見ちゃう。あ、洗濯終わったんだ。しまうのは私がやるよ」
「はい。夕飯、何かリクエストありますか?」
「んーー、お任せする」
「はは、じゃあ今日は魚にしますね」
と、またもお任せされてしまったので、今日は魚の塩焼きに煮物でも作って、純和風の夕食にする事にする。
何だか、本当に主夫みたいになってしまってるが、実際、こんな生活を毎日続けるのかと思うと悪くはない。
が、やっぱりせめてバイトでもしようかな……ヒモってのは、精神的にちょっとキツイ物があるし、
「どうしたの、何か浮かない顔をしてるけど」
「いえ。バイトでもしようかなって」
「ええーー、それは困る。いざって時、私の面倒見てくれる時間減っちゃうじゃない」
「それは悪いと思いますけど、やっぱり自由に使えるお金がないと何かと困りますし、それにずっと無職ってのは……」
「お金なら、私が何とかするか。そうだ。私専属の家政夫にならない? それなら、文句ないでしょう」
今と全く変わらないでしょ、それ……。
「お金、ほしいならいつでも言ってね。とにかく、バイトは私の許可なしにやっちゃ駄目。オッケー?」
「はーい」
佳織姉さんに反対されては仕方ないが、それでもやっぱり気乗りはしなかった。
「買い物は、これで良いかな……」
夕方になり、近くのスーパーに買い物に行き、二、三日分の食材やお菓子などを買って、荷物を自転車の籠に入れる。
二人分だからそこまで量はないんだが、やっぱり重いな。
「アハハ、マジかよ、それ」
「そうそう。この前、塾の帰りでさー」
自転車を扱ごうとすると、前に高校生のカップルが楽しそうに会話しながら手を繋いで、横切り、青春を楽しんでいる彼らを見て、羨ましい気分になる。
俺も少し前までは高校生……なのに、今はお姉さんのヒモ。何だろう、この落差。
大学受かってれば、今頃は、大学生活が始まっていた頃だったんだろうな。
そう思うと、凄く気が重くなってきてしまうが、佳織姉さんが待っているので、とにかく帰りを急ぐ事にした。
「ああん、もうまた負けたーっ!」
「へへ、これで三連勝と」
夜中、夕飯を食べ終わった後、佳織姉さんと一緒にレースゲームで対戦をし、俺の連戦連勝が今の所、続く。
「むうう、裕樹君、つよーい。少しは手加減して」
「いや、それはちょっと。てか、佳織姉さん、昔より弱くなってません? 前は凄く強かった気がするんですけど」
「専門学校行ってから、勉強や同人活動、アルバイトと忙しくて、あんまりゲームしてなかったんだよね。対戦なんて、オンライン以外じゃ、何年ぶりかだよ」
そっか、やっぱり何年もゲームを出来なかったのか。
まあ忙しいのはしょうがないか。
「専門学校卒業してから、ゲーム会社に就職したんですよね? 何で辞めたんですか?」
「辞めたというか、会社が倒産したというか。小さなアダルトゲームの会社だったから、突然、閉めちゃってさ。私が作画担当したゲームも一つだけで終わっちゃったんだよお」
ああ、倒産しちゃったのか。つか、アダルトゲームって、エロゲー会社かい。
佳織姉さんの作画したエロゲーどんなんか、後で調べてみようと。
「ま、フリーにイラストレーターでやっていけてるから、良いけどさ。そうだ、今度、同人誌の即売会あるんだけど、来てくれる?」
「良いですけど、何か手伝える事ないですか?」
「売り子は、別に頼むから、君は遊びに来てくれればオッケー。ふふ、私の新作同人、楽しみにしててね」
同人誌即売会……行った事はないけど、佳織姉さんが頑張ってる姿は見てみたいので、楽しみだ。
「へへ、じゃあ私に勝ったご褒美に、何か好きな物買ってあげるよ」
「別にないですよ」
「ええー、つまんない。じゃあ、してほしい事ない?」
「えっと、じゃあ、キスしてください」
「き……」
と、冗談で言うと、佳織姉さんも顔を真っ赤にして黙り込む。
流石にやり過ぎかなって、冗談と言おうとすると、
「わ、わかったっ!」
「え? いえ、冗談……んっ!」
意を決して真剣なまなざしで、佳織姉さんが俺と口付けを交わし、彼女のやわらかい唇が重なるのを感じて、頭が真っ白になってしまった。
「んん……ど、どう?」
「どうって……」
数秒経った後、佳織姉さんが切なげな瞳をして、俺を見つめながら、そう呟き、俺も唖然として佳織姉さんと見つめ合う。
ま、まさか本当にキスしちゃうなんて……。
「も、もう! 今度こそ、負けないよ! 次はこのゲームでリベンジだ!」
「は、はい」
気を紛らわせるように、今度はパズルゲームを二人でやり、そのまま夜が更けていった。
佳織姉さん、まさか俺の事を……そう思いながら夜も全く眠れず、彼女の存在がどんどん俺の中で大きくなっていったのであった。
「か、佳織姉さんにキスされた……」
翌朝、ベッドの上でボーっと天井を眺めながら、昨夜、佳織姉さんにキスをされた事を思い出す。
夢かと思ったが、佳織姉さんの柔らかい唇の感触は確かに残っており、夢ではないのだと確信してしまった。
まさか、佳織姉さん、俺の事を……いや、わざわざ同居させるくらいだから、嫌われてはいないんだろうが、本当に好きだなんて。
「ううう、いかん。ちょっと落ちつかなくってきた」
部屋を出て、隣の部屋で寝ていた佳織姉さんを廊下から眺める。
今日も明け方近くまで仕事をしていたのだろうか。ぐっすりと眠っており、あまりにも無防備な彼女の姿を見て、息が荒くなってきた。
(こ、このまま佳織姉さんを……)
いかん、はやまるな。襲って良いわけないだろ。
うん、ちょっとふざけてやったに決まってる。そう思わないと、やってられないので、顔を洗って、溜まっていたゴミをゴミ集積所に捨てに行く事にした。
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