第4話 お姉さんの奢りで初めてのデート
「ふわああ……おはよー、裕樹くーん……」
「いや、おはようってもう夕方近い時間なんですけど……」
もう四時近くになろう時間になって、ようやく佳織姉さんが起きてきて、Tシャツとホットパンツを着崩した状態で俺に挨拶する。
佳織姉さんの家に厄介になって数日経ち、家事と買い物をしながら、だらだら過ごす日を続けていたが、佳織姉さんは完全に昼夜逆転した生活を送っており、昼は寝ている事が多かった。
夜中になると、液晶タブレットに真剣な眼差しでイラストを描いており、時折、メールでも打ち合わせをしているみたいだが、昼は寝ているので、あまり俺と顔を合わせる機会がないのがちょっと寂しい。
てか、佳織姉さん、もしかして俺が家に来てから、殆ど家に出てなくないか……。
「ん、どうしたの?」
「あの、もしかして、ずっとこんな生活続けてるんですか?」
「ああ、うん。フリーになってから、こんな感じかなあ。もう昼夜逆転しまくりで、体内時計も滅茶苦茶。外出は仕事の打ち合わせか、買い物くらいかなあ。買い物は最近、裕樹君に任せているから、ひきこもり度がますます進行中」
イラスト描くのは基本、在宅で出来るので、必然的にひきこもりがちになってしまうのはしょうがないが、それだけ佳織姉さんが売れていて大変と言う事なんだろう。
彼女の絵を、ネットで色々と見てみたが、今、流行の萌え絵でありながらも、色彩が綺麗で、素人の俺でも可愛らしく描けているから、こう言う才能があるのは羨ましい。
「少しは外に出た方が良いんじゃないですか?」
「だよねー……何か、こう何日もひきこもっていると、体がカビちゃいそう。そうだ、明日のお昼、暇? 一緒に外食にでも行って、デートしようか」
「で、デートっ?」
不意に佳織姉さんにデートに誘われ、顔を真っ赤にして後ずさるが、佳織姉さんは笑顔で俺の顔を見上げて、
「良いじゃん、行こう? お姉さんが奢るからさあ」
「わ、わかりました。仕事は大丈夫ですか?」
「一段落したから、しばらくは大丈夫。私も少し息抜きしないとね」
それなら安心と、明日、平日であるにも関わらず、佳織姉さんとデートする事になってしまった。
「ごめーん、もうちょっと待って」
「あ、ゆっくりで良いですから」
翌日の昼になり、佳織姉さんが思いっきり寝過ごしてしまったので、慌てて佳織姉さんも支度をする。
寝過ごしたと言っても、もう昼の十二時前なんだが、これでも佳織姉さんにとってはかなり早起きらしい。
フリーになってから、ずっとこんな生活じゃ、いつか体を壊すんじゃないかと心配になるが、まあ俺がとやかく言うことじゃないな。
「お待たせー」
「あ……」
佳織姉さんが部屋から出てくると、以前、家に来た時のように、ベレー帽を被り、春物のカーディガンを羽織って、ニーソックスを履いた可愛らしい格好で出て来た。
「じゃ、行こうか」
「は、はい」
思わず見とれてしまったが、イラストレーターの彼女のイメージにピッタリな服装であり、マジでセンスの良さを感じてしまった。
「へへ、どこ行きたい?」
「何処でも良いですよ。俺、この辺の店、よく知りませんし」
「じゃあ、ビュッフェとかどう? そこの駅前に、良い店があるんだ」
「ビュッフェかあ。良いですね、行きましょう」
ちょうど腹が減っていたので、食べ放題のバイキングはありがたいと胸を躍らせて、佳織姉さんの後を付いて行く。
「ほら、男の子なんだから、じゃんじゃん食べる」
「そんなに盛らないでくださいよ。ちゃんと食べたいだけ食べますから」
店に入るや、佳織姉さんは自分のだけじゃなく、俺の分の食事も山盛りで、皿に盛っていき、俺に差し出していく。
世話好きなんだなあと感心しながらも、
「ここ、結構高い店じゃないですか。良いんですか?」
「そりゃ、私の方がお姉さんだし、稼いでるから。奢るのは当然」
「はあ……」
と、胸を張るが、やっぱり気が引けてしまう。
一人三千円以上するってのは、ビュッフェとしても安くはないと思ったが、佳織姉さんはよく来ていうるのだろうか?
「何か嬉しいな、こうやって君とお昼食べられるの」
「そうですかね。はは、俺も嬉しいです」
何て、どこか感慨深げに佳織姉さんがそう言うと、俺も照れ臭そうに顔を逸らす。
店内を見渡すと、客は暇そうなおばさんばかりで、俺くらいの年齢の客は見当たらず、何となく浮いてしまっていた。
やっぱり平日の昼だしなあ……。
「へへ、ほらデザートも。ここのアイス、美味しいよ」
「まだ、おかず食べ終わってませんって」
そう言いながら、佳織姉さんがじゃんじゃんデザートも持ってきたので、俺もそれに合わせて食べていく。
出る頃には、すっかり腹もいっぱいになってしまい、苦しくて歩きにくくなる程であった。
「んーー、どれが良いかなあ」
その後、佳織姉さんと一緒にショッピングモールに行き、イラストを描くのに必要な道具を見て回り、それが終わった後、二人で書店を見て回る。
何か良いマンガないかなあ、何て思いながら見ていると、
「あ、これの最新刊、今日発売だったか」
好きな漫画の単行本の最新刊を見つけ、買おうかどうか悩む。
まあ、暇だし買っておくか。
「それ買うの?」
「ええ」
「じゃあ、私が払うね」
「え、ええっ? いや、ちょっと」
佳織姉さんがファッション雑誌やアニメ雑誌を数冊一緒に手に持ったついでに、俺が持っていた漫画本も籠に入れてしまい、レジに持っていって、カードで支払いを済ませてしまった。
「はい、どうぞ」
「あの、お金……」
「私のおごり。家事を頑張ってくれたお礼ね」
「いえ、すみません……」
漫画一冊くらい、良いかと軽く考えていたが、その考えは甘い事に思い知らされたのであった。
「じゃあ、今度はこっちのゲームコーナー行こうか」
「ええ」
そして、次はテレビゲームが売っているおもちゃコーナーに行き、姉さんと一緒に行く。
「んーー、これ欲しいなあ。裕樹君は欲しいゲームある?」
「あ、えっと。これ、欲しいです」
ちょうど前から欲しかった、RPGゲームのパッケージを見つけたので、何気なく指差すと、
「オッケー。じゃあ、買ってくるね」
「は? いえ、ちょっと!」
即座に佳織姉さんがパッケージを持って、レジに向かい、手早く会計を済ませる。
「どうぞ。ゲーム機、ウチにあるから、好きなだけ使っていいよ」
「あのー、悪いですよ」
「もう買ったんだから、受け取る」
「は、はい」
と言って、半ば強引に押し付けられ、佳織姉さんにまたも奢られてしまう。
この勢いだと、本当に何でも買ってしまいそうな勢いだが、佳織姉さんの気前の良さが何だか不気味にすら思えてしまい、素直に喜ぶ事が出来ずにいたのであった。
「んーー、お腹いっぱい食べたね、今夜も」
「そうですね。ご馳走様でした」
佳織姉さんとの初めてのデートで、結局、夕飯まで豪華な飯を奢ってもらってしまい、今日は一銭も使わないまま終わってしまった。
しかも、ゲームソフトや漫画本まで買ってもらい、午後に寄ったゲーセンも全て佳織姉さん持ちで、電車代から何から何まで全て払ってしまった。
「あの、本当にありがとうございます、今日は」
「良いって、良いって。今日は私も気晴らしになったし。こうやって、二人で遊ぶのも久しぶりだったねえ。子供の頃は、よく二人で遊んだっけ」
「はは、そうですね」
俺が小学生の頃は、佳織姉さんの家に何度か行き、よく遊んでもらったが、今日はその時の延長みたいな物だったのかな。
「子供の時は、佳織姉さんの家に行くの楽しみでしたよ。色々な漫画やゲームがあったし、同人誌なんかも結構あって」
「その頃、私は女子高生だったかな。でも、高校卒業して、東京の専門学校に入学してから、全然会う機会なくなっちゃったね」
「確かに。家は近くなったんですけどね」
佳織姉さんの実家は石川県にあり、最近は新幹線も通って便利になったが、それでもかなり遠くて、気軽に行ける場所ではなかったので、彼女の家に遊びに行くのは旅行気分で余計にウキウキしていたのを覚えている。
が、時の流れってのは残酷だなあ……佳織姉さんが高校卒業してから、すっかり疎遠になってしまい、俺も中学になってから、部活やら塾やらで忙しくなって、パッタリ会わなくなってしまったのだ。
まさか、同居する事になるなんて、夢にも思わなかったな……。
「へへ、帰ろうか」
「はい」
彼女がぎゅっと手を繋ぎ、夜道を二人で家路に着いていく。
傍から見ればカップルには見えるかな? まだ、佳織姉さんには及ばないが、少しでも彼女の力になれればと思いながら、帰っていった。
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