第5話 ……攻撃、継続
火器管制システム、オンライン。
筋力制限、一部解除。
作戦目標「UG型殲滅兵器無力化」
作戦目標に基づく戦闘計画を策定……成功確率0.0000000000004%。
作戦目標を一部変更。
作戦目標「ミオの生存、アノン、ルーさんの無事」
戦闘計画を再策定……成功確率31.67%
以上が最有力な戦闘計画と判断。
戦闘計画に基づく戦闘行動を開始。
荷台の落下防止板、ロック解除。
オープン。
203mm砲弾、信管作動時間を30秒に設定。
「アノン、少し手伝ってくれる?」
「……ワフッ!」
「合図したら、これを転がして?」
「ワフッ」
そういうとアノンは203mm砲弾に前足を乗せた。
よし、なかなか様になってる。
UG型殲滅兵器との距離は1500mをきった。
信管有効化、安全装置解除。
「いま!」
アノンは、これ以上ないほど的確なタイミングで砲弾を投下した。
道に接触した瞬間、衝撃で信管のタイマーが作動する。
抵抗で急激に速度を失った砲弾は、UG型殲滅兵器との距離を縮める。
信管作動まで数秒といったとき、砲弾は次々と形成される亀裂の中に吸い込まれ……炸裂した。
地底で急激に発生したエネルギーの奔流は多くの土砂と共にその巨体を地上へ打ち上げた。
「次!」
アノンは相棒の指示通り砲弾を投下する。
ミオも同時に安全ピンを抜いていない。クラスターグレネードを放り投げた。
仲良くまとめて転がっていった爆薬達は、十数メートル打ち上げられたUG型殲滅兵器の下へ向かう。
M2ブローニング機関銃、安全装置解除。
射撃モード、シングル。
ファイア。
限界まで唸るエンジンを、破裂音が切り裂く。
銃身から吐き出された12.7mm弾は一見不規則に跳ねる砲弾を、巨体の下で正確に撃ち抜いた。
爆炎が華開き、巨体を包み込む。
炎は表面装甲を焦がし、装甲板の合間にあったいくつかのセンサーを絡めとる。
突然、2度の衝撃と炎に見舞われたUG型殲滅兵器は対応しきれず地面にたたきつけられた。
……しかし、それで終わるほど殲滅兵器はやわではない。
距離をまた2000m程空けたものの、先程を超える勢いで猛追を始める。
今までは隠密していたつもりだったらしい。
遠慮なくアスファルトを弾き飛ばし、熱源反応を増大させ、グングン距離を詰める。
再会敵時間修正、許容範囲。
伴い戦闘計画、微修正。
M2ブローニング、安全装置有効化。
FGM148ジャベリン対戦車ミサイル装備。
安全装置解除。
モード、ダイレクトアタック。
第1目標ロック。
後方に危険物及び保護対象なし。
発射。
円筒状の発射機から放り出されたFGM148ジャベリン対戦車ミサイルは失速し荷台に高さ分沈み込む。しかし、消費した位置エネルギーによって僅かな滑空時間を得た。
その一瞬で、ジャベリンは莫大なエネルギーを得る。その噴射口から吐き出された焔によって。
点火から数秒で目標との相対速度は音速を超える。しかし、制御された方向舵によってその弾頭は、しかと目標を捉えた。
その弾頭内に詰め込まれた炸薬は装甲を引き裂かんと結託し1点に向かって雪崩込む。
着弾によって発生した煙が巨体の後方へ過ぎ去った時、UG型殲滅兵器の装甲板が1部、剥がれ去っていた。
その内部にはひしゃげた銃身が顔をのぞかせており、それがかつての重機関銃の類であることは容易に推定可能だった。
そう、ミオはUG型殲滅兵器の数少ない開口部を攻撃部位に定めたのだった。
正面武装残り3箇所。
作戦段階を第2目標の破壊へ移行。
弾着と観測の合間に次を構えていたミオは再び引き金を引く。
こんどもまた、似たような軌道で命中するかに見えたジャベリン。
しかしUG型殲滅兵器は甘くない。
突然首のような部分を捩り、ジャベリンは正面装甲帯に命中したのだ。
第2目標に損害を確認できず。
EMPグレネード、安全ピン放出。
投擲。
FGM148、スタンバイ。
今度宙に舞った爆発物は、ほかのそれと同様、UG型殲滅兵器の下へ邁進し、炸裂する。
発射。
その華は、人の目には大きく写らない。
波紋として広がった電子の波動は、巨体のそこかしこに配置されたセンサーを狂わせる。
センサーが訴える数々の異常値。
UG型殲滅兵器の演算容量を優に超えたそれらが、その動きを単調化させる。
その隙を、ジャベリンは逃さない。
第2目標破壊。
作戦段階を、第3目標へ……
同じ要領で攻撃するミオ。
学習し攻撃法を予想出来たUG型殲滅兵器。
しかし、対処法の演算が終わるよりも先にジャベリンが命中する。
第3目標破壊。
しかし、FGM148ジャベリン対戦車ミサイルはもう残っていない。
第4目標、現状での破壊不可。
作戦段階を一時的に遅滞戦闘へ移行。
第3目標破壊の際に使用したEMPグレネードの効果終了判定次第、次弾投擲。
投擲……
過去の分析より効果時間は15秒と推定。
敵近接防御火器射程圏まで残り80秒。
「アノン、ぼくの後ろにいてくれる?」
「ウゥ……」
拒否行動……危険だと判断されている?
「背中を、預けたいんだ。こいつを連射はぼくにはきつい」
「……ワフ」
なんとか了解してくれた。
「ありがとアノン」
後ろに回ったアノンを背もたれ代わりに小型3脚にたったM2ブローニングを弾薬ケースを盾に構える。
安全装置、解除。
モード、フルオート。
射撃目標、UG型殲滅兵器正面右下第4目標。
火器管制システム、モードイージスへ移行。
射程まで3、2、1……射撃開始。
遥か古より、兵器に触れた事があるものなら1度は聞く射撃音を奏で12.7mm弾は毎分800発以上吐き出される。
しかしそれはUG型殲滅兵器に搭載されている火器と同類であり、残る一門から弾丸が雨霰と降り注ぐ。
高速とはいえ直線に走行し続ける車両を射撃するのは人間にさえ容易なこと、自立兵器が逃すはずは無い。
かといって回避行動も取れないピックアップトラックは穴だらけにされ、スピンしながら巨体に引き潰される……はずだった。
弾は……届かなかったのだ。
有効射程圏内にはとっくの昔に収まっている。しかし、弾は届かない。
もっと正確に表すならば、弾が地面の方へ空中で弾かれ、ミオの付近には届かない。
脅威目標引き続き多数接近。
迎撃しつつ攻撃継続……
ミオが射撃した銃弾の1部がUG型殲滅兵器の射撃した銃弾を迎撃していたのだ。
しかし、発射レートはUG型殲滅兵器搭載の機関銃が上、牽制射撃であるからこそ脅威となる弾丸の割合は少ないものの距離が近づけば当然精度は上がる。
ミオが脅威外と判定する弾丸は着々とその数を減らしていた。
作戦猶予、残り14.21秒。
目標の保護装甲破壊まで残り12発。
射撃可能弾数のこり188発。
……攻撃、継続。
既に元の湾曲した防盾はそこになく機関銃を発射する周辺が異様にへこみ、黒ずんでいた。
そこに定期的にミオの射撃した弾丸が命中していた何よりの証拠である。
しかし、時がたつにつれそのペースは明らかに低下していた。
そして、14秒後……
ミオの射撃姿勢が、崩れた。
「アノン!」
アノンがミオの下から離れ、首根っこを咥え突如引きずったためである。
脅威物多数接近、防御手段……なし。
アノンが、引っ張りさえしなければ……損害は、左足と右腕だけだったというのに。
「ウォルフ!」
アノンが……睨んでいる?
怒り?いやそれと同程度の恐怖……?
心配、しているのか……?
機関銃の弾幕がピックアップトラックに到達する刹那、ミオの目は水鏡のように輝くアノンの目を捉えた。
……しかし、その弾幕がアノン達に風穴を空けることはない。
超高速飛行物体の接近を探知!?
突如、飛行する盾状の物体がピックアップトラックとUG型殲滅兵器の間に立ち塞がったからである。
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