第3話


「っと、また話が逸れてしまった。さっきの詠唱のように魔法陣だって文字や記号、図形なんかで事象を……魔力を改変してるからその魔法陣の意味次第で魔力が何かしらの可燃物になったりならなかったりしている。ちなみに、無詠唱。これはイメージだけで魔法を行使しているからその人が火をどの様にイメージしているかで変わる。もしかしたら火の三要素を無視しているかもしれないよ」


「……最後の。そうなるといままでの前提条件が変わってくるのですが」


 少しずつ理解を深め、納得の表情を浮かべていた少女だったが、最後になってまたしてもジト目へ。


「そうは言ってもね。そもそも魔力ってのがおかしい。何にでもなれる謎の物質で、この世界の全てのものが持っている。それでいて生き物の意思で、言葉で、文字で変換が可能な質量。つまり、神のような力だよ?」


「か、神?ですか?それはまた、大きく出ましたね。何処にでもありますけど」


 少女は顔を若干引き攣らせながら青年の言葉を聞き流した。


「っと、話を戻そう。えーっと。最後は酸素についてだ。これは恐らく空気中のものが勝手に反応している感じだね。魔法で空気か魔力を振動させて摩擦を起し、そして魔力自体が発火点に到達、或いは魔力で作った可燃性の何かが発火点に到達した時点で燃焼が始まり、空気中の酸素が勝手に反応している。大抵の場合こんな感じだ」


「ということは、例外が?」


「勿論。例えば、青い炎は見たことある?」


「いえ、それほど純度の高い火属性魔法を扱えるのは一握りかと。私でもまだ出来ません」


「そうだろうか?では先程作った焚き火を見てみよう」


 話しながらも、ちょくちょく可燃物を投下して維持していた炎に、青年が視線を向けた。少女もそれに釣られて視線を向ける。


「今からこの炎に、正確には枯れ木から発生する可燃性ガスに酸素を混ぜるよ。魔法でね。いくよ?」


 コクリ、少女が頷いた。


「ほい」


 軽やかな掛け声と指パッチン。それと同時に少女はなんらかの魔力を焚き火に感じる。その量は少女が考えるよりも少なく、いや少な過ぎてあまり感じ取れなかった。しかし、変化は目に見えてわかる。先程まで赤色だったそれは、確かに青く燃えていた。


「わ、す、すごい……。何というか、そう。綺麗、ですね」


「でしょ?これは火が十分な酸素を取り込んだことによる完全燃焼時に発生する現象で赤色の時と比べると500℃以上は熱いらしいよ」


「なるほど?それは凄いですね」


 温度で言われても、よくわかっていない様子の少女。


「まぁ、と言っても鉄を溶かすくらいかな?あ、因みに、リチウムを入れると……深紅。銅を入れると……緑に。アンチモンを入れると……淡青になるよ」


 そう言って青年は次々と炎の色を変えた。


「す、凄いです。ち、因みに黒い炎はどうすれば良いのですか?」


「無いよ。そんなの」


 青年はジト目で言った。深いため息のおまけ付きだ。


「え?でも、魔法ではありますよ?」


「知らないよ。オレンジ色に燃やして色素を抜けば黒くなるんじゃない?」


 青年は投げやりだった。


 そんな青年に対して、少女は顔色を伺うように言う。


「もしかして……師匠には出来ないんですか?」


「出来るよ。魔法ならね」


「なんだ。出来るんじゃないですか」


「はぁ、なんかやる気なくなってきたな。今日はここまでにしよう」


「え?いえ。まだ水と風の土。それから太陽についても残ってますよ?」


「なにそれ?僕そんなの知らないよ」


「えぇ〜。もう、しっかりしてください!師匠!」


 すっかりやる気のなくなった青年に対して、少女が腕を捕まえて身長差的に上目遣いで軽く揺する。


「あー、じゃあ、火属性魔法の本質ってなんだと思う?」


「え?えー。少し考えさせてください」


「いいよ」


 先程まで、青年の正面に腰を下ろしていた少女だったが移動した為にそのまま青年の隣に座った。


 そして、唇あたりに手を置いて考え始める。


「う〜ん、と。そうですね。火には三つの要素が必要で、熱、可燃物、酸素。でしたよね」


 少女は青年の瞳を見つめて確かめる。


「そうだね」


「でも、そのうちの酸素はほとんどの魔法の場合、空気中の物を使用している、と」


「うん」


「そして、可燃物は魔力その物を使ったりするから……えーっと?実質行われているのは熱を起こすことだけ、になりませんか?」


「そうだね」


「ということは、火属性魔法っていうとはつまり、空気を振動させる魔法。ってことですね!どうですか?合っていますか?」


 目を輝かせて答えを待つ少女、その距離は前のめりで元々近かった距離をより縮めた。


「うん。正解。正確には原子だけど、説明は面倒くさいから今度ね」


「原子。太陽の話の時に聞いた単語ですね。その話、絶対にしてくださいね?約束ですよ!」


 少し怒った様な態度で、心なしか頬も膨らんでいるようないないような。そんな少女に、青年は適当に頷いた。

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