第10話:悠人と陽葵

 悠人と陽葵、もちろん晴翔もだが、6月下旬になり関東地方はまだまだ梅雨空。


 梅雨明けの嵐が来る前に、晴翔たちの通う学校全体に衝撃の雷が落ちるのであった。


 そう、




 悠人と陽葵が別れることになったのである。





 当然のごとく学校中に事件として知れ渡ることになる。


 晴翔、陽葵を見守り隊だけではなく、多くの人がこのカップルについて疑問を持っていた。


 付き合っている時から誹謗中傷のようなこともよくあったこともあり、この知らせには「そりゃー、当然だ!」「ざまぁ!」みたいなことを言う人があとを絶たなかった。


 そう、二人が別れる理由の主原因はこの誹謗中傷なんだろうと思う。もちろん、晴翔は悠人に付き合うときには相当いろいろと言われることを伝えていた。


 しかし、晴翔の予想を超えるほどの心無い声がそこにあった。


 以前に凪咲が結愛に言い寄ったこともあったが、あんな直談判のようなことは凪咲だけであったが、常日頃陰口はそこにあったので自然とふたりの耳にも入るだろう。


 これは普通のメンタルでは耐えられないと思った。





 7月になってすぐの学校が休みの日、晴翔は本屋さんに参考書を買いに行った帰りのことである。



 自転車を家のガレージに入れる前、ふと陽葵の部屋を見ると珍しく窓が空いていて、陽葵が窓の外を眺めていたのがわかった。


 一瞬、目があったような気もしていたが、特段気にすることもなく家に入ろうとしたときである。



 ブルッ!!



 ケイタイが鳴った。陽葵からメッセージが来ていた。どうやら目が合ったのは気のせいではなかったみたいだ。


 そして時間があれば、家に来て欲しいというものであった。


 これは悠人のことかもしれないな。と思いつつ、これは断れないと思ってお呼ばれを受けることにした。



 そして晴翔は陽葵の部屋に入った。


 そういえば、陽葵の部屋に入るのは久々な気がする。中学に入って数回行ってから、その後は部屋には行かないようになっていた。



 そしてそれは陽葵も同じである。


 久しぶりの陽葵の部屋だが、以前はもっとぬいぐるみなど女の子の部屋だー! って感じがあったのだがずいぶんとすっきりとしていた。





「晴翔―、ごめんねー。


 悠人君と付き合うときー、悠人君の闇の部分とー、付き合ってからの周りの良くない反応―。


 いろいろと注意は受けてたしー、私もそれは思っていたことだからー、それでも私ならちゃんとできるって思ってたのー。」



「うん。」



「でも私じゃー、ダメだったみたい………。


 あー、結構自信あったんだけどなあー。」



「………。」


 晴翔としてはもう言葉が無くなっていた。



「確かにねー、悠人君はそもそもうざったいのが苦手でー、周りの人も心無いこと言う人もいるのもわかってたのにー。


 そのうえでちゃんと私が悠人君を支えてあげられるって、闇にも少しは光を当てられるって、そしたら私の存在意義もあるってー。


 んでねー、私もさらに悠人君を好きになって、悠人君も私を好きになってくれるって思ってたのー。


 晴翔にはー、ほんとにいろいろとしてくれたのにごめんねー………。」



「いや、別に、それは良いんだけど………。」


 晴翔としてもこの言葉を絞り出すのがやっとであった。まさに掛ける言葉がないとはこのことだった。



「うーん、悠人君―、うーん。


 やっぱりー、くやしーよー………。」


 陽葵はさらに一言漏らし、そして泣き始めてしまった。


 晴翔も慰めの言葉も出てこないで一緒にいることしか出来なかった。




【陽葵の落ち込みポイントとしては悠人の負の部分も誹謗中傷も私がなんとかできる。乗り越えていけると自負していたのにダメだったところになるのかな?


 しかし、陽葵がこんなになるなんて。ここまで悠人のことを好きだとは思ってなかったよ。まずこれに衝撃を受けるんですが………。


 そんでもって、陽葵をここまでにしているのは悠人の存在なんだよな。オレじゃない。オレではこうはならないんだね。


 んで、今のこの感情を晒しているのは逆にオレだからってことなんだろうね。今更だけど今わかった。


 陽葵からの信頼感はとても感じるんだけど、これが陽葵の言ってた家族愛のことなんだね。そっか、そっか。うーん。】



 晴翔は陽葵の隣でこんなことを考えていた。


 その後、晴翔はしばらく陽葵の隣にいたが、陽葵が落ち着いたことを確認して家に帰った。






 晴翔としては陽葵のあの状況を見た後で、自分の気持ちもたかぶっていて再び色々と考えを走り巡らせる。


【で、結局陽葵と悠人は別れることになったのだが、じゃあ、これで陽葵の気持ちはオレに向かってくれるのか?


 というひとつの観点があるがこれは間違いなく『ノー』であろう。


 逆にオレはどうだろうか? オレの気持ちも陽葵に戻るのか?


 これも今となっては『ノー』だよな。これは間違いなく結愛に感謝しなくちゃね。結愛がいてくれたから陽葵に気持ちが戻らないで済んだ。


 ここでオレの気持ちが陽葵に戻っていたら、オレも陽葵も不幸になっていただけだろうね。


 あー、ようやくオレは『失恋』したんだって自覚した。


 で、とっくに次の恋も始まってたんだな。




 と、心に余裕ができてしまった。それで思ってしまったのはふたりの今後についてだ。


 陽葵はまだ悠人のことが好きなんだろう。今日見ていてはっきり理解した。で、悠人はどうなんだろう?


 ほんと、感情の起伏がわからん奴だからオレにも読めないところがあるけど、たぶん嫌いになったとは思えないんだよな。


 今度家に行ったら探ってみるかな。


 ってか、お互いに嫌いになったのなら別に良いんだけど、こんな外的要因で別れて欲しくないよ。】





 と、晴翔の考えが一通りまとまったところで、思わず声を上げてしまった。


「ってか、あれ? これヤバくね?


 陽葵に呼ばれてホイホイと部屋にあがっちゃったけど、これって浮気になるんじゃないの?


 まっ、マズくね? ヤバいヤバい!


 変なことになる前に、早めに結愛に言っておいたほうが良いよね? うん。良い良い!」


 思いっきり独り言というやつである。



 その後、急いで晴翔はケイタイを取り出して、結愛にとりあえず会って話がしたいという内容でメッセージを送った。


 結愛からは「なにごと?」みたいな返事が返ってきたが、明日、結愛の家に行くことになった。



 何気に、結愛から呼ばれて勅使河原家に行くのはこれが初めてのことであった。


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