第9話:凪咲、結愛に攻撃(口撃)する

 引き続き凪咲の妄想がつづく。


【さて、みなさんもご存じの通り、2年のバレンタインの出来事ですよ。これは私だけじゃなくて、学校全体に衝撃が走ったことは記憶に新しい。


 なんせ、この学校のヒエラルキートップである、晴翔君と陽葵が付き合ったのだから。


 そう、




 晴翔君はひとつ下の学年の勅使河原結愛。


 陽葵はその兄である勅使河原悠人。




 本当は晴翔君と陽葵が付き合っていたのなら、何も問題が無くてすべてがハッピーエンドだったのにそうはならなかった。


 正直、なんでやねん! って関西弁でツッコんじゃったくらいだよ。


 本当に悔しい、惨めだ、なにより羨ましい!!!



 だから、やっぱり許せない!!!



 むかつくのでどうしても言ってやりたいんですよ。わかってる。こんなことやっても意味が無いって、それに私の気持ちもバレてしまう。


 でもまあ良いんですよ。どうせ今となっては関係性も崩れてしまっているからむしろオールオッケー!


 ちょうどいいじゃんか!


 勅使河原結愛にモノ申す!!!】




 凪咲。高校3年生になってしばらくした日のこと。


 凪咲は校門である人物を待っていた。この時、自分でも表情がかなり強張っていることは自覚していた。


 そして対象の人物がやってきた。そう、



 勅使河原結愛である。



 晴翔も一緒であった。晴翔は凪咲に気づいて声を掛けた。


「凪咲じゃん。どうしたの? 陽葵を待ってる感じ?」



「いや、今日はそこの勅使河原結愛に用事があって待ってたの。」


 この言葉に一瞬結愛はピクッと驚く。そして晴翔のほうを向いた。晴翔も一瞬結愛と目を合わせたが、引き続き、凪咲に質問をした。



「ど、どうしたの? 凪咲が結愛と話があるなんて? それになんだか雰囲気が怖いよ?」



「晴翔君は別に良いのよ………。


 あ、いや、でも良い機会かな。晴翔君も一緒に来てちょうだいな。駅前のファーストフードでドリンクバーくらいなら奢るから。」



「え? 私、別にあなたと話す用事ないんだけど?」


 ここで結愛が話に割ってくる。しかし、お構いなしに凪咲は言う。



「ついて来てくれないってことなら、今ここで、大声で要件を言っちゃうけど、それでも良いかしら?」


 凪咲の表情は、もうつべこべ言わずにさっさとついて来いと言っているようであった。それくらい迫力に満ちていた。


 晴翔と結愛は凪咲の圧倒的迫力に委縮してしまって結局ついて行くことになった。





 ファーストフード店 3人で座る。


 学校帰りの学生や仕事の一休みやPC作業をしているサラリーマンでざわざわと混雑している。


 そして早速凪咲は結愛に対して要件を伝え始めるのである。



「もう、まどろっこしいことは一切なしね。単刀直入に言うわ。


 あなたなぜバレンタインの時に晴翔君に告白しちゃったかな? 特に好きでも無かったんでしょ?


 確かにね、みんなその日にあなたの兄のほうの勅使河原と陽葵が付き合う可能性があるっていうのは噂になっていたわ。


 だからって、晴翔君を好きな女子はいっぱいいるんだけど、流石にその日には告白しないでしょ? 普通にいったら?


 本当に晴翔君が好きなんだったら、その日は失恋することになるんだから普通はそっとしておきたいって思うわけよ?


 それがなによ? こういうの泥棒猫って言うのよ?」



「はっ!? 何を言ってんの? 私が何したって私の勝手じゃん?


 それにあなたに言われる筋合いなんて1ミリも無いわ。まったくもって関係ないじゃん?


 それとも何? まさかとは思うけど、私はみんなの代表で言ってあげているの!


 みたいなこと言い出すわけ? それこそイミフなんだけど?」



「もちろん違うわ。そう、私も当事者なのよ!


 私は入学式の日の晴翔君の自己紹介、翌日、晴翔君にオリエンテーションで声を掛けて貰ってその瞬間からずっと好きなのよ!


 もちろん、異性としての好きって意味だからね。


 さらに陽葵のことも最初はちょっと嫉妬があったけどそんなのも入学式初日だけ。あの子に声を掛けられて嫌いな人は絶対にいないわよ。


 私はふたりのことが大好きになっちゃったの! 3人でいるこの時間が大切で大好きだったの!!!


 それをなんなんよ?


 特に好きでも無かったくせに晴翔君の傷心とやさしさに付け込んで………。


 そんなことが許されると思ってんの???



 それに兄のほうもどうかしてるわ。


 中途半端な気持ちのくせに陽葵からのアプローチで悪い気がしなかったんでしょうね。ホイホイと付き合っちゃってね。


 ほんと気持ち悪い。虫唾が走るわ………。


 ねえ、あなたに私の気持ちがわかる? まあ、わかんないでしょうね。負け犬のヘタレた私の気持ちなんてね。


 ああ、そうよ。今だって、ただの私の言い掛かりだってわかってる。結局は私の『ヒガミ』と『ネタミ』でしかないってね。


 でもね、ここまでされて流石に言ってやらないと気が済まないのよ!!


 そう、すべてを壊すかもしれないってわかっていてもね!!!」


 一通り、言いたいことを言った凪咲。いつの間にか立っていたので一度座り、そしてドリンクを一口飲んだ。



 結愛は圧倒的迫力の凪咲に対して成すすべもなく睨みつけていたが、言われたことは図星。いや言葉がちょっと違うね。


 普通に理路整然と事実を言っていたので言い返せないでいた。


 そして半泣きの状態で走り去っていったのであった。



 先ほどの凪咲の話を繰り返すことになるが、陽葵と晴翔が付き合えなかったとしても、結愛と晴翔が付き合わなければこんなことにはならなかったし、晴翔へのどさくさの告白も無かった。


 それくらい凪咲は晴翔と陽葵が付き合うことを疑っていなかったのである。本当に3人でいるこの時間が尊く大好きなのであった。


 むしろ、3人でいるときに自分の気持ちがバレないようにすることで手一杯であった。なんせ晴翔は頭の回転も速く、察し能力がとてつもなく高いからだ。


 今回、凪咲は気持ちがバレることになるが、やはり結愛に対しては何かを言ってやらないと気が済まないほど好戦的な性格をしている。


 むしろ、状況が状況なのでどさくさに紛れて気持ちを伝えることが出来て良かったと安堵したくらいであった。




 そして晴翔が恐る恐る凪咲に言った。


「いや、ま、まさか、こんなことになるなんて思ってもみなかったよ。正直ビビった。今だって心臓バクバクだよ。


 自分的にはそんな鈍感なほうではないと思っていたけどね、それでも凪咲の気持ちは全くもって気が付かなかったよ。


 ホントにすごいよね。またひとつ尊敬ポイントが増えてしまったくらいだ。


 それに、もしかしたらずっと失礼なことをしていた可能性もあるよね?


 それも踏まえて言うんだけど、凪咲の気持ちには応えられないよ。ごめんね。」


 ここで晴翔は一口ドリンクを含んだ。凪咲は特に何かを言うわけでもなく、晴翔のほうを見ていた。引き続き、晴翔は凪咲に言う。




「凪咲はバレンタインの日に結愛の告白について批判があるようだけど、じゃあ、あの時に凪咲や他の人が同じセリフを言われたとして付き合うかというと、それは間違いなく



『ノー』



 となるね。


 じゃあ、他のセリフでオレに告白してもらったとして、それで付き合うかって言われると、これも『ノー』だと思うよ。


 確かに凪咲の言う通り、あの時は失恋したってことになるんだけど、あのタイミング、いや、それ以外の別の日に告白をして貰ったとしても告白を受けることは無かったと思うよ。


 相当説得力のあるシチュエーションじゃないとね。で、結愛とのやりとりはそれがあったんだよ。だからOKしたんだ。



 で、ここからはお願いなんだけど、これ以上は流石に結愛のことはいじめないでね。一応オレ、結愛の彼氏だし。


 あそこまでフルボッコにしちゃうのは印象も悪いよ。オレに対してもね。それにね、付き合っててそれなりに結愛のことを好きになってるんだよね。



 あ、そうそう、今すぐには無理なんだとしても、もし、時間が解決してくれるのなら凪咲ともまた友達になりたいと思ってる。もちろん陽葵と3人でね。


 ドリンクありがとう。じゃあ、オレも行くわ。」



 晴翔はそう言ってお店を後にした。


 ひとりお店に残る凪咲。完全に振られる形になってしまった。



 凪咲が結愛に放った言葉。気に食わないことなのだから言ったこと自体は後悔していない。晴翔に気持ちがバレたこともだ。むしろ、気持ちが伝えられて良かったとさえ思っている。


 しかし、晴翔が言うように、かなり『やり過ぎてしまった』ということはある。これでは晴翔に対する印象が悪くなってしまうのは当然である。


 凪咲は気が立っていてそこまでは頭が回らなかったようである。



 しかし、こんな酷いことを言ったにも関わらず、それでも晴翔はまた友達に戻りたいと言ってくれた。


 凪咲もあの頃と同じように戻りたいと思っている。しかしながら、こればっかりは時間に聞いてみるしかないようである。



 そう思いながら凪咲は座っていた。


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