第8話:私は山脇凪咲。ただの女子高生である

【私の名前は山脇凪咲。ただの普通な女子高生である。】



 これには凪咲を知る人が見れば総ツッコミである。



 お前が普通のJKなわけないだろう!!!




 特に晴翔にしてみれば、彼自身凡人だと思い知らされたひとりなのだから人一倍「おまゆう?」とツッコミたいに違いない。


 まあ、晴翔の能力も色々とあって人のことは言えないのだけどね。




【私は特段顔が可愛いわけでもないしスタイルも悪い。性格もひねくれている自覚もある。そんなんだからせめて勉強くらいは頑張らないと将来生きていけないかもしれない。


 そう思って頑張ってきた。おかげさまで高校は首席で入学することができて、新入生代表の挨拶も任されることになる。


 特待生待遇もゲットできて物理的な教科書などを除き、基本的な学費が免除されている。うん。ここまでは人生設計も計画通り!


 そんな風に思っていたが、しっかし、高校に入学して、本当にいろんな人がいると思い知らされる。明らかな人生の転機が訪れたのである。


 いや、歪められたの表現が正しいね。


 私のことを知りたいのであれば、入学式から数日のことを語るのがもっとも早いだろう。


 本当に私の人生、価値観、すべてがめちゃくちゃになった数日だった。でも、悪いとは思っていない。むしろ、ようやく私の人生が始まった!


 そんな風に思える出会い、出来事があったのである。】





 凪咲 入学式。


 入学式が終わりそれぞれ教室に戻る。


【代表挨拶をしているときも思ってたんだけど、いやいやいや、待って待って! これはヤバい!


 えっと、藤枝晴翔君。なにこの優等生イケメンメガネは!? ゲームの世界から転生してきたの?


 うわぁ。こんな人がいるんだ? いわゆる乙女ゲーでいったら優等生イケメン(メガネ含む)に分類される人だね。もちろん、攻略キャラの………。


 って、私はゲームはやらないんだけどね。


 はい。めっちゃタイプ! すべてのツボを押さえられている。私自身はただのブスなのに、めっちゃ面食いという………。


 身の程知らずとはまさに私のこと! べ、別にいいじゃん。今後、付き合うことはもちろん、おそらく友達にもなることはない。


 ひっそりと目の保養くらいは良いでしょ!


 にしても、危うく惚れこんじゃって沼るところだったわ。いったん落ち着けて本当に良かった。


 ふう。危ない危ない。こんな人にマジ惚れしちゃったら、絶対に苦しい恋になっちゃうの確実じゃん。 マジでヤバかったわ。】



 そして、自己紹介が始まる。


 晴翔の自己紹介でもちろん凪咲の心の声が弾け飛ぶのは容易に想像がつく。




【いや、ちょっと待って!!! さっきも待ってもらったけど、ダメ! ホントに待って!


 藤枝君、今、メガネ「クイッ」ってしたよね? その無駄な動作がやばいやばいやばい!!!


 で、なによりもヤバいのが、





 !!!!  声  !!!!





 なになに? このイケメンボイスはなに? マジで高校生なの? どっかの声優さんじゃないの???


 私の性癖すべて突き刺さってくるの本当に止めてくれる???


 ダメ! 本当にもうダメ! お願いだから許してください!!! あああ、こんなの絶対にムリぃぃぃ!!!】


 そうして無事に(?)凪咲は晴翔のことが好きになりましたとさ。(沼るとも言う)





 凪咲 入学式の翌日。


【昨日は藤枝君との強烈な出会いがあった。いわゆる沼るってことなんだと思う。しかし、私を歪めてしまった人はもうひとりいる。



 大谷陽葵である。



 藤枝君は歪めさせられたといって良いと思うが、大谷さんに関しては自ら歪んでしまった感じである。


 そう思うと、ある意味藤枝君よりも強烈な出会いだったかもしれない。】



 凪咲は昨日からちょっと感じでいた。入学式から晴翔の隣にいる女子だ。


 そして、二人のことをニヤニヤしながら見守っている、関係性を知っていそうなクラスメイトに聞いてみた。


「ねえ。藤枝君の隣にいる、大谷さんだっけ? ふたりは仲良いの? 良く一緒にいることが多いみたいだけど………。」



「何言ってんのよ! って、知らない人からしたらしょうがないんだけど、とりあえずは付き合っていないってことみたいなんだけど、付き合ってるようなものだよね!」


「そうそう! あれで付き合っていないっていうんだったら、世の中のカップルほとんど付き合っていないことになるわね。


 それだけ尊い関係性なの。私たちはそんな二人のことが大好きでそして『暖かく見守り隊』ってわけ。」



「な、なるほどね。ありがとう。」


【大谷さん。はっきり言って女の私から見ても可愛いと思っていた。それに美男美女で本当にお似合いだ………。


 でもでも、嫉妬深くてひねくれてる私からしたら、やっぱり羨ましいっていう気持ちのほうが大きくなってくるよな。ああ、羨ましいなあ。私もあれだけ可愛く生まれてきたらね………。


 はっきり言って自分でも分不相応なのはわかる。身の程はわきまえないとね。ここは我慢がまん!】


 とまあ、自分の気持ちを押し込めようとしている凪咲であるが、これまたこの後すぐに具体的には20分後にテンプレ展開で手のひら返しがクルー!!


 となるのは世の中の常である。




 そしてホームルームが始まる。本日はまだ授業が無くて、学校で教科書などの必要なモノの受領と、各種委員会メンバーの選定、4月末に実施される課外学習のチーム分けをするのみである。


 授業は明日からとなっている。



 各種委員会メンバーは順調に決まり、そして課外学習のチーム分けを決めようと先生が条件を言った。


「さて、次は4月末に行われる課外授業の件だ。今年は美術館での絵画鑑賞とそのレポートだ。


 なので、3から4人のチームを作ってくれ! その際は同じ出身の学校でまとまらずに、必ずひとりは別の学校の出身者をチームに入れること。


 じゃあ、さっそく決めてくれ! もし、この時間で決まらないようだったら今週いっぱいまでに決めておいてくれ。」



『はーい。』


 生徒たちは一斉に返事をしておのおの声を掛け始める。そして、晴翔と陽葵も即座に動き出すのである。


 そして、晴翔が声を掛ける。もちろんこの人にである。


「ねえ。山脇さん。良かったら同じチームになってくれないかな? あ、オレの名前は藤枝晴翔、で、こっちは大谷陽葵ね!」



「えっ!? がっ、ひゃい!」


【うげっ! あまりに想定外で急なこととはいえ、なんて声で返事しちゃったんだよ!


 めっちゃ気持ち悪い人みたいじゃんか!】


 なんて、思っていた凪咲であるが、内心声を掛けて貰ったことはとてもうれしく思っていたのは言うまでもなく、また、挙動がおかしすぎて黒歴史だと自責することにもなっている。



「まずは、首席での入学おめでとうって言いたかった。オレも勉強はできるほうだと思っていて、てっきり首席はオレだとばっかり思っていたからね。


 しかも、全科目満点だという噂もある。流石にこんな人には勝てるはずもないし、同じ学年に満点取ってくるような人がいるとは思わなかったよ。


 しかし、今後は山脇さんを追い抜いていくように頑張るつもりだ! 切磋琢磨、仲良くしたいと思ってる。」



【え? 何が起きてるの? 目の前に藤枝君が立っている。


 うわっ!? 眼鏡越しの瞳で私を見てくれている。ヤバいヤバい!


 そ、それに自分の名前を呼ばれた! そのイケメンボイスで………。


 控えめに言ってもヤバい! こ、これはいよいよヤバい! もう、何がヤバいかわからないくらいヤバいわ!?


 ヤバいヤバいヤバい!!!】



 突然晴翔から声を掛けられて、フリーズしながらこのように考えていた凪咲であるが、あ、ちなみにこの間約2秒ほどである。


 そして、この後すぐにさらなる衝撃が待ち構えているのである。




「山脇さーん。はじめましてー! わたし、大谷陽葵ね。よろしくー。


 山脇さんって、本当に頭良いんだね。すごいよすごーい! わたしー、晴翔より頭良い人初めて見たよー。


 ぜひとも、仲良くなりたいって思っててー、一緒のチームになりたいんだー。だから、よろしくねー!」



【うわー! なにこの小動物みたいな可愛い生き物っ!?


 いや、もはや天使のような可愛さやん! 目がおっきすぎやん!?


 髪の毛なんてゆるふわのふわっふわやん! さらに声も可愛過ぎやん!?


 そしてなにより笑顔が可愛過ぎやんかーーー!!!


 自覚しててか無自覚かわからないけどこのあざとさ! それらを超越してて可愛い!!!


 そりゃー、みんな大好きになっちゃうよね。】



 と、そんなことを考えながら、まだまだ状況に頭の処理がおいついていないが、凪咲はひとことだけ振り絞った。


「あ、はい。よろしくお願いします。」



 ぜんぜん状況を理解していない凪咲のことは完全にスルーして陽葵はさらにグイグイと迫ってくるのである。



「え? ほんとー? ありがとー! めっちゃ嬉しいよ! これからよろしくねー!


 じゃあさー、さっそくだけど、凪咲って呼んで良いかなー? 私のこともー、陽葵って呼んでくれたらうれしーなー!」




【うげげげぇぇ!!!?


 初対面でこの距離の詰め方、マジで半端ねぇな? なんなんだこの天使は?


 それでいて不快感を与えないどころか、ますます『スキーッ!!!』ってなってくるこの感情はなんなの???


 この生まれながらに持ってるオーラみたいなものなのか? あと普通にコミュ力。ほんとに化け物クラスにスゲーよ。


 本来なら、間違いなくこの手のあざとい感じの雰囲気と、グイグイ来る系の陽キャタイプって苦手ツートップなんだよね。それを二つとも全面に出してくる。


 苦手を通り越してというか、はっきり言ってめちゃくちゃ嫌いなタイプなんだよね。


 それがなんなんだよ? 好感通り越してめっちゃスキーってなってる。生まれて初めてだよの感覚だよ。】



 凪咲の思考はいろいろと巡っていくのだが、ようやく陽葵への回答を絞り出すようにいった。


「えっと、正直突然すぎて、良く分かっていない状況なんだけど、色々と気を遣ってもらってありがとう。


 そ、それじゃあ、お言葉に甘えて、ひ、陽葵。」



「うわー! ありがとうー! これからよろしくねー! 凪咲!」


 そう言って陽葵は凪咲に抱き着いた。陽葵は感情が高ぶると女の子に対してはすぐに抱き着く癖があるようである。これがまた人を狂わすのである。




【うわあああぁぁ。なんだこれ!?


 い、良いにおいがするぅー!


 身体全体柔らかいなー!


 こんなん人類である限り絶対に抗うことなんてできないじゃんかー!


 そりゃあー、みんながみんな陽葵のこと好きになっちゃうのわかるわー。


 ってか、そう、好きなの! 陽葵が好きなの! 結婚したい! なんていうか、陽葵のことはオレが守る!


 いや、陽葵に守ってもらいたいぃぃぃ!!!


 いやもうなんだろう? 別に女の子を好きとかそんなことは今まで一度も無かったのに、陽葵は別格で格別で、圧倒的可愛さと、圧倒的カリスマ、そんでもってママみ感も半端ないわ!


 こ、これは私の新しい扉が開いてしまったかもしれない。将来に対して明らかに何かしらの影響が発生する扉を開いてしまった………。


 イケメンだけじゃ飽き足らず、美少女までもいけちゃう身体になってしまったかもしれん。まあ、面食いなのはさすが自分といったところか………。】



 凪咲は引き続きフリーズを起こしていて、ようやく現実世界に戻って一息つけるかと思っていた。


 しかしながら、これで終わりかと思っていた? はーい残念。もうひとつ陽葵からの攻撃があるんだよ!


 という出来事が起きる。陽葵の攻撃は容赦なかった。




「ねえねえ、凪咲―。なんか私たちだけでー、名前呼びあうのはちょっと違うよねー?


 晴翔もいるんだしー、三人みんなが名前呼びしないと不公平だよねー?


 そのほうがー、みんなで親近感っていうか、親友って感じするよねー? 晴翔もそれで良いよねー?」



「うっ、クラスメイトとはいえ、流石に昨日今日で出会った女子を名前呼びするのは抵抗があるぞ?


 まあ、陽葵がそういうんだったらってのと、山脇さんもそれで良いというのならオレはそれで良いと思うがどうだろうか?」



「もう、晴翔―! さっそく違うでしょー!」



「なっ!? ひ、陽葵の奴め。ここぞというばかりにツッコミしてきやがって!


 ええっと、コホン。それでは改めて、よろしく凪咲。」



【えっ!?!? な、なになに? いったい何が起きてんのよ?


 この子はいったい何を言っているんだ? まだ私が良いも悪いも言っていないのに!?


 陽葵って、結構強引なところもあるのね? もう、これはますます好きになるやつじゃん!? ホントすきぃぃぃーーー!


 って、それもあるんだけど、いきなり藤枝君のイケメンボイスで『凪咲』って呼んでもらっちゃった♪


 ドンドンと情報押し寄せてくる! もう、頭の処理がまったくもって追い付いていないんだけど!?! えっと、今、私は何をしてるんだっけか?】



 と、さらにフリーズして身動きが取れなくなっていた凪咲に対して、陽葵は催促をするのであった。



「ほらほらー、凪咲もはやくー! どうぞどうぞー!」



「………。は、晴翔、、、くん。」



【うぎゃーーー、藤枝君を晴翔くんって呼んじゃったわよーーー!


 わ、私はいったい何をさせられているんだ? なにこれ罰ゲーム? いや、どっちかって言ったらハッピータイムじゃんか!!!


 うわっ。周りからの視線が熱い!!! でもでも、陽葵さーーん! ぐっじょぶですよーーー! ほんとに愛しています!】



 陽葵と、周りの生徒たちは、照れている凪咲と晴翔をにやにやと見ていたのだった。




【とまあ、こんな感じで二人に出会ってしまったのである。私の自己紹介としてはこれで十分というか、もはやこれがすべてで良いと思う。アハハ。


 そんで、この後のオリエンテーションや課外学習をこなしていき、その流れで3人でいることが当たり前になっていく。


 このふたりは間違いなく学校のカースト上位になっていくんだろうと思いつつ、自分には果たしてついていけるか心配。


 まあでも、このふたりならうまいことしてくれるのかな? とも思っていた。】



 実際に1年のころはほぼずっと3人で行動することになっていた。2年になって、晴翔とは別のクラスになったが、それでも良く3人でいることは多かった。


 そう、凪咲が2年の時のバレンタインデーの日までは。


 そして、小さい声だったが、はっきりという。





「だからこそ、許せないんだよな。私の大事なものをすべて奪っていったあの勅使河原兄妹は………。


 特に妹の勅使河原結愛についてはもはや憎悪しかない!」


 ギッっと目つきが鋭くなり、何かを決意して立ち上がったのだった。


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