第6話:晴翔と悠人
【そういやオレも今となっては人並み感ってことになるんだろうけど、調子に乗っていた時期がある。
可愛い女の子の幼馴染がいて、家もお金持ち、すごく勉強ができて、趣味のゲームもかなりうまいほうだと思っていた。
充実もしていたし、そりゃー、調子に乗るのも当然ではなかろうかね?
で、それも中学までで、高校生になって井の中のなんちゃらってことにことごとく気づかされていき、自分がそうでもないということに打ちのめされるのである。
陽葵に対してはいつもすごーくドヤッていた。今となっては陽葵だけでほんとに良かった。これがもっと広い範囲でドヤッていたら、かなり痛いヤツだし、確実に黒歴史だ。
本当にオレを打ちのめした人はふたりいて、一人は凪咲、全科目100点で合格したという噂がある。
オレも勉強は出来ると自負していて、高校も首席で新入生代表を務めるものだと思っていたくらいなので、本当にこんな人がいるとは思わなかった。
そしてもう一人、それが悠人。勅使河原悠人である。結愛の兄であることは承知の通りだ。
悠人は最初の頃、正直言って敬遠していた。両親のことはすぐに知ったし、なにより高校入学当時から本人の関わってくんなオーラが凄かったからである。
まあ、すぐに手のひら返しがくるーなんだけどね。
で、彼のすごいところはというと………。】
晴翔。高校2年生の始業式。
【陽葵と凪咲とクラスが別になったか。まあ、しょうがないか。そして代わりにと言っては失礼だが、勅使河原悠人。
先生がしゃべっているとき以外はホントにずっとスマホいじってるよな。相変わらず関わんなオーラが半端ない。
君子危うきになんとやら。まあ、関わることはなさそうかな。今年はゆっくり過ごすことになりそうかな?】
とフラグ全開なことを考えている晴翔である。もちろん、これはこの後すぐにテンプレ展開で回収することになる。
始業式が終わり、晴翔はトイレに行ってからクラスに入ろうとした。ドアで人とぶつかりそうになったので避けようとしたら、少しよろけてしまってそのまま悠人の椅子を蹴る形になってしまった。
そして、悠人が持っていたスマホを落としてしまった。
「あ、ごめん! ほんとに申し訳ない。」
そう言って、晴翔は悠人のスマホを取りに行った。そして傷とかが無いかを確認しようとした。
【あ、やべぇ! 画面とか割れていなきゃ良いけど………。
って、この画面、オレもやっているソシャゲじゃん。しかも、このプレイヤーネームは………!?】
呆然と立ち尽くしていたら、悠人がやってきて晴翔から無言でスマホを奪った。その後は引き続き席でゲームをしていた。
【ちょっ、マジかよ? プレイヤーネーム「てゆJIN」 スポンサーが付いているいわゆるプロゲーマーじゃん!?
いろんなゲームに同じ名前でプレイしている、生粋のゲーマーである。】
悠人の一番有名なのはガンシューティングゲームである。2つのガンシューティングゲームに名前があることを確認している。そのうちのひとつが、悠人が所属するゲーム会社が運営しているチームに所属している。
両方のゲームは全世界でアクティブユーザが200万人いるゲームで個人イベントでは絶えずトップ10ランカーである。チーム戦イベントにおいてもプロチームの2つがいつも争っている。
MMORPGにもいて、こちらもプロチームのギルドに所属していてイベントではいつも優勝が2位という驚異的記録を続けている。
あと、なぜか音ゲーまでやっているのである。こちらも上位に名前を連ねている。
晴翔の尊敬するプレイヤーの一人であり、正体は不明だったのだが高校生か? ってネットでは噂になっていた。そして「まさか勅使河原君が!?」と思っていた。
ちなみに悠人の画面にあったゲームはソシャゲで晴翔もやっているのだが、アクティブユーザ10万人の中でランキング的に3ケタは高校生にしてはすごく頑張っていると思っていた。しかし、これら上位ランカーはやはりレベルが違うわけである。
そしてオリエンテーションが終わり本日の学校行事は終了となった。
晴翔はオリエンテーション中もそわそわしていた状態であったが、居ても立っても居られなくさっそく声を掛けるのである。
「勅使河原君!」
晴翔の呼びかけに、さっさと帰ろうとしていた悠人が振り返る。もちろん機嫌が悪そうである。
しかし、そんなことはお構いなしに晴翔は話を続ける。
「さっきスマホを拾ったときに、申し訳ないと思ったのだが画面を見てしまった。
プレイヤーネーム【てゆJIN】って言ったらプロゲーマーのでしょ?」
何のひねりもなく、単刀直入にストレートに聞いてしまう晴翔であった。
悠人はチッと舌打ちまではしなかったが、そんな感じのめんどくさそうな表情で晴翔を見ていた。それは肯定している証拠でもあった。
「で、何?」
恐らくいつもならスルーする悠人であるが、相手が学校でも一目置かれている晴翔であることからも無下にはできなかったようである。
しかし、圧倒的に拒絶したいオーラを発している。
「え? いや、あのう………。」
あからさまに拒絶された雰囲気と、そもそもとして声を掛けた後、何をしゃべるか考えていなかったということもあり、あたふたしてしまう晴翔であった。
「いちおう、そのことは家族も知らない非公開情報にしてるんだけど、黙っておいてくれると助かるんだけど。
まあ、そっちが変な条件をつけてくるっていうんなら別に言いふらしても構わないけどな。会社からめんどくさいことになるからってことで黙ってただけだし。」
「そ、そういう事情なら黙っておくよ。
ただ、オレも同じゲームやってて、他にもガンシューティングゲームもやってたりするんだよ。
だから、できればゲーム友達としても仲良くしたいと思ってるんだけど………?」
「ゲームって、俺より上手いの? 仲良くしたとしてなんか俺にメリットある?」
明らかにめんどくさそうに拒絶したい悠人であったが、そのメーターよりも晴翔の仲良くなりたいメーターのほうが遥かに上回っていた。
悠人の強烈な拒絶にはビビりながらも喰らいつく晴翔であった。
「そりゃ、勅使河原君よりは下手ですよ。君より上手い人って世界に十数人しかいないでしょ?
でも、メリットはある!
超絶技巧の君の腕前だけど、もうちょっと工夫するともう少しスコアが上がるような気がしてるんだよね。まあ、オレには真似できないんだけど。」
「はっ? ふざけんな! 俺よりも下手なのに、何がわかるっていうんだよ?」
「いいや、わかるね! だったら教えてやるから家に行っていい?」
「………!? はっ? 何をどさくさ紛れに?」
「ガンシューティングのあの動画を見る限り、オレの見立てだとあと3万はスコア伸びると思ってる。そうなると、順位が今の7位から3位になるよね?
他のゲームも公開されている動画があるものはすべてチェックしているけど、どれもだいたいスコアが上がると思ってる。
それも証明して見せないといけないけど、まあ、勅使河原君が拒否するなら別に良いけどね。」
「わかったわかった。そこまで言うなら家に来ても良いよ。で、スコアが上がらないようなら今後二度と俺に関わらないでもらえるかな?
そういうことでお願いするよ。」
【ふふふ。うまいこと煽りに乗っかってくれたな! 俗にいう「計画通り!」というやつだな。】
そして晴翔は悠人の家に行くわけだが、のちに「ノコノコと出向いたのはオレだった件」となるのである。
週末の土曜日の午前。晴翔は言われた住所にやってきた。
【地図アプリでもここを示している。標識もでていて「勅使河原」と書いてあるから間違いないんだろう。で、感想を言わしてもらうと、
で、でけぇ!
なんていう家だ。23区ではないとはいえ、東京にこれだけの家を持っているのはほんとにすげぇ!
オレの家もかなり裕福な家庭と思っていたけどまさにレベチ! ケタが違うとはこのことだな。そりゃあみんなが噂するのも無理ないか。】
そんなことを思いながら晴翔はインターホンを押した。すると執事さんが応答した。
「藤枝です。藤枝晴翔と言います。本日、勅使河原君と約束があって来ました。」
「はい。悠人様から伺っております。今、正門の鍵を開けますので、入って頂いて、そのまままっすぐに建物の玄関まで来てください。そこでお待ちしております。」
【この言いようだと、塀の奥には広い庭があるってことか? それにみんなが言うように、本当に本物の執事さんがいるぅ!!
今更なんだけど、これはやべぇところに来てしまったのでは………。】
そんなことを思いながら、言われたとおりに家の中を進んでいった晴翔。そして玄関に執事さんが待っていたのである。
「お待ちしておりました。悠人様の部屋に来るように言われていますのでこのまま私がご案内します。」
「よ、よろしくお願いします。」
玄関も、廊下も広い。引き続きやべぇことを思いながらも部屋まで案内された。そして、やべぇ気持ちがMAXになるのである。
部屋は15畳くらいあるだろうか? 一般の家庭ではリビングに相当しそうな広さだ。そしてベッドがあり、小さいコタツと座椅子が2つ、小さい机と小さい椅子が2つ。
そして、部屋の奥にゲームをするための環境何だろうがPCが数台か置いてある。モニターも複数台あり、株式トレーダーか! といったような環境であった。
晴翔もゲームにはもちろんゲーミングPCを使用しているが普通クラスのものであり、悠人のものはスペックが最上位のものばかりであった。
【やはり、オンラインゲームの上位ランカーってのは、環境から違うもんなんだよね。なんとなくは理解していたけど、こうも目の当たりにするとこう来るものがあるよね。
ちょっとモチベーションが砕かれそう………。】
「じゃっ、さっそくやるか? ガンゲームのほうで良かったよな? で、どうしたら良い?」
悠人はすでにプレイ中であったため、PCの起動やゲームのログインは完了している状態であった。
しかし、ここでひと悶着が発生する。そう、結愛である。
「え? お兄ちゃん!? そいつ誰? 私、人が来るなんて聞いてないんだけど? ちょっと何が起きてんの?」
「あ、結愛には言ってなかったっけ? ごめんごめん。彼はクラスメイトの藤枝君。今日はちょっと一緒にゲームすることになっててね。
あ、藤枝君も、妹がいるけど、とりあえず気にしないでもらえたら。」
【いや、気にしないでって言われても、こんなん流石に気にしないわけにはいかないんだけど………。
で、彼女については学校でも数回見かけたけど、
めっちゃギャル!
近くで見ると本当に迫力あるな。こういう派手な格好をしている子は苦手なんだよね。さらに気も強そうだし………。】
晴翔が固まったまま立っていると、さらに結愛が悠人に喰いついていった。
「ねえ、お兄ちゃん。ほんとにこんな奴と一緒にゲームするの? 私は嫌だよ! 早く帰ってもらってよ!
ってか、お兄ちゃんなんで他人を家に入れてるのよ? まさかお兄ちゃんが人を連れてくるなんて1ミリたりとも想像してなかったんだけど???
なんで???!!!」
「ええい! うるさいよおまえ! こっちの邪魔するっていうんだったら、おまえに出てってもらうからな!」
「あ、お兄ちゃん今、おまえって言った………。」
そして結愛は大人しくなった。悠人が結愛のことを「おまえ」と言うときはかなり怒っている状態である。以前に数回怒られたことがあるが、だいたいこのような状況の時である。
【妹さん、めっちゃこっち睨んでるんだけど………。オレもまさか部屋に妹さんがいるとは思ってなかったしこんな状況になるとは思ってなかった………。
ううう、やりずれぇ。しかしまあ、気を取り直していきますか。こっちはこっちで対応しなきゃなんだよ!】
「じゃ、じゃあ、勅使河原君! イベントのトライアルモードで一回プレイ見せて貰っても良いかな?
あ、それとアイテムって何持っていってんだっけ? それも確認させて!」
晴翔はアイテムを確認し、いざ、悠人がプレイしているところを見る。そしてさらに打ち砕かれるのである。
【こ、これが世界トップ10ランカーの実力か………。
動画サイトで見ているので、実際のプレイ風景も想像は出来てたけど、実際に見てみるとマジモンでやべぇ。
どうやってキャラを動かしているのかさっぱりわからんよ。
最高の機材に、最高のテクニック。わかっててもこんなんマネできるわけないじゃん………。
でも、だからこそもったいない。あんまりアイテムとか人の動画とかは見ないタイプなんだろうね。これなら確実にスコアはあがる。】
そして早速晴翔は助言モードに入るのであった。
「えっと、まず、このスコア2倍アイテムは3つ減らして、3倍アイテムを2個増やして。で、20秒付近で3倍を一個使う。1分ちょうどと2分ちょうどらへんの敵はすべてスルーして進んで行ってくれ。その時の攻撃はちゃんと避けてね。
で、ラスト30秒で3倍を使う。残り5秒で現れる敵が5回に1回くらいボーナス敵になるんだよね。それを倒すとスコアが変わる。
ちょっと一回トライアルモードでやってみて!」
「!? そんだけ?」
「うん。そんだけ。まあ、もともとプレイ自体はほぼ完成されてるからね。で、ほかの人の動画見てるとみんな最後の敵でスコア稼いでたからね。
勅使河原君はそれをやってないみたいだから。」
「わかった。やってみる。」
そしてトライアル終了。晴翔が悠人に声を掛けた。
「あああ、残念! 今回は通常敵だったな。まあ、ある意味トライアルモードで良かったのかもしれんけどね。
でも、これでわかったでしょ? 最後、3倍アイテム効いている中でボーナス敵を倒せば、スコアが3万点ほど伸びるでしょ?」
「くっ、確かに藤枝君の言う通りだ。ってか、これがわかってるんだったらなんでみんなそうしないの?」
「ちょっ! 言ってはいけないことを言ってしまったな!!!
まず、トップ100ランカーのみんなはこれをやっている! 逆にやってなくてトップ10にいる君が異常なんだよね。
で、圧倒的ほとんどの一般人はテクニックも無いし、マシンのスペックも弱いの!
勅使河原君は1分のところと2分のところの敵を避けられるけど、みんなはどっちか、あるいは両方とも攻撃受けちゃうの! で、最後5秒のあそこに届かないの!!!」
「そ、そんなに怒らなくても………。なんかごめん。」
「いいや、もっと言わせてもらうよ! ここまで環境もテクニックもあるのに、なんでもっとアイテムやほかの人のプレイ見て研究しないの?」
「あー、いやー、アイテムなんてイベントごとに内容も変わっていくし、他の人の見るとかめんどくさいし。
別にそこまでやりたいことじゃなくって、純粋にゲームを楽しめたらいいんだよね。」
「え? マジで言ってんの? もう、ほんとにもったいないよ!」
「わかったよ! そこまで言うんだったら、そういう細かいところは藤枝君やってよ。そういや、友達にもなりたいって言ってくれてたよね?
確かに俺にとてもメリットをもたらしてくれる優秀な人材だった。この前言ったこともお詫びする。こちらからお願いするよ!」
「え? マジ? ほんとにいいの?」
「良い良い! よろしく頼む。これからはオレのことは悠人って言ってくれ!」
「わかったよ悠人! じゃあ、オレのことも晴翔でよろしく!」
そしてこの後、悠人のプレイスタイルが大きく変わることになる。もちろんネットでも話題沸騰となるのは想像できるところである。
とまあ、良い感じに話がまとまりかけていた時に、やっぱりこの人が割って入ってきた!
「ちょっと待ってよ! お兄ちゃん!!!
え? どういうこと? ってことはこれからも家に来るってこと? 今日は大人しく我慢してたけど今後ずっとって話が違うよー!」
「あ、結愛! って言うことなんで、これからよろしくな。
あ、晴翔! 改めて紹介しておくよ。こっちは妹の結愛。もしかしたらこの部屋にいるかもしれないけどそんときはよろしく。
ほら、結愛もちゃんと挨拶しておけよ!」
「ちょっとお兄ちゃん! 私の話をスルーしてどさくさに紹介までしないでよ! 私は絶対に認めないからね!」
兄妹で言い合っていて、とても入りずらい雰囲気だったが、とりあえず、晴翔も一言ふり絞って言った。
「よ、よろしくね。結愛、さん………。」
「ちょっ! 何勝手に私の名前言ってんの!? 絶対に許さないんだからね!!!」
「ちょっと結愛。いい加減にしないと怒るよ。」
「えええ? だってだって!!!」
そうして、晴翔はガンシューティングゲームとMMORPGで、新規イベントが始まったら悠人の家に行き、いろいろとゲームをするようになるのであった。
結愛ともなんやかんや文句を言われながら、ほとんど一緒にゲームするわけとなる。なんだかんだで仲良くゲームをやることになり、悠人もニヤニヤと見ているのである。
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