第4話:初めてのデート(お互い生まれて初めて的なw)

 待ち合わせ5分前。例の和食店の前にて。


 待ち合わせには自分が先に到着しておきたい気持ちの晴翔。5分前に到着していた。そして結愛についてというか、勅使河原兄妹に言えるのだが、なぜかふたりとも時間きっちりというのにうるさい。


 悠人と約束して家に行くときも、遅刻して怒られてことがあって、まあ、これはしょうがないのだが、20分ほど早く着いた時があって、この時もすごくチクチクと文句を言われたことがあった。


 なので、なんとなく5分前ということで落ち着いたところがある。そうこう考えているうちに結愛が到着した。


 もちろん時間ちょうどにである。いやはや流石である。




「晴翔!」


 結愛から呼ばれて気が付く晴翔であった。そして振り向く。もちろんそこには結愛が立っていた。


 濃い目の色の膝上までのスカートのワンピースで、薄手のふくらはぎくらいまでの長い丈のコートのようなカーディアンのようなものを羽織っていた。


 晴翔としては、私服の結愛は何度も見ているがギャルと部屋着の結愛しか見たことが無かったのでこれは意表を突かれた。


 そう、このシンプルな感じは晴翔のとても好きな格好で、さらに結愛にもとても似合っていたのである。


 今まで意識してこなかったが、急にデート感が出てきて、晴翔としては珍しく緊張してしまう。


 それを感じ取ってか、結愛がニヤニヤしながら言った。



「あれ? デートってことで緊張でもしているのかな? 晴翔ともあろう方がたかが私とのデートで?」


「ぐっ! 結愛のヤツめ………。」


【た、確かにこんな普通の格好の結愛を見たことなくて俺好みの格好でもある。動揺してしまったのは事実。ならば、ここは褒めちぎる作戦で返すか?】



「動揺………。確かに動揺もするよな! 今日の結愛さんめっちゃ可愛いですよ!」



「フフフ♪ そうでしょう! まあ、私なんで当然でしょうけどね!」



「うんうん。とってもシンプルな感じなのにおしゃれさもしっかり残ってて、すっごくオレの好みな感じだよ!」



「まあ、晴翔ならこういうのが好きなのは調査済みだからね! この程度のおしゃれでもやっぱり私ったら可愛さがあふれちゃうわね!


 それにやっぱり晴翔もいつものシンプルな感じで来ると思ってたからね、ちょうど良かったわ。」



「うーん、なるほどね。結愛ってばやっぱり素材というか、ベースが良いから服がシンプルになった分、顔の可愛さとサイドポニーがより強調されるね。


 学校で人気があるのは知ってるけど、こうしてみると改めて人気があるのがわかる。それにこの感じだと新たなファン層にも推されちゃうじゃない?」



「なっ、ちょっ! は、晴翔ってばなに真顔で言っちゃってくれちゃってるのよ!?


 ほらほら、お、お店に入るわよ!」




 急に普通に褒めてくる晴翔に焦っている結愛である。その結愛にせかされてお店に入っていく二人であった。


 そして各々注文する。



「にしても晴翔ってばランチに和食はほんとに渋いわね。そういや、私、外食ランチで和食なんて初めてかも?」



「え? そう? オレは外食でも家でもランチに和食は普通だけどね? もちろんバーガーだったりとかジャンクっぽいのもあるけど。


 ってか、今日は結愛の誕生日なのに本当にオレの食べたいもので良かったの? それにお母さんからの軍資金があるとはいえ奢ってもらっちゃって。今更だけど。」



「いいのいいの! 昨日のお礼なんだから。ママも含めてのね! それに誕生日って言ってもそんなにも特別感は無いんだから!


 そうだ! ママで思い出したわ! ほんとに昨日は散々だったんだからね! 今日、直接会ったときに言ってやろうと思ってたんだわ! 危うく忘れるところだった。」



「え? どういうこと? なんかオレが悪いみたいに言いたげだけど、オレ関係ないよね?」



「そうよ! 関係ないわよ! むしろ感謝しているくらいよ! でも、言わないと私の気が済まないのよ!!!


 昨日、晴翔が帰ってからそれはもう根掘り葉掘り聞かれたわよ! そしたら執事さんも晴翔のこと褒めだして、また一段ママも興奮しちゃってね。


 ママは確かに軽いところはあるけど、あんな興奮したママは初めて見たわ。」



「やっぱりオレ言いがかりじゃん!」



「で、私への気を逸らすために、お兄ちゃんにも彼女が出来たことをチクったわけよ?


 お兄ちゃんも呼ばれることになっちゃって、いったんは気が逸れたけど、それも瞬間だけで、その後はお兄ちゃんまで晴翔のこと褒めだして、結局3人から根掘り葉掘りされることになったわけ!


 もう、大変だったんだから!」



「なんだ、ただの家族団らんじゃん。」



「そうよ! 家族団らんよ! 晴翔に言われるとめっちゃムカつくけどね!


 なんだか、あのママを見てたらね、長年色々と悩んでたのが急にバカらしくなっちゃったわ。


 ああ、これが大人になるってことなのね? なんて意味不明なことまで考えちゃったわよ!


 でもまあ、ほんといろいろと吹っ切れた。もう、ほんとにもうだよ。」





 そんなこんな会話をしていたら注文の品が届く。御膳でかなり豪華である。

 大人でも少し躊躇してしまうくらいの値段設定のお店で、少なくとも高校生のデートで来るようなお店ではない。


 そんな豪華な食事をふたりは食べ始める。ほどなく会話も無くもくもくと食べていたが結愛が声を掛ける。




「ちょっと私、わかっちゃったわ!


 晴翔ってば、まあ優等生イケメンだとは思っているわ。まあ、せっかく素材は悪くないのに、質素っていうか、もっと悪く言うと地味なんだけどね。」



「おい! それって褒めてるようで褒めてないだろ! ったく、ひどい言われようじゃん………。


 でも、しょうがないじゃんか。おしゃれには興味ないし、興味ないものにはお金は掛けたくないし………。


 一応、必要最低限失礼にならないようには気を付けてるよ? ってか、それを言うなら悠人だって………。」



「私もお兄ちゃんの件は同意だけど、いや、でも、カッコ良くなりすぎてモテてしまうのも寂しくなるというか、でもでも、やっぱりほんとはかっこいいところ見て欲しいというか。うーん、悩ましい………。


 って、今お兄ちゃんは良いのよ! で、話は最後まで聞きなさい!


 晴翔ってば勉強もできてなんでもソツなくこなすのがスマートで、さらに品もあってって思ってたことはあったんだけど、すべては食べ方に表れていたわね!


 ご飯の食べ方がほんとにきれいね? 特に和食だとより一層際立つわね。これが上品な気質を表しているのね。


 なるほど! こういうところだったのね!」



「え? ちょっ!? ずっごい見られてた? なんか急に恥ずかしくなってきたじゃんか! 取り乱しそうになったわ!!!


 まさか結愛から食べ方について言われるなんて………。しかも、なんだかマナーも知ってるようなセリフ言うよね?」



「え? そんなことで照れなくても良いのに! それに晴翔ってば基本的に私のことをバカにしてるけど、こう見えても実は和洋中のテーブルマナーは一通り出来るのよ!


 まあ、めんどくさいからやってないんだけどね!」



「おい! やってないんかい!


 どうせマナーは執事さんとメイドさんに教えてもらったんだよね? もう、がっかりされてると思うよ。ちゃんとやりなよ!


 まあ、オレのテーブルマナーについてはねぇ、実は小さいころ、食べ方が汚くて親とケンカしたことがあってね、それだったらめっちゃ先生レベルまでになってやるから、そうなったらゲームソフト買ってくれよな!


 っていう戦いがあって、ネットの動画をあれこれ見まくってちょー勉強した。まあ、一応ゲームソフトは買ってもらった。


 その時に、これを半年続けたら、さらに欲しいって言ってたゲーム機も買ってやるって言われて続けることに。すっかり習慣化されちゃったって感じ。


 これ、結局は親にいいように踊らされただけだったかも? という気持ちもある。うちの親ってそういうところを煽るのがうまいからな。」



「へぇ、そうなんだ! 良いご両親じゃない! 私もパパもママも大好きだけど、そういう系の言い合いみたいなのは無かったからね。あ、昨日が初めてかも。


 まあ、ご家族で仲が良さそうで羨ましい限りだわ!」





 そして食事が終わり、お会計も済まそうとしていた。


「結愛。ご馳走様! お母さんにもお礼言っておいてね。」


「いえいえ、とってもおいしいお店だったわ! こちらこそありがとね。ちゃんとママにも言っておくわ。


 ってか、どうなったか知らせなさいって口酸っぱくチクチク言われているのよね。」



 そしてふたりは食事と会計を終えて外に出ようとしていた。すると、結構がっつり目に雨が降っていた。もともと濃い曇り空だったがとうとう降り出したようであった。


「うわっ。結構がっつり降っているわね。天気予報はずっとくもりだったのに。私、傘なんて持ってないんだけど?」



「フフフ! テッテレー!!!」


 そう言って晴翔はドヤりながら折り畳みの傘を取り出した。



「あら? 準備良いわね?」



「まあ、リュックにずっと入れているだけなんだけどね。でも、問題発生だな。傘はひとつしかないわけで………。


 一緒に入ることになるわけだけど………?」



「なっ? あ、相合傘って言いたいわけ? なっ、何をそれくらいで、ど、動揺しているのかしら? しら?


 べっ、べ、別に私たち付き合ってるんだから、あ、あ、相合傘くらいなんともないわよ! わよ?


 晴翔こそ、わ、私と相合傘出来てうれしいんじゃないかしら!? ほ、ほら、早く行くわよ! こんなところにいたらほかの方にも邪魔だわ!」


【なんだよ! めっちゃ動揺してんじゃんかよ! かくいうオレも動揺はしているが、引き延ばせばどんどんと動揺が広がっていく。


 ここはサッサとイベントをこなしてしまったほうが得策だ!】



「了解! じゃあ、映画館まで相合傘で行きますかね!」


 晴翔はわざと煽り目に言ったが、これは結愛に対するというより自分を鼓舞する意味のほうが高そうである。


 そして晴翔は傘を差し、ふたりは相合傘で歩き出すのである。





「ちょっと結愛! もうちょっとこっちに寄ってよ! 折り畳み傘でそもそも小さいんだから、これじゃあ、ふたりとも濡れちゃうじゃんかよ!」



「ちょっ? じゅ、十分に寄っているわよ! 何を言ってんのよ!」



「あと、ぎこちなくしていると、余計に恥ずかしさが増しちゃうじゃんか! もっとスムーズ・スマートにしてよ。結愛さん!」



「はっ!? なっ、何言ってんのよ! 晴翔のくせに! め、めっちゃ普通にしているじゃん!?」



「あー、もう、じれったい!」


 そう言って晴翔は結愛の肩をグッと自分のほうへ抱き寄せた。



「ひゃん!」



「ちょっ! へ、変な声出すなよ! こっちも恥ずかしさが増すだろうが!


 ………。


 もしかして嫌だった?」



「べ、別に、へ、変な声なんて、だ、出してないでしょ! それに、い、嫌じゃ、ない、わよ。」



「お、おう。じゃあ、このまま映画館まで歩くぞ!」



「わ、わかったわよ!」









 映画も終わり、感想を言い合いながら駅へ向かう二人であった。相変わらずのくもり空だったが雨は上がっていた。


 そして改札を入る際に、晴翔が声を掛けるのである。



「あ、そういえばこれ! 危うく忘れるところだった。」



「え? マジですか?」



「マジですとも! 昨日、今日だったから、そんな大したものは買えなかったけど。来年はいっしょに買いに行けたらと思う。


 そもそもこういうのは相手が欲しいものをあげたいしね。」



「ありがとうね! これはホントにサプライズ過ぎたよ。開けても良いかしら?」



「もちろん。あ、でもオレのおこずかいなんでそんな期待しないでよ………。」


 そして、結愛は包装を開いていく。中からは入浴剤などのバスグッズが現れた。



「いやー、結愛の欲しいものが正直わからなかったよ。なので、女子高生、誕生日プレゼントで検索して決めさせてもらった。」



「ちょっ! 晴翔さん! もう、こういうところよね。こういうのをスマートにこなしちゃうところが晴翔なんだよね。


 あとさ、これって安くは無いわよね? 晴翔のお小遣いだと結構大変なんじゃ?」



「まあな。こんなグッズは初めて買ったけど、結構高いのな? びっくりしたよ。


 今月はまだゲーム課金前で良かったよ。おかげさまで今月は無課金でイベントをこなさなきゃならんようになったな。」



「ほんとにまさかプレゼントまであるなんて、思ってもみなかった! 今日はホントにありがとね! ご飯も映画も楽しかった。」



「オレのほうこそ、ご飯だけかと思いきや、映画まで奢ってもらって。助かったよ。」



「ご飯も映画も別に良いのよ! ママのお金なんだからね! そんなことよりも、感謝してるんだから!」



「え? なになに? 今日はやたらめったら感謝される日だよね? 他にもなんかあったっけ? ってか、オレのほうが感謝しなくちゃいけない日だと思うんだけど?」



「フフフ。いいのいいの! 感謝したいのは昨日のことだからね。」



「え? 昨日のこと? 送ったこと以外になんかあったっけ?」



「そうなんだけど、そうじゃないっていうか、繰り返してるだけね。私が勝手に感謝してるってことで! ありがとうね! 晴翔!」



「うっ、結愛のこういう意味のわからないところで感謝されるのはちょっと気持ち悪いな………。」



「ちょっ! 晴翔ってばどさくさになに失礼なこと言ってんのよ! 素直に感謝されていなさい!」




 こうしてお互いに電車に乗って帰途に着いた。




 晴翔も結愛も人生初めてのデート。しかも結愛の誕生日というイベント付き。

 ふたりとも少し、ほんとの少しだけだったかもしれないが、意識に変化を灯すのには十分な時間だった。


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