第3話:これはデートのお誘い? いや、これは?

「あ、やっと来た! はるとぉーーー! 一緒に帰ろう!」


 今日も学校が終わり、部活も無いので家に帰ろうと校門まで行った矢先のことであった。そこには結愛が待ち伏せしていた。



「いや、帰ろうって、家の方向逆じゃんか! それにオレは徒歩15分くらいだけど、結愛の家は電車乗らなきゃだろうに?


 まあ、別に暇といえば暇だから、少し寄り道するのは構わないけど?」



「まあ、ここで話していてもなんだし、とりあえず歩きながらね!」


 そう言ってふたりは学校を後にして、近くの公園まで来ていた。そしてベンチに座り話の続きをするのだが………、



「で、結愛ってば何なんよ? 校門で待ち伏せまでして、用があるならケイタイで呼べば良かったじゃん?」



「あ、いやなんて言うか、ちょっと直接言いたかったしね。」



【うーん、結愛の挙動が明らかにおかしいぞ。直接言いたいことがあっても、まずはケイタイ使えば良いだけなのに………。】


 晴翔はいろいろと勘繰りしながらも結愛の話を聞くことにした。



「明日って何の日か知ってる?」



「くっ、また急で唐突な質問だな。テストも終わったし、終業式は月曜日だろ? ただの土曜日としか………。


 あ、いや待て! 確か、結愛の誕生日って3月だったよな? 具体的な日にちまでは知らなかったんだけど。


 もしかして、そういうこと?」



「そう! 正解! さすがは晴翔ね! 察しが良くて助かるわ! 23日なのよね!」



「うわー、めっちゃごめん。すっかり忘れてたというか、そもそもとして意識も無くて、何の準備もしてないよ。ほんとごめん。」



「いえいえ、別に晴翔を責めたいわけじゃないの。それに誕生日そのものはあまり重要じゃないわ!


 そ、それよりもね………。」



「いや、女の子の誕生日イベントってめちゃくちゃ重要なんじゃないのか?」


【それになんなんだ? 自分の誕生日をツッコませておいて、それを重要じゃないと言って、さらにこの何か言いたげな雰囲気………。


 なっ、なにかあるぞ!!!


 挙動がおかしいからな。また何を言ってくるかわかったもんじゃない。気を引き締めていかないと………。】



「じゃあさあ、良かったら明日デートしない?」



「ああ、なるほど! そういうことね! それはもちろんOKだよ! いちおうカレカノなんだし当然じゃないか!


 それにデートしながらプレゼントも一緒に買いに行く感じで良いかな?」


【なんだ、そんなことか! 誕生日デートに誘うから緊張(?)のあまり挙動がおかしかったのか。これくらいのことならいつものように上からマウントで強制的に言ってくるものだと思ってた。


 なんだ! 結愛も可愛いところあるじゃないか! ってか、そんなこと言ったらオレもちょっと意識しちゃうじゃないか!】


 ニヤニヤする晴翔だったが、ここからさらにもう一段、爆発物をぶち込んでくる結愛である。



「え? ほんとに? ありがとう!


 それじゃあさあ、今日は晴翔の家にお泊りしちゃっても良い?」



「………? はっ!? あああ、ごめん。ちょっと今、聞き間違いしかもしれん。」



「いや、だから、今日は晴翔の家に泊まっていい? で、そのまま誕生日デートをしましょう! うん、それがいい! なんならプレゼントはわたしってことで!」



「ちょいちょい! まてぇい!!! 誕生日デートは大賛成なんだけど、お泊りって何? そんなんダメに決まってるでしょ?


 それに結愛の誕生日なのに、自分を差し出すってどういうことよ? オレの誕生日で結愛を欲しいというのなら少しはわからなくもないんだけど?」



「え? そういうこと? じゃあ、私の誕生日なんで晴翔をもらう! 晴翔の家で!」



「おまえはバカか! 何を急にエッチな話題になってんの! 結愛が告白したときにいきなりエッチなことはしません! ってなってたでしょうに!


 ちょっと、今日の結愛ってば変だぞ? いつも以上に………。」



「おい! いつも変に思っているんかい!


 ってか、そんなこと今は良いわ! とにかく、今日は泊めてよ! そんでご両親にもご挨拶させて!


 ほんとにもう頼むからさあ! いや、お願いします! 晴翔様ぁぁ!」



「ちょっと、ほんとにどうしちゃったの? 今日の結愛は変も通り越してキモイよ?」



「ちょっと! 流石にキモイはヒドクない??

 い、いや、別に変でもないし、キモくないよ? ただ、晴翔といたいだけじゃん!

 べ、べ、別に嘘は言っていないわよ?」



「まあ、一緒にいたいって言ってくれたのはうれしいし、ありがとうなんだけどさあ、流石にこれが変じゃないっていうわけにはいかんだろ?


 それだけじゃないんだろ? 何があるん? ほれ、正直に言うてみ!」



「ううううーーーん。もう! 流石に晴翔にはいい加減なことは通用しないわね。わかったわよ! 正直に話すわよ!


 実はね、ママが今日、家に帰ってくるの………。」



「え? 良かったじゃん! ってか、それだったらなおさらオレの家に来てる場合じゃないじゃん! 何言ってんのよ。この子は??」



「いや、そうなんだけどね。なんていうか、その、気まずくてね………。」



「???


 結愛ってばご両親のことは嫌いなんだっけ? どちらかと言ったら大好きなんだと思ってたけど。お兄ちゃん含め家族大好きだったじゃん?」



「うん。そうよ。嫌いじゃないし、っていうか、好きに決まってるじゃない!」



「え? だったら余計にどうしてなんよ?」



「うん。だから気まずくて………。


 ママと会うの久々すぎて、あと、いろいろと考えこんじゃって、今更過ぎてどうやって会ったら良いかわかんないのよ!


 私だってどうしたら良いかわかんないのよ! 晴翔ならある程度私の家の事情知ってるでしょ!」



【うーん、確かに家に何度も行っているので、ほかの人よりは事情は知っているが、だからと言って事情の詳細まではわかるはずもないじゃん………。】


「えっと、なるほど。そっか………。わかった!」



「え? 急になに? 何がわかったの?」



「ハハハ! わからないことがわかった! じゃあ、家に帰ろうか?」



「え? 帰るってどっちの家によ?」



 そして晴翔は結愛の腕を掴んで駅のほうへ向かった。途中、晴翔の母親にもケイタイで帰りが遅くなることを伝えていた。





 そして電車を乗り結愛の最寄り駅から約5分。結愛の家の前まで来ていた。


「ちょっと、晴翔! 待ってよ! まだ心の準備が………。」


 結愛が無駄に抵抗を行うが、晴翔は無慈悲に問答無用でインターホンを鳴らした。


「あああー! バカ! いきなり押すなんてなんてこと………。鬼! 悪魔!」


 晴翔はニヤニヤとしていた。

 そして、結愛が晴翔に罵声を浴びせつつ、腕を引っ張ったりしていたが、それも空しくインターホンから声が聞こえてくる。



「はい。なんでしょうか?」



「晴翔です。藤枝晴翔です。執事さんこんにちは!」



「晴翔様ですね! こんにちは。 本日はどのようなご用件で? 確か、お約束は無かったはずですが?」


 晴翔は何度も家にお邪魔している関係もあり、執事さんとメイドさん二人ともすっかり顔馴染みでインターホン先でも声パスみたいなものであった。



「あ、いえね、ちょっと忘れ物されてたみたいなんで届けにきました。」



「え? そうなんですか? そんなわざわざ届けに頂かなくても、次回でよろしかったのに。」



「いえいえ、おそらく急ぎのものだと思いまして、無くてはこの週末に困ると判断したのでお届けに上がりました。」



「なんにせよ。ありがとうございます。すぐに伺いますね! いつものように塀側のロックは解除しますので、そのまま玄関までお越しください。」


 そして晴翔は抵抗する結愛を引っ張りながら、塀側のドアをくぐり抜けて玄関までやってきた。


 ちょうど同じくして玄関の扉が開き執事さんが現れた。



「晴翔様。わざわざお越しくださいましてありがとうございます。」


 執事は一礼して晴翔のほうを向いた。そして結愛の存在に気付く。晴翔と目を合わせてすべてを察したようである。


「少々お待ちください。奥様を呼んで参ります。」



 そう言ってまた家の中へ入っていった。じたばたしてた結愛もさすがに観念したのか大人しくなった。


【目を合わせただけですべてを察してくれる。流石、出来る大人は違うな!】




 しばらくして結愛の母親が現れた。

 顔の構造が結愛にそっくりで遺伝か!? と思ったのと、なんというか、まとっているオーラみたいなものがまさしく結愛だった。


 ここに結愛がふたりいるんじゃないかって錯覚するほどであった。



「もう、結愛ったら、ケイタイ送ってるのにぜんぜん既読にならないんだもん。心配したわよ!」


「ご、ごめんなさい。ママ。そ、それと、ただいま。」


 苦笑いで答える結愛であった。これで晴翔も隣で一安心の表情であった。



「それと、そちらの方は?」


 結愛の母親に促され、結愛や執事が紹介するよりも前に、晴翔が颯爽と自己紹介を始めるのであった。



「はじめまして。結愛のお母さんでいらっしゃいますね? 私の名前は藤枝晴翔と言います。お宅の結愛さんとは先月よりお付き合いをさせて頂いてます。


 さらに、悠人君とも1年くらいになりますが親友をさせて貰っています。どうぞ、お見知りおきをお願いします。」


 そう言って一礼をした。



「あらまあ、これはご丁寧にありがとうございました。それと結愛を連れて来てくれたってことでしょう? 重ねてお礼を言うわ。


 まあ、こんなところでもあれなので家に上がって頂戴! 今日は結構寒かったから身体も冷えたでしょう? 暖かいものをお出しするわ。」



「お誘いありがとうございます。せっかくなのですが、本日はこのまま帰らせていただきます。」



「あらあら、そんな遠慮なんかしなくて良いのよ? ここで送り返しては失礼にあたるってものだわ。」



「重ねてのお誘い、本当にありがとうございます。しかしながら今日は帰ります。機会はまた何度もあると思いますのでその際にぜひとも! その時には悠人君も一緒に誘って貰えればと思います。」


 晴翔はそう言って、一礼したのち、足早に結愛の家から立ち去ったのであった。



【あれ? そういや結愛を家に届けることで気が付かなかったけど、これっていわゆる彼女のお母さんと面会イベントなんじゃ?


 なんとも無意識に無難に通り過ぎてしまったけど、これって今思うとガクブル案件なんじゃ? でも、下手に緊張しなくて済んだのはありがたかったかな。】






『ブッブッブ!』


 夜 23:00ごろ 自室でゴロゴロしていた晴翔だが、ケイタイのバイブレーションが鳴った。何やら通知が来たようなので晴翔は画面を確認する。


 結愛からのケイタイでのメッセージであった。


 <今日はありがと!ホントに感謝しているわ>

 <まあ、全部が納得いっていないのはあるけど、でも丸く収まったって思ってる>

 <あと、ママもお礼を言っていたわ。お詫びもね。>

 <で、昼間も言ったけど、明日のデートよろしくね!>


【おお! なんだかんだうまくいったみたいじゃん! 強引にでも家にぶち込んだ甲斐があったってわけだ!

 と、それとは別に、相変わらず絵文字もスタンプもない文字だけメッセージだな。結愛ってば一応女子高生だよな?】


 色気の無いメッセージに苦笑いする晴翔であった。そしてさっそくレスを付ける。



 <いえいえ、どういたしまして! まあ、うまくいったらそれはそれでよかったよ!>

 <で、デートって、明日はお母さんと出かけたりしないの?>


 晴翔のレス。人のことは言えず、文字だけのメッセージだ。そしてすぐに既読が付き、返事のメッセージが帰ってきた。ここからはリアルタイムのやりとりだ。


 <ママは明日の10時くらいには帰るんだって>

 <だから昼からなら大丈夫よ>

 <お昼ご飯も一緒に食べましょう!何か食べたいものはあるかしら?私が奢るわ!>

 <っていうのも、ママに明日晴翔と会うかもみたいなこと言ったら、今日のお礼とお詫びにっておこずかい貰っちゃってるのよね>



 <そんな気を遣わなくても、、、それに結愛の誕生日なのに、、、>

 <でも、そういうことなら遠慮はしないほうが良いね!ありがたくご馳走になろうかな

 !>

 <だったら和食が食べたい!普段あんまり行けない店があるんだけどそこで良いか?>



 <わ、和食!?し、渋いわね>

 <でも了解したわ!場所の情報お願い!>

 <で、ご飯食べた後は映画でも見ましょう!ちょうど見たいものがあるのよね!>



 <地図も映画も了解した!>

 <じゃあ、12:30に現地で待ち合わせしましょう!>



 <OK!>





【まさか、こうして結愛と誕生日デートする日が来るなんてな。初めて会った時からは想像もつかなかったよな。


 あれ? そういやオレって陽葵とさえ二人きりで遊びに行くってのは無かったのかも? こ、これは気にしたら負けのヤツだな。今日はもう寝ようか。】


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