第7話 光の階段
教会と墓標の街が崩壊した後、誠は何もない空間に立っていた。周囲は暗闇に包まれ、足元すら確認できない状況だった。影も消え、ただ一人ぼっちで立ち尽くしている。時間の感覚も失い、まるで永遠に続く孤独の中に閉じ込められたような感覚だった。
「次は…どこだ?」誠は自分に問いかけた。だが、返事はなく、ただ無音の世界が広がるだけだった。
しばらくして、暗闇の中に一筋の光が現れた。微かな光が誠の前に差し込み、まるで誘うかのようにゆっくりと広がっていった。誠はその光に引き寄せられるように歩き始めた。
光は次第に強まり、彼の前に浮かび上がったのは一つの階段だった。階段は光でできており、まるで宙に浮かぶように続いている。上へと伸びるその階段は、どこへ向かうのか全くわからなかったが、他に進む道はない。
「この先に…何が待っているんだ…?」誠は不安と期待が入り混じった気持ちで、光の階段に足を踏み入れた。
階段はしっかりとした感触があり、一歩踏み出すごとに輝きが増していく。誠は慎重に一段一段と階段を登っていった。周囲の暗闇は次第に薄れ、代わりに光の道が広がっていく。
登るにつれて、誠は徐々に軽くなっていくような感覚を覚えた。まるで身体が重力から解放され、魂が自由に浮かんでいるかのようだった。その感覚は心地よく、恐怖や不安が次第に薄れていった。
やがて、階段の先に何かが見えてきた。強い光が彼を包み込むように広がり、その向こうには一つの扉があった。扉は古めかしい木製で、しかしその表面は光で覆われ、神聖な雰囲気を醸し出していた。
「これが…出口なのか?」誠は近づきながら、自分に問いかけた。しかし、この場所が他の場所とは違うという確信があった。今までの試練や迷宮とは異なる、何か特別なものを感じていた。
扉の前に立った誠は、しばらくその場で立ち尽くした。扉の向こうには何が待っているのか、自分が本当にそこに行くべきなのか、迷いが頭をよぎった。しかし、これまでの旅路で学んだことが彼を支えた。
「進むしかない…」誠は深呼吸をし、ゆっくりと扉を押し開けた。
扉の向こうには、まばゆいばかりの光が広がっていた。目が眩むほどの光に包まれた誠は、しばらくの間何も見えなかったが、次第に視界が開けていった。
そこには広大な草原が広がっていた。青い空と、柔らかい風が吹き抜けるその場所は、まるで天国のように美しい風景だった。草花が風に揺れ、鳥たちが自由に飛び回っている。遠くには山々がそびえ、湖が輝いていた。
「ここは…?」誠はその風景に圧倒されながら、ゆっくりと草原に足を踏み入れた。足元の草の感触が柔らかく、温かい陽射しが彼を包み込んだ。
「これは現実なのか…?」誠はその美しさに信じられない気持ちで立ち尽くしていた。何もかもが完璧で、ここが今までの迷宮の世界とは全く異なる場所であることは明らかだった。
しばらくその風景に見とれていたが、ふと遠くに人影が見えた。草原の中央に、一人の女性が立っていた。彼女は誠に背を向け、何かを見つめているようだった。
誠はゆっくりとその女性に近づいた。彼女の姿が次第に鮮明になり、彼は驚愕した。女性は、彼の過去に深く関わる人物だった。
「君は…?」誠は声をかけたが、彼女はゆっくりと振り返り、静かな微笑みを浮かべた。
「久しぶりね、誠。」彼女は穏やかな声で答えた。その声には、どこか懐かしい響きがあった。
「どうして…ここに?」誠は戸惑いながら尋ねた。彼女はかつての彼の人生で大切な存在だったが、彼女がここにいる理由が全くわからなかった。
「あなたがここに来るのを待っていたのよ。」彼女は微笑みながら言った。
「待っていた…?どういうことだ?」誠は混乱したまま、彼女の顔を見つめた。
「あなたは、ずっと自分を探していたのでしょう。ここで、あなたの旅は終わるわ。」彼女は穏やかに答えた。
誠はその言葉に動揺しながらも、彼女の言葉に引き込まれていく感覚を覚えた。彼は長い間、迷いと戦い続けてきた。しかし、ここで終わるというのは、どういう意味なのか。
「ここが出口なのか?」誠は再び問いかけた。
彼女はゆっくりと頷き、「そう。ここがあなたの求めていた場所よ。これから先、あなたは自由になれるの。」と言った。
誠はその言葉に心が揺れた。自由…それは彼がずっと求めていたものであり、しかし、同時に恐れていたものでもあった。彼はこの草原での平和な生活が自分を待っているのか、それともさらに何かがあるのか、答えを見つけるために再び自分に問いかけた。
「もしここが本当に出口ならば、俺は進むしかない…」誠は自分に言い聞かせた。彼女が言った通り、ここで彼の旅が終わるのかもしれない。そして、彼はついに自由を手に入れることができるのかもしれない。
彼女は再び微笑み、手を差し出した。「一緒に行きましょう、誠。」
誠は迷わずその手を取った。彼女と共に、光り輝く草原を進んでいく。その先には、未知の世界が待っているかもしれないが、今の誠には恐れるものは何もなかった。
二人は光の中に包まれながら、ゆっくりと草原を歩いていった。そして、誠の心には一つの確信が芽生えていた。これまでの旅が彼を強くし、今ここに立っているのだと。
第7話はここで終わります。誠はついに光の階段を登り、長い旅路の果てに草原にたどり着きました。彼が出会った女性との再会が示すものとは何か、そして誠がついに手に入れる「自由」とは何か、物語はクライマックスに向けて進んでいきます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます