第6話 墓標の街

誠は影の手を握りしめたまま、再び未知の道を進み始めた。森の風景が完全に崩壊していく中、彼はどこへ向かっているのかもわからないまま歩き続けた。周囲の景色は次第に暗闇に包まれ、足元が不安定な土の感触に変わった。


「次の試練とは…?」誠は影に尋ねたが、返ってきたのは無言の沈黙だった。影はただ、無言で先導し続けた。


やがて、誠の目の前に何かが現れた。ぼんやりとした街の輪郭が、闇の中から浮かび上がってくる。街には明かりが灯っているようだが、その光はどこか冷たく、そして不気味なものだった。


「ここは…?」誠は立ち止まり、周囲を見渡した。街の入口には錆びついた看板が立っており、かすれた文字で「墓標の街」と書かれていた。


「墓標の街…?」誠はその言葉に不吉なものを感じたが、影は何も説明しないまま街の中へと足を踏み入れた。誠も仕方なく、その後を追った。


街は荒れ果てていた。建物は崩れかけ、通りにはひび割れた石畳が広がっている。人影は一切見当たらず、まるでゴーストタウンのようだった。時折、風が吹き抜けるたびに、どこからか聞こえる遠い泣き声が誠の耳に届いた。


「ここには何があるんだ?」誠は再び影に問いかけたが、影はただ一つの建物を指差した。そこは古びた教会のような建物で、屋根には尖塔がそびえ立ち、外壁には苔が生い茂っていた。


「そこに入れば、次の道が開かれるだろう。」影は静かに言った。


誠はその言葉に戸惑いを覚えたが、もはや選択肢はないと感じた。彼は影を信じるしかなかった。


教会の扉を押すと、ギィッと軋む音がして、重い扉がゆっくりと開いた。中は薄暗く、冷たい空気が誠の肌を刺すようだった。ステンドグラスから差し込む微かな光が、床に色とりどりの模様を描いている。


「ここで何をすればいいんだ?」誠は再び影に尋ねたが、影はそのまま無言で教会の奥へと歩みを進めた。誠もその後を追いかけ、やがて祭壇の前に立った。


祭壇には一つの古びた石碑が立っていた。石碑には無数の名前が彫られており、その中に見覚えのある名前があった。誠の心臓が一瞬止まるかのように跳ね上がった。


「これは…」


誠の目の前に彫られていた名前は、彼自身のものだった。信じられない気持ちで彼は石碑を見つめ、その冷たい感触を指先で確かめた。自分の名前が刻まれている…それは、彼が既にこの場所で死んでいるということなのだろうか。


「何の冗談だ…」誠は震えながら呟いた。しかし、影は無言のまま、その石碑を指差した。


「この街は、迷い込んだ者の魂を記録する場所だ。」影は静かに説明し始めた。「お前がここに来たということは、お前の魂がこの場所に囚われている証だ。だが、この石碑を通じて、真実に近づくことができる。」


「真実…?」誠は混乱したまま、その言葉を繰り返した。


影は頷き、石碑に手をかざした。「お前が見たもの、感じたもの、すべてがこの石碑に刻まれている。お前が過去に経験した出来事、忘れてしまった記憶、それらがすべてだ。」


その言葉に、誠は思わず石碑に触れた。すると、急に頭の中に無数の映像が流れ込んできた。過去の記憶が次々と蘇り、彼はその中で自分が何をしたのかを思い出し始めた。


彼は、何か重要なものをこの場所で失ったのだ。それは、彼の魂に深く刻まれた何かであり、その喪失が彼をここに引き寄せたのだ。


「これが…俺の真実なのか…?」誠は自分に問いかけたが、答えはなかった。ただ、蘇る記憶の中で、自分が何を失ったのかを知る恐怖が胸を締め付けた。


「お前はこの街を離れることができる。しかし、その前に真実を直視しなければならない。」影は誠に告げた。


「どうすればいい…?」誠は不安な気持ちを抑えきれずに尋ねた。


「この石碑を破壊するのだ。それが、お前を解放する唯一の方法だ。」影は冷静に答えた。


誠は石碑を見つめ、手に力を込めた。しかし、それを破壊するという行為が何を意味するのか、理解できなかった。ただ一つ確かなことは、これが自分の運命を決定づける瞬間であるということだった。


「やるしかない…」誠は心の中で決意し、石碑に力を込めて拳を振り下ろした。


すると、石碑は鋭い音を立てて砕け散り、周囲の空間が一瞬にして変わった。教会の壁が崩れ、街の景色が溶けるように消え去っていった。


誠はその光景に圧倒されながらも、必死に立っていた。崩れゆく世界の中で、彼はようやく自分が何をしているのかを理解した。これは、彼が自分自身を解放するための試練だったのだ。


「次はどこに行けばいい…?」誠は影に問いかけたが、影はもうそこにはいなかった。


ただ一つ残されたのは、彼自身の決意と、未知の道を進む覚悟だった。


第6話はここで終わります。誠は墓標の街で自分自身の魂の真実に向き合い、それを解放するための試練に立ち向かいました。次に待ち受ける運命がどのようなものであるのか、彼の旅はさらに深い謎に包まれ続けます。

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