第5話 見せかけの自由
誠が目を覚ました時、周囲は真っ白な光に包まれていた。目を凝らして見渡すと、そこは広々とした空間で、どこまでも続く白い壁が無機質に立ち並んでいた。天井からは眩しいほどの光が降り注ぎ、目の前の光景はまるで夢の中のようにぼやけて見えた。
「ここは…?」誠は呟いた。声が壁に反響し、不自然なほど大きく響いた。周囲には何もない。ただ広がる白い空間だけだ。
「これは出口なのか?」誠は再び自問した。影はもういないが、どこかでまだ自分を見張っているような感覚があった。足元を確認すると、床は冷たい大理石で覆われており、足を踏み出すたびに音が反響する。
やがて、遠くに何かが見えた。ぼんやりとした形で、何かがそこに立っているようだった。誠はその方向に向かって歩き始めた。歩くたびに、背後で自分の足音が何重にも重なって聞こえ、心の中に不安が広がっていく。
近づくにつれて、それが一つの扉であることがわかった。扉は金属製で、冷たい光を反射している。扉の上には「出口」という文字が、太く赤い文字で書かれていた。
「やっと…出口か…」誠は呟きながら、扉の前に立った。心臓が激しく鼓動し、手が震えた。しかし、ここまで来たのだから、進むしかないという決意が彼を支えていた。
扉に手をかけると、冷たい金属の感触が指に伝わった。ゆっくりと押すと、扉は重く、軋む音を立てて開いた。
扉の向こうには、まったく別の世界が広がっていた。青空が広がり、緑豊かな森が見渡せる。鳥のさえずりや風の音が心地よく響き、誠はしばらくその景色に圧倒された。
「ここが…現実?」誠は疑いを拭えないまま、足を踏み出した。草の感触が足元に伝わり、やわらかな風が彼の頬を撫でた。森の中を歩き始めると、自然の音が心地よく耳に届き、心が落ち着くのを感じた。
「本当に…脱出できたのか?」誠は何度もその言葉を繰り返したが、周囲の景色は変わることなく、彼を取り巻いていた。
やがて、森の奥に一つの小屋が見えてきた。木製の質素な建物で、煙突からは煙が立ち上っている。誠は小屋に近づき、恐る恐る扉をノックした。しばらくすると、扉がゆっくりと開き、中から一人の老人が姿を現した。
「どうしました?」老人は優しい声で尋ねた。
誠はしばらく呆然としていたが、ようやく口を開いた。「ここは…どこなんですか?」
老人は微笑んで答えた。「ここは、あんたが探していた場所じゃろう。迷っていたんじゃな。」
「探していた場所…?」誠はその言葉に困惑しながら、再び周囲を見渡した。
「ここは安全じゃ。もう心配いらんよ。」老人は誠を小屋の中へと招き入れた。
小屋の中は暖かく、どこか懐かしい匂いがした。壁には古びた本棚や道具が並び、暖炉の火が優しく部屋を照らしていた。誠はソファに腰を下ろし、ようやく体の力を抜くことができた。
「ここで少し休むといい。」老人は暖かい飲み物を誠に手渡し、優しく微笑んだ。
誠はその優しさに安堵を感じ、飲み物を一口飲んだ。体にじんわりと温かさが広がり、疲れが少しずつ癒されていくのを感じた。
「ありがとう…」誠は礼を言い、しばらく静かな時間を過ごした。暖炉の火がぱちぱちと音を立て、部屋の中は心地よい静寂に包まれていた。
しかし、その静寂の中に、誠は違和感を覚えた。何かが…おかしい。この穏やかな時間が、まるで不自然に感じられた。
「ここは…本当に現実なのか?」誠は再び疑念を抱き始めた。あの異世界から突然この場所にたどり着いたことが、まるで現実ではなく、何かの作り物のように感じられたのだ。
「ここは…どこなんですか?」誠はもう一度老人に尋ねた。
老人は微笑んだまま、静かに答えた。「ここは、あんたが探していた場所じゃ。もう迷う必要はない。」
その言葉に、誠は背筋が凍る思いをした。何かが間違っている。しかし、それが何なのかはっきりと分からない。ただ、この場所が現実とは違う何かであることは、誠の本能が告げていた。
「ここから…出なければ…」
誠は突然立ち上がり、小屋の外に出た。外の風景は変わらず、青空と森が広がっていたが、その美しさがどこか作り物のように感じられた。
「これは罠だ…」誠は悟った。自分が脱出したと思っていたこの場所こそが、さらに巧妙に作られた罠であることを。
再び森の中を歩き始めると、周囲の風景が徐々に歪み始めた。木々が揺れ、空が暗くなり始めた。誠の心臓は再び鼓動を速め、息が詰まりそうになった。
やがて、目の前に再びあの影が現れた。影は誠に微笑みかけながら、低い声で囁いた。「ここが出口だと言っただろう?でも、本当の出口に辿り着くためには、さらに深く進まなければならない。」
誠は影を睨みつけながら、冷や汗を流した。「まだ出口じゃないというのか?」
影は静かに頷いた。「そうだ。だが、私はお前を本当の出口へ導いてやる。」
誠は迷いながらも、再び影に従うことに決めた。この場所が偽りであることは明らかだった。そして、ここから逃れるためには、影の助けが必要だと感じたからだ。
「次はどこへ行けばいい?」誠は尋ねた。
影は静かに微笑み、手を差し出した。「私と共に来ればいい。次の試練が待っている。」
誠は影の手を握り、再び歩き始めた。森の風景は完全に歪み、周囲の世界が崩壊していくかのように見えた。しかし、誠は恐れずに進むしかなかった。彼が求める本当の出口は、まだ遠い場所にあるのかもしれない。
第5話はここで終わります。誠は一度脱出したかに見えましたが、それはさらに深い罠であったことが明らかになりました。影の案内に従って、誠は再び出口を目指しますが、次に待ち受ける試練は何なのか、物語はさらに謎めいていきます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます