第4話 絶望の階段

誠が影に従って歩き始めた時、その心には強い不安があった。だが、他に選択肢がないことも分かっていた。ノートに書かれていた警告が頭をよぎるたびに、後悔が彼の胸を掠める。しかし、影が言った「出口」という言葉が、僅かながらも希望を与えていた。


薄暗い廊下を進むと、次第に床が傾き始めた。影は無言で歩みを進め、誠はその後を追う。やがて、廊下は広いホールに通じていた。ホールの中央には、螺旋状の階段が下へと続いている。


「この階段を降りるんだ」と影は言った。


誠は階段を見下ろした。下に続く闇の底がどこに繋がっているのかは分からない。その階段は、不自然にねじれながらも、果てしなく続いているように見えた。まるで地獄の深淵へと誘うかのような光景だった。


「これが出口に繋がる道なのか?」誠は不安を隠しきれずに尋ねた。


影は一瞬、何かを考えるように沈黙した後、低い声で答えた。「出口へ行くためには、この階段を降りなければならない。」


その言葉に確信を持つことはできなかったが、誠は一歩を踏み出した。階段は古びた木製で、彼が一歩踏み出すたびに、ギシギシと不気味な音を立てた。影もまた、ゆっくりとその後を追ってきた。


階段を降りるにつれて、誠の頭の中に奇妙な感覚が芽生え始めた。何かがこの場所に違和感を与えている。下へ進むたびに、空間がねじれているような感覚が増していく。そして、気がつくと、階段は明らかに常軌を逸した長さに感じられるようになっていた。


「こんなに長いはずがない…」誠は呟いたが、影は無言のままだった。


次第に、足元の階段が変化し始めた。木製だったはずの階段が、冷たい石に変わり、周囲の壁も石の壁に覆われるようになった。照明は一切なく、暗闇の中で誠は手探りで進むしかなかった。影は彼のすぐ後ろにいて、まるで見守るかのように彼を追っていた。


突然、誠の耳に遠くから響く音が聞こえてきた。それは、まるで遠い場所で誰かが囁いているかのような音だった。


「この道を選んだことを、後悔することになる…」


その言葉が誠の耳に届くと同時に、彼の足が何かに引っかかった。バランスを崩した誠は、階段から転げ落ち、石の床に激しく叩きつけられた。痛みが全身を貫き、彼は呻き声を上げた。


「誠…」影が低く囁いた。「この階段は罠だ。早く進め。」


誠は痛みを堪えながら、再び立ち上がった。足元がふらつき、視界が歪んで見える。それでも、影の言葉に従って階段を下り続けた。だが、先ほどの囁き声が彼の心に深く刺さり、恐怖と疑念が再び膨れ上がった。


やがて、階段の先に微かな光が見えた。誠はその光に向かって足を速めた。影もまた、再び誠の隣に現れ、その様子を静かに見守っていた。


光に近づくと、それが小さな扉から漏れていることに気づいた。扉は半開きになっており、その先には別の空間が広がっているようだった。


「これが出口だ」と影が言った。


誠は息を整え、扉の向こうに目を凝らした。そこに広がるのは、先ほどまでの暗い階段とは対照的に、明るく清潔な空間だった。白い壁と輝く床。まるで、どこかの現実世界に繋がっているような場所だった。


「本当に…これが出口なのか?」


誠は慎重に扉を開け、足を一歩踏み出した。影も後に続いたが、その瞬間、何かが誠の心をざわつかせた。背後で再び囁き声が聞こえてきたのだ。


「信じるな…」


その言葉が誠の脳裏に響いた瞬間、彼は振り返った。だが、そこには誰もいない。影も、囁き声も、すべてが消えていた。唯一残っていたのは、扉の向こうに広がる白い空間だけだった。


「出口なのか、それとも…」誠は再び迷った。しかし、今さら引き返すことはできない。意を決して、彼は扉の向こうへと足を踏み入れた。


扉が静かに閉まり、誠はその瞬間、全身に強烈な圧迫感を感じた。空間が歪み、彼の視界が暗転していく。足元が揺れ、重力が消失する感覚に襲われた。目を開けようとしても、まぶたが重く、意識が遠のいていく。


最後に聞こえたのは、あの影の低い笑い声だった。


第4話はここで終わります。誠は出口と思われる扉を見つけましたが、その選択が本当に正しかったのか、次回の展開が気になりますね。彼が待ち受ける運命は何なのか、物語はさらに深い謎に包まれていきます。

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