第3話 反響する声
目の前に広がる光景は、誠にさらなる不安をもたらした。遠くに見える微かな明かりに向かって進んでいるものの、その光源に近づく気配は全くない。歩いても歩いても、光は一定の距離を保っているかのようだった。
「ここは一体…?」誠は呟いた。だが、答える者は誰もいない。ただ、冷たい風が誠の頬を撫で、彼を前へと誘っているかのようだった。
次第に、耳に届く微かな音が変化し始めた。遠くでかすかに響く声。それは、ただの風の音とは違った。誰かが何かを話しているような、低く囁く声だった。
「またあの声か…」誠は立ち止まり、周囲を見回した。しかし、影はどこにも見当たらなかった。それでも声は確かに聞こえる。誠は意を決して、その声の方へと向かうことにした。声の主が何者であろうと、今はこの状況を打開するための手がかりが欲しかった。
数分歩くと、足元に何かが触れた。誠は足を止め、床を見下ろした。そこには、一冊の古びたノートが落ちていた。黄ばんだ表紙に黒いインクで何かが書かれているが、文字はかすれていて読み取れない。
「誰かがこれを置いていったのか…?」誠はノートを手に取り、慎重にページをめくった。中には、乱雑な文字で書かれたメモがいくつも残されていた。
「ここに入ったのがいつだったか、もう思い出せない。時間が狂っている…」
「影が囁いてくる。彼らの言うことを信じるべきか?」
「出口を見つけた…と思ったが、それは罠だった。再び迷い込んでしまった。」
「ここには出口がないのかもしれない…しかし、何かが俺を外へと導こうとしている。」
誠はページをめくるたびに、胸がざわついた。このノートを書いた人物も、同じようにこの迷路をさまよっていたのだろう。そして、彼が何かを見つけたのか、それとも見つけられなかったのか…結末はどのページにも記されていなかった。
最後のページには、ひとつの言葉が大きく書かれていた。
「信じるな。」
誠はその言葉を見つめながら、強烈な不安に襲われた。「信じるな」とは、影の囁き声を意味しているのだろうか?それとも、このノートの内容自体を疑うべきなのか?
考えがまとまらないまま、誠はノートを閉じてポケットに押し込んだ。再び歩き出すと、先ほどまで遠くにあった光が急に近づいてきた。
「やっと何かに辿り着けるかもしれない…」
光源に向かって足を速めると、やがて小さな部屋が姿を現した。部屋の中央には、古びた机と椅子が置かれており、机の上には一つのランプが灯っていた。明かりが弱々しく揺れる中、誠はその部屋に足を踏み入れた。
「誰かいるのか?」誠は声をかけたが、返事はなかった。だが、机の上にはもう一つのノートが置かれていた。手に取ると、それもまた先ほどのものと同じように古びていたが、内容は異なっていた。
「影を信じるな。それは嘘をついている。」
「しかし、影の奥に本当の出口がある。彼らを欺く方法を見つけなければならない。」
「この場所は、出口を見つけた者に対して、さらに深い迷路を用意している。」
誠は混乱した。影を信じるべきではないのか、それとも影の言うことに従うべきなのか。ノートの内容が矛盾しているように感じられた。どちらのメモも、必死に脱出を求める誰かが残したものであることは間違いないが、その情報が本当に正しいのかどうかは分からない。
思考を巡らせている間に、背後で再び囁き声が聞こえた。振り返ると、そこには再び影が現れていた。今回は前回よりもはっきりとした形を持ち、まるで人間の姿を模しているかのようだった。
「ここから出たいのなら、私の言うことを聞くんだ…」影は低い声で語りかけてきた。「この場所には出口がない。だが、私と共に来れば、お前を導いてやろう。」
誠は躊躇した。ノートの警告が頭をよぎる。「信じるな」という言葉が、彼をその場に縛り付けるようだった。
だが、影の存在があまりにも現実的で、ここから脱出する唯一の手段であるように思えた。
「どうする…?」誠は心の中で自問した。信じるか、信じないか。どちらを選ぶにせよ、誠はこの状況を打開するための行動を起こさなければならないと悟った。
そして、誠は一つの決断を下した。
「…分かった。案内してくれ。」
誠の言葉に影は微かに笑ったように見えた。影はゆっくりと部屋の外へと移動し、誠はその後を追った。
「出口へと向かう道だ」と影は言った。「ただし、気をつけろ。この道には、さらなる罠が待ち受けている。」
誠は心の中で不安を抱きながらも、影に従うことにした。次に何が待ち受けているのか、それが本当に出口への道なのか、誠の旅はさらに深い闇の中へと進んでいった。
第3話はここで終わります。誠はついに影に従う決断をしましたが、その選択が正しかったのかどうかは、まだわかりません。影の案内によって誠は出口を見つけることができるのか、次回が気になりますね。
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