第1章 脱出を目指して
第2話 誘う影
誠は歩き続けていた。疲れは限界に達していたが、立ち止まると背後の気配が一層強まるようで、それが彼の足を前へと動かしていた。黄ばんだ壁紙がどこまでも続くこの迷路は、まるで誠の精神をすり減らすために作られた罠のようだった。
時間の感覚が完全に失われ、どれだけの時間が経ったのかも分からなくなっていた。壁に掛かる時計が狂ったように動き続け、針が指す時間は意味を成さない。ただ、誠の腹時計だけが、少なくとも数時間は経過したことを告げていた。
「どこかに出口があるはずだ…」誠はそう自分に言い聞かせ、疲れた足を引きずりながら歩を進めた。しかし、次の角を曲がった瞬間、彼は立ち止まった。
そこには、これまでとは異なる光景が広がっていた。壁には大きな黒い影が、不気味な形を作り出していた。誠は瞬時に身を引き、壁に身を潜めた。影は動かず、ただそこに存在しているだけのようだったが、その存在感は圧倒的だった。
「何なんだ、あれは…?」
誠は恐る恐る影に近づいてみた。心臓が高鳴り、息が詰まる。すると、影の中心から、微かにだが何かの声が聞こえてきた。耳を澄ますと、それは紛れもなく誰かの囁き声だった。
「助けて…」
その言葉に誠は驚き、思わず後ずさりした。しかし、その声は続けて彼を呼び続ける。
「お願いだ、助けてくれ…」
誠は再び影に近づいた。そこには、目の前の闇の中に、かすかに人の姿が浮かび上がっているのが見えた。彼はどうするべきか迷った。手を差し伸べてその影を救うべきなのか、それとも逃げるべきなのか。
「どうしたら…?」
影に向かって問いかけると、再び声が返ってきた。
「ここから、逃げる方法を知っている…だが、助けが必要だ」
その言葉を聞いた誠は、決断を迫られた。ここで影を助けることで、脱出の手がかりを得られるかもしれない。しかし、何か得体の知れない危険が待ち受けている可能性もあった。
「助けるか、どうするか…」
誠の手は、影の中に伸びていた。震える指先が、冷たい空気を感じながら、ついに影に触れた瞬間、部屋全体が急に暗くなり、誠の視界は完全に奪われた。
「やめろ!」
誠は慌てて手を引っ込めようとしたが、すでに遅かった。影が彼の手を強く掴み、次の瞬間、彼の全身が影に包まれていった。無数の囁き声が彼の耳元でささやき、頭がぐるぐると回り始めた。
そして、誠は気を失った。
誠が目を覚ますと、彼は全く見覚えのない場所に横たわっていた。背中に触れる冷たい床と、頭上に広がる真っ暗な天井。唯一の光は、遠くでちらつく微かな明かりだけだった。
「ここは…?」
誠は立ち上がり、体をふらつかせながらも明かりの方へと向かった。背後にはまだ影の気配が残っているようで、彼を苛む不安は消えないままだった。しかし、この新しい場所が何であるにせよ、誠は再び脱出の希望を胸に秘めて歩き始めた。
次に待ち受ける試練が何であろうと、彼は進むしかない。希望と恐怖の狭間で、誠の冒険は続いていく。
第2話はここで終わります。誠は新たな場所に辿り着きましたが、そこが何処なのか、そして彼を待つ運命が何であるのか、まだ分かりません。続きがどうなるのか、誠がどのようにこのバックルームの迷宮を進んでいくのか、気になりますね。
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