第8話 真実の鏡

誠と女性が草原を歩き続ける中、時間の感覚が次第に曖昧になっていった。まるで無限に続くかのような草原で、二人は無言のまま手をつないで進んでいた。誠は、彼女が導いてくれる先に何が待っているのか、まだ理解できていなかったが、その道が自分にとって重要なものであることを感じていた。


しばらく歩いた後、前方に大きな鏡が現れた。鏡は草原の中央に立っており、まるでその場に自然に存在しているかのようだった。鏡の周囲は光で包まれており、鏡面は清らかに輝いていた。


「これは…何だ?」誠は鏡を見つめながら立ち止まった。女性もまた鏡を見つめ、その顔に淡い微笑みを浮かべた。


「これは、真実の鏡。」彼女は静かに言った。「あなたがここまで来た理由、そしてこれから何をすべきかを示してくれる。」


「真実の鏡…?」誠はその言葉を反芻しながら、ゆっくりと鏡に近づいた。鏡に映るのは、自分の姿だったが、その奥には何かが潜んでいるような不思議な感覚を覚えた。


「この鏡に映るものを、恐れてはならない。」彼女は優しく言った。「あなたが真実を受け入れる覚悟があれば、すべてが明らかになるでしょう。」


誠は深呼吸をし、鏡の前に立った。鏡に映る自分の姿が、次第に変わっていくのを感じた。鏡の中の自分は徐々に若返り、まるで過去の自分が蘇ってくるかのようだった。


突然、誠の心に過去の記憶が鮮明に浮かび上がってきた。それは、彼がずっと忘れようとしてきた痛ましい出来事だった。彼はかつて、大切な人を失った。その喪失の痛みが彼をこの迷宮に引き込んだのだと、今になって気づいた。


「これは…俺の過去…?」誠は驚愕と悲しみの中で、鏡を見つめ続けた。彼の過去が、まるで映画のように鏡の中で展開されていく。


彼は若い頃、ある女性と出会い、深い絆を結んでいた。しかし、ある日突然の事故で彼女を失ってしまった。その喪失感が彼を絶望の淵に追いやり、彼は現実から逃げるようにして迷宮に囚われることとなった。


「これが…俺の真実なのか…?」誠は涙をこらえながら、鏡を見つめ続けた。彼は今まで、彼女の死を受け入れられず、心のどこかで逃げ続けていた。しかし、ここでその事実と向き合うことが、自分の旅の終着点であると理解した。


「あなたは、この迷宮に囚われていたのではなく、自らその中に閉じこもっていたのです。」女性は静かに語りかけた。「今こそ、その鎖を解き放つ時が来たのです。」


誠はその言葉に深く頷いた。彼はこれまで、自分が迷宮に囚われていると信じていたが、実際には自分自身の心が作り出した牢獄に閉じ込められていたのだ。


「俺は…自由になる。」誠は自分に言い聞かせるように呟いた。鏡の中の映像が徐々に薄れ、再び自分自身の姿が映し出された。だが、その目には以前とは異なる決意が宿っていた。


「もう一度、進みましょう。」女性は誠の手を握り直し、鏡の向こうへと導いた。


鏡を通り抜けると、そこには新たな光景が広がっていた。今までの暗闇や不気味な風景とは異なり、暖かく優しい光に包まれた場所だった。草木が風に揺れ、小川が清らかに流れている。空には鳥たちが自由に飛び回っていた。


「ここは…」誠はその風景に見とれながら、言葉を失った。


「ここが、あなたの求めていた自由の場所です。」女性は微笑みながら言った。「過去の重荷を下ろし、ここで新しい人生を始めることができるのです。」


誠はその言葉に胸が熱くなった。彼は長い旅路の果てに、ついに真実と向き合い、自分を解放することができたのだ。


「ありがとう…」誠は心から感謝の気持ちを込めて、彼女に言った。


女性は優しく頷き、「さあ、これからはあなた自身の道を歩んでいってください。」と告げた。そして、彼女の姿は徐々に光に溶け込んでいった。


誠はその光景を見つめながら、自分の心が軽くなっていくのを感じた。彼はついに、自分を縛りつけていた過去から解放されたのだ。そして、これからは自由な魂として、この新しい世界で生きていくことができる。


第8話はここで終わります。誠は「真実の鏡」を通じて、過去の喪失と向き合い、ついに自分を解放することができました。これで彼の旅は終わりを迎え、自由な魂として新しい世界での人生が始まります。

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