3-2

 忙しそうに目的地へと足を運ぶ中年くらいのおじさん、満載の荷車を押す若いお姉さん、路肩に腰を下ろしてくつろぐ老人、猫の子を追いかけてはしゃいだ声を出す子ども……。

 村の表通りは、今日も様々な人でにぎわっている。

「ほら、こっちこっち!」

「マナ、お店は逃げないから」

 

 朝市の人が多い時間を外して、私とマナは最寄りの村へ買い出しに来ていた。

 朝の散歩から戻り、食事を終えた後、ルドから買い物メモを渡され頼まれたのだ。

「申し訳ないのですが、僕は少し調べたいことがありますので」

 いつも通りの、のんびりした口調で言うと、ルドは買い物メモとお金を用意してにっこりと笑う。

「少し多めに入れておきました。おつかいの品を購入した後に、お菓子なり小物なり、二人で買い物を楽しんでください」

 

「速攻で買い物を終わらせて、あとはあたしたちの買い物の時間にしようよ!」

 マナは目を輝かせながら足早にお店からお店へと、メモの商品を購入していく。

 私はというと、マナの背中を追いかけるので精いっぱいだった。

 待って、もうちょっとゆっくり歩こうよ、という私の声が聞こえないのかあえて無視しているのか、マナは私がついてきているのかも確認せずに、どんどん先へ行ってしまう。


「あれ?」

 肩で息をしながらふと見回すと、さっきまで目の前にあったはずのマナの背中が見当たらない。キョロキョロと辺りを見回すが、なにせ幼児の視界は低い。自分よりも大きい物、人に視界が遮られ、思うように周囲を見渡すことができない。

「マナ? マナー!」

 ちらりとこちらを見る大人たち。でもその中にマナの姿はない。

 はぐれた。

 私を避けるように流動する人の波を感じながら、私は途方に暮れてしまう。

 どうしよう、こんな時は動かない方がいいのか、それともマナはまだ遠くには行っていないはずだから、方向に見当をつけて急いで追いかけた方がいいのか。


 次の行動も決められずおろおろとしていると、大きな人が視界を塞ぐようにして私の目の前で足を止めた。

「嬢ちゃん、どうした?」

 見上げると、強面の大男が私を上から見下ろしている。

「迷子か?」

「……」

 周囲の大人たちよりも一回り、いや、二回りくらいは縦にも横にも大きい。赤い頭髪がまるでライオンのたてがみのように、男の顔をさらに猛々しく盛り立てていた。

 私が呆然と見上げていると、大男はニカリと笑って、ある方向を指さす。

「おう、嬢ちゃんが捜してるの、あのねーちゃんじゃねえのか?」

 見れば、確かにマナの姿があった。近くのお店から出てきたようで、こちらに背を向け次のお店に向かって歩き出している。

 追いかけなければ、と数歩ほど駆けだしかけたけれど、男にまだお礼を言っていなかったことに気付いて慌てて振り返る。

 男の姿はすでになかった。あんなに大きな体躯の人が、そうそう雑踏に紛れることもなさそうなのに、どれだけ辺りを見回してみても、男の姿を見つけることはできなかった。


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2024年9月29日 18:00
2024年10月13日 18:00
2024年10月27日 18:00

旅人アルマは動かない 洞貝 渉 @horagai

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