3-3

「もう、本当に体力ないんだから!」

 おつかいが終わるころには、私はくたくたになっていて、村の広間の隅っこでへたり込んでいた。

「ごめん……」

「別にいいけどねー」

 マナは私の隣に座ると、あたしもちょっと疲れたー、どんだけおつかいさせるんだよー! とぼやく。

 肩口で切りそろえられたマナの水色の髪がさらりと揺れ、手癖なのだろう、首から下げた小さな袋に手を添える。

 

「ねえ、アルマ。前から気になってたんだけどさ」

 そのまま小さな袋を手で撫でながら、マナはこちらを見ずに少し歯切れ悪く言葉を続けた。

「あの、ルドって人。正直ちょっと、怪しくない?」

 え、と声が出た。

 なんで、そんなふうに思うの、とこちらは声には出さず、じっとマナを見つめて問いかける。

「だってさ、見たことも聞いたこともない料理作るし」

 まあおいしいんだけどさ、と思い詰めたような表情のマナ。

 私の緊張が解ける。なんだそんなこと。

「あのね、それは私の故郷の料理なの」

「でも、ナポリタンスパゲッティ? とかみそ汁? とかさ。あんなの見たことないし、食材だって、このあたりじゃ絶対手に入らないよ」

「それは、その、いろいろと工面してくれる人がいて……」

「それからさ」

 語気が強くなる。本題はここからのようだ。


「あたし、前にあいつが、テラが好きって言ってるの聞いちゃったんだよ」

 私の高まった緊張が、再び解けた。

 なんだ、そんなこと。

 ルドは別にそれを隠してはいないし、なんならかなりウザイくらいに公言している。

 私が肩の力を抜いたのに気付いたマナは表情を険しくした。

「テラって、災厄の魔女テラのことでしょ? アルマはまだ小さいから知らないのかもしれないけれど、国王に従わない逆賊にも関わらず、その強大すぎる力のせいで誰も手出しできないって話だよ」

 ……逆賊?

 私はきょとんとマナを見る。

 魔女とは一度だけ会ったことがあるけれど、優しそうで不思議な女の人だった。とてもじゃないけれど、逆賊だなんて言われるような人ではないように思う。

 マナはイライラとした様子で小さな袋を握りしめ、吐き捨てるように言った。

「そんな悪い奴が好きだなんて、おかしいんじゃないのかな、あのルドって人」


 突拍子もないような悪戯をしたり、私のことを魔女との愛の結晶だと妄言を吹聴するルドがまともな大人かどうか、おかしいといっても過言ではないのではないか、といったことはひとまず置いておくとして。

「……誰かが誰かを好きだって気持ちに対して、おかしいなんて言うのは、よくないと思う」

 考え考え言葉を紡ぐ私を、マナがハッとしたように見る。

「私は、確かにその魔女が過去になにをしたのか知らない。でも、ルドは別に怪しくもおかしくもないよ。そんなの、マナだってわかってるでしょう?」

 反論はしないけれど、不満そうな顔をするマナ。

 言っていることはわかるけれど、納得はできない、といったところだろうか。

「マナはルドに助けられている。住むところも食べるものもルドが用意してくれて、今日だって調べものがあるって言ってたの、あれはたぶんマナの家がどこにあるのか……」

 私の言葉を遮るように、マナがはあーと大きくため息を吐く。

「ああもう、わかった、わかったよ。あたしが悪かった。変に疑ったりしてごめん」

 じゃあこの話はおしまい! マナは言って大きな動作で立ち上がり、私に手を差し出してきた。

「気分変えて、買い物行こうよ。アルマは何が欲しい?」

 



 私たちは果物をハチミツに付け込んだおやつを二人で分け合いながら、お揃いの髪留めをつけて帰路についていた。

 以前ルドに騙されて食べてしまったひたすらに酸っぱい果物が、ハチミツに浸かることによって甘酸っぱい最高の甘味に様変わりしている。

 私がニマニマと口福を噛みしめていると、

「でもさ、やっぱり、信用し過ぎるのも良くない、かも」

 ぽつりと、マナが漏らす。

 ルドのことだろう。

 反論しようとマナを見上げたけれど、私は言いかけた言葉をすぐに飲み込んだ。

 マナの表情は暗く沈み、そのくせ目だけがぎらついているのだ。


「なにも無ければ、それに越したことはないんだ。でもさ、信じてた相手に裏切られるのは、結構辛いから……」

 マナは、ぎゅっと、首から下げた小さな袋を握りしめる。

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