(13)数学、野球部エース小林隆之の嫉妬

午後の三限目は、数学。

講師は数学者で、元東大教授の杉下智也。

「休み中遊んでばかりいなかったか、確認のため、さっそくテストを行う」

生徒たちは、厳しい顏でテスト用紙を受け取り、一斉に顏をしかめた。


「微分・積分・極限」、「確立」、「複素数」等の問題が書かれている。

(相当な難問らしく、ペンを持つ指が、ほとんど動かない生徒が大半)


ただ、立花隼人だけが異なった。

テスト用紙を受け取った約1分後に、全て解答を記入。

杉下講師に提出したのである。


これには、杉下講師も驚いた。

「かなり、レベルの高い問題を選んだが・・・」

「しかし、完璧な答案、文句のつけようがない」

「これが、スタンフォードのレベルなのか」


ただ、立花隼人への「余計な突っ込み」は遠慮した。

朝の柔道部稲葉監督の一件、英語講師宮沢の一件、お昼の相撲部の一件から、武蔵野学園の教師全体に、「立花隼人への恐怖感」が、広まっていたのである。



始業式当日の授業は三限まで。

放課後、立花隼人は、「お約束通り」、クラスメイトたちとファミレスに向かうことになった。

尚、編入当日から、様々な結果を残した立花隼人に対して、武蔵野学園の学内では、相当な評判が広がっていた。


「柔道部斎藤監督をやっつけたんだって」

「マジ?あのパワハラ、モラハラ大魔王を?」

「英語の陰険宮沢もつぶしたとか」

「へえ・・・さすがスタンフォード首席」

「英語もきれいだったとか、聴きたかったなあ」

「古文もすごいらしい」

「え?スタンフォードなのに?」

「紫式部日記を完璧に理解しているとか」

「それとさ、学食の件聞いたよ」

「あ・・・相撲部を指一本で片手倒立だってね」

「あんな華奢で可愛い顏なのに・・・ナニモノ?」

「数学もパーフェクトらしい」

「うーん・・・お近づきになりたいなあ」

・・・・・・


そのような驚きの声が絶えないなか、中には気に入らない輩もいる。

武蔵野学園でも、人気ナンバーワン、学園カースト一位を自負する、野球部のエース小林隆之(3年:夏の甲子園に出場、2回戦でKO負けして敗退)である。

「よくわからないが・・・気に入らねえ」

「あんなチビ野郎のくせに」

「昨日今日編入したばかりのガキに、学園カーストを崩されてたまるか!」

「高校生の評価は、勉強でも、他のスポーツでもない」

「甲子園に出たか出ないかだ!」

「何しろ、マスコミの注目度が違う」


そう思った野球部のエース小林隆之は、早速、立花隼人を潰したくなった。

「出る杭は打つ」

「何がスタンフォード首席だ!」

「青白い顏しやがって!」

「甲子園球児のほうが、世間一般では格上だ」

「天と地の格差がある」(少なくとも、小林隆之は、そう思い込んでいる)

「さて、どうして、その格差を思い知らせるか」

「思いっきり、ボールをぶつければ、察するだろう」

「そして、スタンフォードを甲子園に土下座させるか」


小林隆之は、元々、他人のアドバイスを聞かない、単純で幼稚な思考しか、できないタイプの人間だった。

(甲子園の2回戦で、自慢のストレートだけに頼り、狙い打たれ、KOされた)

(チームメイトも、監督もカーブ使用を進言したが、相手が俺のストレートを打てるわけがないと、過信したのである)

(ひどいKO負けしても、全く悪びれない)

(「汗で指先がおかしかっただけ」と、何の反省もない)


小林隆之は、ボールを手にした。

そして、学園の庭を、多くのクラスメイトに囲まれて、悠々と歩く立花隼人の頭をめがけて、自慢のストレートを投げ込んだのである。

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