(12)武蔵野学園の処分

警視庁に連行されても、武蔵野学園相撲部監督花田権治は、全く悪びれなかった。

「俺たちは、学園の名誉たる存在だ」

「ちっとやそっとのこと、大目に見て育てるのが、大人ってもんだろ?」

「暴力的行為?仕方ねえだろ?」

「身体がでかいんだ、ちょっと動かしても、何かにぶつかっちまう」

「それが、たまたま、人だったてことだ」

「よけられないのも、不注意と思うぞ?」


「学食での無銭飲食とカツアゲ?」

「馬鹿なことを言うんじゃないよ」

「学園の名誉のために、相撲を取っているんだ」

「お金なんていりません、どうぞ差し上げますと」

「それが、当然じゃねえか」


「そうさ、たまたま、ぶつかった相手が怪我しようが、病院に行こうが、そんなのは大目に見ろよ」

「そんな細かいことを言い過ぎるのが、今風ってらしいが」

「俺は、そんなの大嫌いだ」

「だから、相撲部連中には、気にすんなって、諭している」


「いいから、とっとと釈放してくれよ」

「あんたら、これ以上やると、都議の先生に睨まれるぞ」

(※花田監督が口に出した都議Aは、相撲部主将の父で学園のPTA会長)

「出世を棒に振ってもいいのか?」


ただし、武蔵野学園相撲部監督花田権治の「都議からの圧力」は、何の効果も為さなかった。

都議A自身と息子の「疑惑の数々」が、スポーツマスコミにすっぱ抜かれてしまったのである。

「高校相撲都大会試合で、都議Aが、審判部買収疑惑」

「都議Aの息子は武蔵野学園の相撲部主将、稽古場と学内で数々の暴行とカツアゲ疑惑」

「他校の相撲部監督が、都議Aからの金銭提供を認めた」

(都議Aは、疑惑暴露を受けて、都議の属する会派と政党を離脱した)

(警視庁も、都議自身への、捜査を開始した)

(とても、相撲部監督をかばうどころでは、なかったのである)


武蔵野学園長吉田健治も、窮地に陥っていた。

文科省と都の、高校教育指導担当官僚の追及は厳しい。


「相撲部関連だけでも、数々の暴行、恐喝があったようですね」

「しかも、全て隠蔽処理」

「何故、問題行為を行った相撲部をかばい、被害に遭った生徒には退学処分?」

「何故、我々が、それを知っているかって?」

「極秘の通報があったとだけ申しておきます」

「もちろん、被害に遭った生徒から、全て聞き取りを行ったうえでの追及です」

「この不祥事隠蔽ファイルだけではなく、卒業生を含めての、聞き取り調査を行います」

「もちろん、その過程で、学園首脳陣の責任は、取っていただきます」

「何しろ、官邸も都知事も、議会も立腹です」

「マスコミもSNSも、大炎上です」



相撲部廃部、相撲部生徒への退学処分、学園長等現在の学園首脳部の追放と、一気に事態が進んで行く中、立花隼人は、何食わぬ顔で、一年A組に戻った。


クラス委員長伊藤恵美は、おそるおそる、立花隼人に聞いた。

「立花君って・・・なにもの?」

(他のクラスメイトも同じ疑問を持つのか、一斉に立花隼人を見た)


立花隼人は、目をキョロキョロとして、答えた。

「何か・・・変わったことでも、したのかな」

(実に可愛らしい、小さな声だ)

「普通の高校生、と思うよ」


クラス全員が首を横に振っている。

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