(14) 野球部エース小林隆之の大恥

実に危険な球筋だった。

球速は150㌔を越え、立花隼人と取り巻きの生徒たちに、向かっていく。


ただし、立花隼人は、タダモノではない。

瞬時に取り巻きの集団を抜け出した。

表情一つ変えずに、野球部エース小林隆之の投げた剛球を右手(素手)で捕球。

そのまま、投げ返したのである。


逆に真っ青になったのは、野球部エース小林隆之だった。

とにかく、自分の頭をめがけて飛んで来る球が、とてつもなく速い。

しかも捕球しようにも、グローブを付けていないので素手になる。

「突き指でもしたら、面倒だ」

「でも、あいつは、素手で取った」

「野球部エースの俺が、取れなかったら大恥だ」

(いろんな考えが、頭の中で、駆け巡った)


しかし、迷っている暇はなかった。


「バン!」

顏の前に右手を広げた。

そして、立花隼人の投げ返した球が、その右手に突き刺さった。


「ゴキ!」

嫌な音がした。

次に、強烈な痛みで小林隆之は手首を抑えて、うずくまった。


「痛てえ!」

指の骨はもちろん、手首も折れたようだ。

痛くて、とても立ち上がれない。


「小林さん、大丈夫ですか?」

遠巻きに見ていた野球部のチームメイトが駆け寄って来た。

小林隆之の手のひらを見た。

(痛がっているので、触れない)

(すでに球は、地面に転がっている)

「うわ・・・赤焦げ?」

「出血している」

「医務室に」


立花隼人が、涼しい顔で歩いて来た。

「自業自得では?」

「野球部のエースを気取り、僕の何が気に入らないのか」

「素人集団に、ご自慢の速球を投げ込む」

「怪我人が出たら、どうするつもりなのか?」

「危険で仕方ないから投げ返したら、まともに捕球もできない」

「何が甲子園野球?」

「日本の高校野球のレベルは、素人にも劣ると、立証できたのでは?」


野球部監督の野村も走り寄って来た。

(すでに、編入生立花隼人の恐ろしさは、耳に入っている)

(下手に反論でもしようものなら、即関係機関に通報され、自らの処遇も危険になると理解している)

そのまま、謝罪した。

「立花君、野球部監督の野村だ」

「申し訳ない!」

「今のは、どう見ても、小林が悪い」

「一般学生に球を投げ込むなど、暴力の極み」

「投げ返された球を、しっかり捕れないのも、未熟な技術のため」

「それから一年A組のみんなにも、怖い思いをさせて、申し訳ない」

「学園側にも、率直に事件報告をして、謝罪する」


立花隼人は、表情を変えない。

「では、それなりに」

「謝罪をされるなら、大事にはしません」


踵を返して、一年A組のクラスメイトと歩き出した。

驚きがおさまらないクラスメイトが言い始めた。

「立花君って・・・神?」

「可愛い神だけど、敵からすれば、強くて怖いかも」

「絶対王者かな、マジに」

「美少年絶対王者か・・・いいかも、ずっとついて行きたい」


立花隼人は、表情を変えずに、歩くのみである。

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