(6)宮沢講師の後始末
完全にメンツを失った宮沢英語講師は、怒りに任せ顏を真っ赤にして、学園長室に駆け込んだ。
「学園長、もう、我慢できません!」
「今日編入して来た・・・立花なんとかって奴は、とんでもない野郎ですよ!」
「スタンフォードだか何だか知らないけれど、教師に対するリスペクトに欠けています」
「授業を受ける態度が、酷過ぎます」
「政府の意向も何も、それ以前の学生としての資質に完全に欠けています」
「即刻退学処分を願います」
「もし、学園長が、退学処分を認めなかったら、私が担当する全生徒の内申点を半分以下にさせていただきます」
「立花隼人と一緒になって、私の授業を妨害した罰を与えます」
興奮する宮沢講師を冷ややかに見ていた吉田学園長が、おもむろに口を開いた。
「まず、本日は、文科省の教育審議会委員の、塩野先生にお越しいただいています」
(宮沢講師は、ハッと、高名な英語学者の塩野女史を見た)
(立花隼人にコテンパンにされた悔しさで、完全に冷静さを失っていた)
吉田学園長は(途端にブルブルと震えだした)宮沢講師に、落ち着いた声。
「宮沢先生の授業は、学園長室のモニターで、最初から見ていました」
「ここにおられる塩野先生も、もちろんです」
「塩野先生も、立花君に興味をお持ちなので、一緒に見ていました」
そこまで言って、吉田学園長は、宮沢講師を厳しく見つめた。
「まだ規定の授業時間を終えていないはずでは?」
「それと、モニター動画を見る限り、立花君と生徒たちには、全く非はない」
「勝手に授業を放棄して、学園長室に駆け込むなど、君のほうこそ、教師としての資質に欠けると判断するよ」
塩野女史も、困惑顏で、宮沢講師に迫った。
「立花君の英語と、和訳は、実に素晴らしいと思います」
「宮沢先生の英語発音に対する厳しい指摘も、私から見れば、真っ当なもの」
「確かに宮沢先生の発音は、酷過ぎましたので」
「それなのに、退学処分ですとか、担当する生徒の内申点を半分以下に下げるなんて、聞いたことがありません」
「優秀過ぎる生徒に、教師が逆キレて嫉妬したとしか思えません」
「優秀な生徒を育てるべき教師に、絶対に、あるまじきことです」
完全に色を失った宮沢講師に、吉田学園長は迫った。
「まだ、授業時間は20分残っています」
「これから教室に戻りますか?」
「戻るなら、大目に、寛大な処分で済ませます」
「もし、断るのなら、あなたは自主退職を願います」
「後任については、塩野先生に紹介していただきます」
宮沢講師は、顏を下に向けた。
「自主退職します」
「あれほどの大恥です」
「とても、教壇には立てません」
(プライドだけは高い宮沢講師は、肩を落として、武蔵野学園を出て行った)
さて、宮沢講師が勝手にいなくなった一年A組では、立花隼人を囲んで盛り上がっている。
「英語がかっこいいよね」
「マジ、聴き惚れた」
等は、まともなほうで、
「どこに住んでいるの?」
「彼女は、アメリカ人?」
「いなかったら・・・私と!」
「だめ、抜け駆けは許さん!」
に至っては、立花隼人も苦笑するばかり。
対花隼人は、ようやく周囲に応えた。
「日本の高校生が行く、ファミレスに行ってみたい」
「誰か、教えていただけます?」
クラス委員長の伊藤恵美が、真っ先に手を挙げた。
「はい!ご案内します!」
ただ、それは他の生徒が許さなかった。
結局、放課後に「クラス全員」で、ファミレスに行くことになった。
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