(3)始業式、担任森美智子

学園長室での自己紹介を終え、立花隼人は、後期の始業式で全校生徒に紹介されることになった。

立花隼人が、学園長に先導され、学園ホールのステージに着くと、ホール内は生徒たち及び教師たちで、満員になっていた。


始業式は定例の学園長による訓示から始まった。

「生徒諸君、及び教師諸君」

「後期は、体育祭、文化祭などの学園事業があります」

「また、体育部においては、都大会、全国大会があり、スポーツ推薦を目指す生徒は、好成績が当然、求められます」

「文化部においても、音楽コンクール、美術展等があるので、これも生徒諸君の将来に影響する、重要な挑戦となります」

「そして、新年になれば三年生は大学受験」

「下級生は、進級試験となります」(※進級試験の成績で次年度のクラス分けを決める)

「つまり、ほんの少しでも、気を抜く、怠惰に流れれば、生徒諸君の一生分の幸福を失ってしまう、そんな危険があるのです」

「そのようなことを踏まえ、生徒諸君については苛酷でありますが、栄えある将来のために、この艱難辛苦に懸命に耐え、是非、成功を勝ち取っていただきたい」

「また、教師諸君におかれましては、生徒の状態をしっかりと見極め、単なる成績だけではない、重圧を受けている繊細な心のケアも、抜かりなく行うよう、尽くしていただきく存じます」


少々長めの学園長訓示が終わり、立花隼人は、ステージの中央に呼ばれ、学園長による紹介を受けた。

「本日から、本学園一年A組に編入される、立花隼人君です」

「出身地、住所等の個人情報は省略いたしますが」

「前期は、アメリカのスタンフォード大学付属校に在籍しておりました」

「とある事情により、今期から、本学への編入となります」

「尚、スタンフォード大学付属校では、前期首席を収められております」


立花隼人は、一歩前に進み出た。

「立花隼人と申します、本日より、よろしくお願いいたします」

(明るく、さわやか、ホール全体に響き渡る声だった)


始業式が終わり、ステージの袖に、若い女性が一人立っていた。

その若い女性が、立花隼人の前に立った。(隼人を見つめ、赤い顔になっている)

「一年A組の担任の、森美智子です」

「今から、立花君を教室まで、案内します」

(立花隼人は軽くお辞儀、担任森美智子と一緒に歩き出した)


森美智子のほうが、緊張気味。

「立花君、ごめんなさい、ドキドキして、私のほうが顏が赤いかも」

立花隼人は、少し顔を緩ませた。(森美智子は、その笑顔で、隼人に「落ちた」)

「いえ、僕も同じです、女性には、特に不慣れですので」

森美智子は、少し笑った。(緊張が解けた)

「へえ、そうなんだ、どういう不慣れなの?」

隼人は、可愛い目をクルクルと動かした。

「さて・・・秘密にしておきたいのですが」

森美智子は、立花隼人が、可愛くて面白くて仕方がない。

「ふぅーん、アメリカの話も聞きたいし、その話も聞きたいなあ」


突然、立花隼人が立ち止まり、森美智子の手を握った。

「え・・・立花君、今、ここで?」

「だめよ、私、心の準備が」(勝手な妄想である)


立花隼人は、首を横に振った。

「森先生、一年A組は、この教室と思うのですが」


担任森美智子は、耳まで赤くなった。

一年A組を通り過ぎそうになっていたのである。

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