(2)学園長室

嫌われ者の柔道部斉藤監督を「やっつけた」立花隼人は、登校する生徒たちの笑顔や「あのすごい男の子は何者?」の声を完全にスルーし、広いキャンパスを悠々と歩き、学園長室に入った。


学園長室には、学園長をはじめとして、武蔵野学園の全理事が待ち構えていた。


「本日から通学いたします、立花隼人です」

立花隼人が、丁寧に頭を下げ、自己紹介を行うと、学園長も深く頭を下げた。


「学園長兼理事長の吉田健治と申します」

「首相、官房長官、文部科学大臣からのご配慮、及び政府資金からの高額な給付、実にありがたく存じます」

「アメリカでもトップクラスのスタンフォード大学付属校から、当学園を指名されての、御編入」

「当学園として、実に名誉の限りと存じます」

「立花君におかれましては、随意に学習や学園生活になじまれ、どうか、御忌憚のない御意見を承りたく存じます」


副学園長兼専務理事の木田武が、立花隼人の顔色を伺うような目つき。

「先程は、当学園の柔道部斎藤監督が、誠に失礼をいたしました」

「何分、体育会気質と申しましょうか、気が利かない面が多々ございまして」


立花隼人は表情を変えない。

「私が聴き取った限りではありますが、数十件のセクハラ、パワハラ、モラハラ事例を確認いたしました」

「及び、非常に酒臭い、酒気帯びで生徒に接するなど、教師にあるまじき行為と判断します」

「私の名前を知った瞬間、傲慢極まりない態度を一変させ、卑屈な平身低頭」

「この学園の教育方針は、対する相手で、ガラリと態度を変えてもいい、そういうことなのですね」

「また、私生活において借金がかさみ、そのストレスで酒におぼれ、奥様から離婚を持ち出されているようですね」

「そのような自己管理ひとつできない男性を校門に立たせ、生徒の登校指導を行わせるのは、学園として不見識の極みと判断します」


うろたえ始めた学園側は、全く反論が出来ない。

立花隼人は、そのまま続けた。

「全て官邸、文科省、法務省に報告を致します」

「その後、当局から適宜指導が行われますので、ご了承願います」

学園長吉田健治も、立花隼人に、平身低頭となった。

「実に申し訳ありません」

「柔道部斎藤監督につきましては、当学園で充分指導の上、懲戒処分を行います」

「ですが、学園全員の教師に問題があるわけでは、ないのです」

「是非、政府の温情を期待したいのです」

(他の理事も、一世に深く頭を下げた)


立花隼人は、ようやく愛らしい顔に、なった。

「私も、この武蔵野学園の廃校を望んではおりません」

「生徒によりよい、教育環境となるよう、生徒の立場から、進言させていただきます」

「仮に、斎藤先生の後任にお困りでしたら、政府が適当な人材を提供いたします」

(吉田学園長と理事たちがざわつく中、立花隼人は「誰か」としばらく、聴き取れないような小さな声で電話した)


「前オリンピック日本監督の小川氏の内諾を受けました、いかがですか?」

「この学園出身であること、そして斎藤監督より、現役時代及び指導者としての実績は格上」


武蔵野学園サイドは、諸手をあげて歓迎した。

吉田学園長

「まさか・・・実にありがたい」

「本学園OBとはいえ、高嶺の花でしたので」


立花隼人は、可愛らしい顔のまま、説明した。

「これが、私の政府報告の一例と、政府当局からの指導の一例となります」


吉田学園長は、ようやくホッとした顔。

「実にありがたい限りです」

「心より、歓迎いたします」

「生徒が学びやすい環境を整えるには、生徒の意見が最も大切です」

「そんな大切なことを、おろそかにしておりました」

「これからも、忌憚のない進言をよろしくお願いいたします」


立花隼人は軽く頷いている。

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