(1)初登校

9月1日午前7時30分、立花隼人は、首相官邸を徒歩で出て、東京メトロ「国会議事堂前駅」から千代田線に乗車した。(モバイルスイカ使用も全く問題が無い)

明治神宮前駅で副都心線に乗り換え、その後、各線を乗り継ぎ、無事に学園最寄りの田園調布駅で下車した。


田園調布駅から、目的地「武蔵野学園」までは、徒歩約10分。

立花隼人の周囲を、学生たちが、数多く歩いている。

しかし、今までの電車内、及び現在の通学路において、「立花隼人がロボットである」あるいは、「人間では無い」と気づくものは誰もいない。


強いて聞こえて来るのは、女生徒たちのヒソヒソ声である。


「ねえ、あの男の子、新品の制服だよ」

「なんか、メチャ可愛いかも」

「うん、AI女の子みたいな顏」

「きれいなお肌だなあ、交換したい」

「私、触りたくなって来た」

「小柄だよね、私といい感じかも」

「だめ、私も欲しくなった」


男子生徒たちは、女生徒につられ、立花隼人をチラ見するが、ほとんど反応はない。

(小柄な美少年が、一緒に登校している、その程度の判断だった)


私立武蔵野学園の校門が見えて来た。

生徒たちは、一様に困惑顔になった。

「げ・・・柔道部の斉藤監督だ」

「あいつ、嫌だ」

「マジ、体育会系で無神経で下品」

「セクハラ、モラハラ、パワハラのデパート」

「酒臭い、口臭い、身体汗臭い」

「あいつがこの学期最初の校門立ち?この学期はお先真っ暗だ」


校門が近づくにつれて、柔道部斎藤監督のダミ声が聞こえて来た。

「おい!おはようございますの声が小さい!」

「男だったら、シャンとせんかい!」

「それから、そこの女、スカートが短い、校則をしっかり読め!」

「何だ?口答えするのか?俺に逆らうのか?」

「停学処分にするぞ!このバカ!」


立花隼人が、柔道部斎藤監督の前に立った。

明るく、よく響く声で「おはようございます!」

しかも、丁寧に斎藤監督に深くお辞儀を行った。

(普通の人なら、感心する、あるいは褒められるレベルのもの)


しかし、今までの生徒に怒鳴り散らして、調子に乗ってしまった斎藤監督の怒声は、止まらない。(むしろ、さらに張り上げた)

「おい!お前誰だ!」

「中学生か?それとも女か?」

「ここは高校だぞ?」

「女子供が来るところじゃねえ!」

「とっとと帰れ!」


立花隼人は、表情一つ変えない。

「申し訳ありません、自己紹介が遅れました」

「本日より、本学園に編入する立花隼人と申します」

(鞄から学生手帳を取り出し、確認を求めた)


途端に、柔道部斎藤監督は、慌てた。(アッと思い出したような顏)

「ああ・・・そうか、君が・・・立花君?」

「いや・・・学園長からの通知を半分しか読んでいなくて」

「大声出して、実に申し訳ない」


立花隼人は、愛らしい顔で笑った。

「今までの、斎藤先生の言動は、全て録画済みです」

「かなりなセクハラ、パワハラ、モラハラ発言を確認いたしました」

「このまま、学園長に報告させていただきます」

「新学期早々の、酒気帯びの口臭さも、含めます」


大柄な柔道部斎藤監督が、小柄な立花隼人に深く頭を下げた。

「頼む、見逃してくれ!」

「借金もかさんで、女房に叱られ、ついヤケ酒をしちまった」

「ここでクビやら減給にでもなれば、女房に捨てられる」


立花隼人は、柔道部斎藤監督を完全に無視。

そのまま学園のキャンパスを歩き始めている。

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