第23話 うるまたちの初陣 ⑭
優梨と雄心は、花子さんの本体を攻撃している。
「雄心!本体も同じ攻め方でいくわよ!まず雄心からお願い!」
「よっしゃ!優梨、タイミング逃すな!」
雄心はありったけの霊気を木刀に纏わせ、同時に自分にも霊気を纏った。本体の瘴気に突っ込むためだ。
「うぉおおおお!!」
本体から伸びる瘴気の腕を切り裂いて突っ込んだ雄心は、自分の体に纏う霊気を爆発させた。雄心の体を中心として、本体の胴体に大穴が開く。同時に、体を回転させ、強靱な霊刃で本体の中から瘴気を切り刻む。
安座真雄心の最も強力な技だった。
「すごいよ!雄心!わたしも行く!!」
優梨は本体の側まで素早く間合いを詰め、両腕を大きく開いて腕全体に霊気を広げた。それは優に天井まで届く球体になる。優梨は開いた両腕を、自分の胸の前で交差させた。巨大な二つの霊気の球で、怪異本体は挟まれ、端から消滅していく。
怪異、ブギーマンの本体は、内から雄心の霊刃に、外から優梨の霊球で、粉々の欠片になって消える。最後に残る髑髏は、天井に向かって最後の咆哮を放った。
「がぁあーーーがぁああああ、がぁぁああああ!!」
そして髑髏は、瘴気の塵となって、消えた。
「やった!雄心、やったね!!」
「ああ、優梨、なんとかな、お互いもう、限界か?」
ふたりは、ふぅっと一息つくと、顔を見合わせて天を見上げた。
その目に、天井に渦巻く瘴気が映った。
「雄心!!まだだ!!」
そのとき、漆間の声が響いた。
「安座真さん!母さん!千代を!!」
振り返ると、漆間が3体目の分体を倒すところだった。だがその漆間の先には、霊刃を構える千代の目前で実体化しようとしている巨大な瘴気が見えた。
太斗と幸は瘴気に包まれて倒れている。もうすでに、ふたりの霊気も吸われているだろう。
「まずい!雄心!さっきのも分体よ!でっかい分体だった!!」
「くそ!狙いは結局千代の霊気か!千代がやられちゃまずい!!」
ブギーマンの本体は、大きな分体を残して分離し、天井に隠れたのだ。そして今、千代を襲うため実体化している。
ふたりはもう一度顔を見合わせる。そしてある決断をした。
「うるま!母さんたちは力を使いすぎたの!!すぐには祓えない!あなたが行きなさい!!」
「漆間!千代を頼む!!そこの2体は俺たちがやる!」
漆間は優梨と雄心に目前の分体をまかせ、千代の元に急いだ。
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ブギーマンの本体は、天井から降りるときに太斗と幸を瘴気で包んだのだろう。
千代の顔は恐怖にゆがんでいるが、霊刃を構える気合いは劣っていない。それどころか、千代の体全体が濃密で真っ白な霊気に包まれている。
-真っ白な濃い霊気、千代はあれのお陰で助かった、でもあれは・・
「千代!今行く!!」
僕は霊気を練り上げると同時に自分の体にも霊気を纏った。安座真さんの技だ。
-これで瘴気は僕に触れない、行くぞ!!
僕が踏み込む瞬間、ブギーマンの髑髏が、ぐるりと回って僕を向いた。そして強烈な瘴気を僕にぶつけてくる。
「ぐあっ!!」
強烈な瘴気の塊に押され、僕の足が止まる。瘴気が分厚い。僕の霊気と瘴気がぶつかってお互いに消滅していく。こうなったら力比べだ。
そうしている間にも、ブギーマンは千代に瘴気の触手を伸ばしている。だが千代を包む真っ白な霊気は、それ自身が意思を持つかのようにそれを防ぎ、千代も霊刃を振るって触手を断ち切る。だがそれもいつまで持つか・・
急がなくちゃ。
僕は渾身の気合いで霊気を練り込み、両腕に巨大な霊球を作りだした。これは母さん、真鏡優梨の技だ。だがその大きさは母さんのそれを遙かに上回る。そして僕の霊球は、金色に輝いている。
-これを放てば、僕も力尽きるかもしれない。一発で決める。
「だっああああああーーーーっ!!!」
金色の霊球に挟まれたブギーマンは、その端から霧散していく。だが瘴気を削られながらも、ブギーマンは千代に向かって幾本もの触手を伸ばし、ついに真っ白な霊気を突き破った。
-千代の霊気が吸われる!まずい!!
僕は渾身の力を振り絞って霊球を押し込む。同時に1歩、2歩と歩を進め、ブギーマンとの距離を詰める。
千代は霊刃を振りかざして必死に抵抗しているが、霊気が徐々に失われている、長くは持ちそうにない。それに、ブギーマンは千代の霊気で回復している!
-これじゃ、だめか!
僕は一瞬の判断で霊球を解き、霊気の全てを自分の体に纏わせて、ブギーマンの中心に突っ込んだ。両腕にはもちろん霊刃を作っている。安座真さんの技だ。
瘴気の中心で僕は霊刃を振るう。だけどこれではブギーマンは倒せない。僕には狙いがあった。
霊刃と僕の霊気で刻まれたブギーマンの瘴気は、かなり薄くなっている。
-あそこ!!今だっ!!
僕はブギーマンの瘴気を突き破り、千代に向かって手を伸ばした。僕の体は、ブギーマンの中心に残したまま。
「千代っ、ちよーっ!やちよことのはーー!!手を伸ばせーー!!」
「うるま!!」
千代が竹刀を捨てて手を伸ばす。その指先はわずかに届かないが、千代は躊躇せず床を蹴った。
「うるま、うるまーー!!」
僕の手が、千代の手に届いた。互いの手と手をしっかりと握る。
瞬間!
僕の金色に輝く霊気と、千代の純白に輝く霊気が混ざり合い、爆発的に広がった。それはふたりを中心にして吹き荒れる暴風のように、そこで荒れ狂う雷のように。
禍々しさを増すブギーマンの瘴気と僕たちの霊気がぶつかり、せめぎ合う。その狭間で、霊気と瘴気が竜巻のようにねじれ、爆発的に吹き上がった。
「あががががああがががあああーーー!!」
ブギーマンの瘴気もその濃さを増して膨れ上がり、僕たちの霊気を呑み込もうとする。赤と黒が混ざり、脈動する瘴気は、触れる物全てを腐らせ、そして同化する。
僕たちの霊気が取り込まれれば、もうこいつは押さえられない。
一瞬で消し飛ばす!!
僕は今、千代の霊気も纏っている。それを核にして、僕は全力の霊気をその周りに張り巡らせた。それは純白の核から伸びる幾本もの、黄金色に輝く光の槍。
それぞれの霊槍はあらゆる方向に飛び交い、触れる瘴気を切り裂き、蒸発させ、見る間に削っていく。
僕と千代は握った手に力を込め、輝く霊気を更に強めた。
「いくぞ!千代!!」
「うん!!うるま!」
その瞬間!幾重にも飛び交っていた黄金色の霊槍は収束し、一本の巨大な霊剣となった。
「これで決める!!」
僕たちは握りしめた手をブギーマンに振りかざした。
「打ち込め!千代!!」
「はい!行きます!!」
僕と千代の霊気の剣は、ブギーマンを中天から切り裂く。剣が触れた瞬間、おかっぱ頭の髑髏が、白いシャツが、赤いスカートが、薄紙がメラメラと燃えるように灰になる。
「あああああっっががががあああぁぁぁぁがぁ・・・・・・」
断末魔のブギーマンが放つ悲鳴は、白いソックスと真っ赤な靴が消えるまで続いた。
ブギーマンは、跡形もなく消えた。
僕たちは、勝ったんだ。
そう確信したとき、僕たちの意識が、遠くに飛んだ。
ものすごく、遠くに。
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つづく
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