第16話 ちよの告白
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「それでさ、幸はそいつのこと見てないでしょ?みんなが見たそいつの話聞いて、どう思った?」
僕たち3人は、幸に会って話を聞いている。
教室には僕ら以外誰もいない。気心の知れた僕たちに全部喋って、幸の表情は少しだけ明るくなっていた。
「うん、怖い、もう単純に怖い。だって花子さんって意外と良い子のイメージがあるでしょ?寂しがり屋とか、それが2mもあって、手足が血に濡れてるって、私はすっごく怖い。みんなも怖がったでしょ?」
「うん、ホントに怖がってる。あとさ、幸が追い掛けられた時に聞いた声は?女みたい?それとも男?」
僕は幸の話から、この怪異がどんなものなのか探っていた。でも、幸に刺激を与えすぎるのもまずいから、言葉は選んでいる。
刺激を与えると、変わるんだ。気の色が。
「う~ん、やっぱり女かなぁ、花子さんだもんなぁ」
幸はやはり、みんなの話に引きずられているようだ。一番最初に怪異に遭遇しているから、一番フラットな情報を持ってるのは幸なんだけど。
「漆間、もういいんじゃないか?幸もいろいろ思い出したくないだろうし、とにかく今回の件は幸のせいじゃない。それは間違いないだろ?」
「ああ、もちろんそうだ。ある意味、幸はこの怪異の一番の被害者だよね。でも最後にもうひとつだけ、幸はその子たちに、どうしてRINGしたの?」
「だってすっごく怖くて、でももしかしたら、こんな事があったよ!ってみんなに教えたかっただけなのかも」
「あと、千代には電話で?」
「うん、千代はRINGとかしてないから、いつも電話とか直接会って話すの。それはみんながそうだから」
「そうか、分かった!幸、ちょっと元気が出たみたい。ね、千代」
「うん、ホント、ちょっと元気出た、ね!太斗」
「ああ!来て良かった!俺らで何が出来るかってちょっと思ってたから、すごく良かった!」
幸は、太斗の顔をチラリと見て、にっこりと笑った。
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僕たちは校門を出るところで幸を見送っていた。直接聞いた話はやはり貴重で、僕はいろいろな事を考えていた。だけど、もうひとつ確認しておきたいことがある。
「あのさ、太斗、千代。俺、この怪異のこと、もう少し確かめたいことがあって、時間いいかな」
「そっか、じゃ、その辺のマグドででも話そうか、千代もそこでいい?」
「うん、いいよ」
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僕たちはハンバーガー店の少し奥まったテーブル席に座って、ドリンクを飲みながら話している。
「千代さ、RINGだけじゃなくって、他のSNSもやらないんでしょ?」
「・・・うん」
「それってさ、女子の中では結構大変だと思うんだけど、そういうのやらない理由って、あるの?」
「漆間、それ、千代は言いたくないことかもよ?」
「うん、太斗、そうなんだけど、幸が怪異のことを伝えたみんなの中で、そいつのことを見てないのって、もう千代だけだったろ?きっとなにかあるはずなんだ」
「うん、ホントにもう私だけみたいね。RINGをやってないのが関係あるのか分からないけど、私ね、そういうのって小学生の頃からずっとやってないの。あの頃、もう小学生でも普通にスマホ持ってたから、みんな面白がっていろんなSNSやってたけど、私だけ、絶対やらなかった」
「小学生の頃って10年くらい前か、そう言えば俺も持ってた。逆に持ってないとみんなに置いてかれるって言うか、ちょっと必死だった気もするぞ?」
太斗が驚いて声を上げた。
僕たちの世代は小学生の頃からスマホとネットが当たり前になっていて、クラスや友達でグループを作るのが普通になっていた。もしスマホがないと、それだけで仲間はずれにされたりしたし、ネット上で虐められることも問題になっていた。
「千代はそういうの、仲間はずれとか、怖くなかったの?」
「うん、とにかくやりたくなかった。うん、やりたくなかったの。もう・・・言うね!ふたりには言う!」
千代の目は少し潤んでいるように見える。何かを決心した目だ。
「私ね、小学生の頃、お父さんを亡くしちゃったの・・」
そこからの話は、普段の千代からは想像できないものだった。明るく、誰にも好かれる千代。SNSをやっていなくても、誰も千代を仲間はずれになんかしない。それほど中心的存在の千代に、こんなことがあったなんて。
つづく
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