第15話 うるまたちの初陣 ⑥

 千代が言うには、その後、同じような経験をする女子が続いているらしい。それも、ある女子は幸と同じく女子トイレで、ある女子は部室で、ある女子は図書室で、校内いたる所で起こっている。いつもひとりの時、そしていつも放課後遅い時間に。


「そしてその子たちね、みんな見てるの。追いかけてくるお化けの姿」

「幸は見てなかったよね、でも他の人には見えたんだ。どんな風に見えたの?」


 普通の人に姿が見えるなら、そいつはかなり危ない怪異だ。僕の鳥肌はおそらく、千代からごくわずかにそいつの瘴気を感じるせいだろう。でも、なぜ千代に瘴気が?


 千代が話を続ける。


「それがね、白いシャツに赤いスカートはいてて、白いソックスで、髪はおかっぱ・・」

「ちょ待ってよ!白いシャツ?赤いスカート?おかっぱ?それってまるで」

 太斗が慌てて口を挟んだ。

「うん・・・花子さんなの」

「そんなの小学生の怪談じゃん!高校生がそんなの、見る?」

「でも違うのよ、太斗。確かに花子さんみたいなんだけど、それ、身長が2メートルくらいあるみたいなの」

「に、2メートル?」

「うん、それと、顔はまっくろで見えなくって、手には真っ赤な手袋をしてるみたいで、とてもあの、”花子さん”っていうイメージじゃないの。大人の花子さんって言うか、もっと怖い存在って言うか」


 花子さんのイメージ、それは様々なメディアで皆が見ているイメージ。小学生なら必修科目のように見せられ、刷り込まれるイメージだ。

 僕は千代に聞いた。


「千代はそれ、誰に聞いたの?確認だけど、幸は見てないんだよね」

「うん、私はそれを見た子の話を聞いた子たちからの又聞き。それと幸からもね。困ってるのはそこなの。実は、それを見た子たち全員が体調を崩しちゃってて、休んでる子もいて、登校してる子たちもいつも何かに怯えてるのよ」

「そうか、ところで幸はどうしてる?落ち込んでるんじゃないか?」

 太斗は眉をしかめ、腕組みしながら千代に聞いた。

「うん、すっごく。全員が剣道部の女子で幸の友達だから。それに幸自身はそいつを見てないせいか、体調が悪いわけじゃないし、みんなに、ごめんね、ごめんねって言ってる」

「なるほどな、じゃ漆間、俺らには何ができるかな?」


 太斗は僕の目を見ながらそう言った。きっと、幸のところに行ってやりたいんだろう。


「あぁ、幸に話を聞いてみよう。何ができるかは、それからだ」

「ホント?良かった!漆間たちなら、きっとそう言うと思った!」


 千代は幸を心配して僕たちに相談しに来たんだ。落ち込む親友を見ていられないけど、自分だけではどうしたらいいか分からなかったんだろう。しかし、太斗と僕が行って、幸は元気が出るのかな?

 それと、ひとつ気になることがある。


「あ、千代さ、幸はRINGで繋がってる剣道部の女子たちにそいつのこと送ったんだろ?千代にはそのメッセージ、来てないの?」


 千代はちょっとだけ目を伏せて、すぐに頭を上げて言った。


「うん!私ね、RINGやってないの!そういうのちょっと苦手なのよ」

「へぇ、だからこれまでアドレス交換とかって言ってこなかったんだな!俺、ホントは嫌われてんのかと思ったぜ!」


 太斗は千代の話を聞いて少し嬉しそうだ。僕もSNSは苦手だから、千代の気持ちは分かる。

 そのときはそう思った。


「じゃ、千代、太斗、明日の放課後、幸と話してみよう!」

「おう、分かった!」

「うん!ふたりとも、お願いね!」


 時間はもう夕方をかなり過ぎている。

 僕たちは明日の約束をして、別れた。




つづく

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