第14話 うるまたちの初陣 ⑤

 高校3年生の、冬。


「さっむ~い!ね?漆間!」

「うん、さむいね~!俺、沖縄生まれだから、なおさらすっごく寒いよ!」

「だったね!漆間は沖縄生まれだった!でも、なんで東京に来たんだっけ?」

「え?う~ん、それはねぇ、ちょっとねぇ、なんかねぇ」

「あ、いいからいいから、ごめんね、漆間の家もお母さんと二人だもんね、言えないこともいっぱいだよね」


 僕は、登校中に会った千代と話しながら校門をくぐろうとしていた。僕たち3年生はもうすぐ終わる高校生活を思いつつ、そこから始まる新生活を夢見つつ、ふわふわとした時間を過ごしている。


 僕も千代も、そして太斗も進学志望だった。太斗は剣道の腕を買われ、スポーツ系の大学に進学する予定だ。やっぱり全国レベルの選手は違う。

 僕はこれまで考えていたとおり、沖縄の大学に進学することに決めていた。特に勉強が出来る方ではなかった僕だけど、高校1年からしっかりと準備は進めてきたんだ。どうしても、沖縄の大学に進学したかったから。

 このことはもう、太斗にも千代にも言ってある。


 そしてある日の放課後、僕たちは教室に集まって、いつものように話していた。


「漆間は沖縄の大学なんだよな~、そこって剣道は全然関係ないんだろ?おっしいよなぁ、漆間がひと言、“俺も行く”って言えば、また一緒に剣道できたのに!」

「太斗、それ、誰が惜しいの?漆間は惜しくないよね?私も惜しくない。あんたが惜しいって思ってるだけでしょ?」

「あ、わかった?」


 太斗は常々、自分と同じ大学に行こうって誘ってくれた。曰く、高校で始めた剣道だけど、たった2年ちょいでここまで強くなるのは異常だそうだ。あり得ないって。


 そんな、いつもと同じ他愛ない会話、しばらく話して、じゃねって解散、そう思っていたら、今日は千代が思い詰めた顔をして話し出した。


「ところでさ、あのさ」

 声を落とす千代。こんなことは滅多に無い。いや、初めてかもしれない。


「え?どうしたの?千代のそんな困った声って、珍しい」

 僕は思わず千代に聞いてみた。


「ん~、私だってこんな声になることもあるよ!だってさ、ちょっと、困っててさ・・」

 僕と太斗は目を見合わせた。こんな千代は本当に初めてだ。そして僕たちは、目線を合わせながら頷いた。


「おい千代!俺らに言いたいことがあるなら言え!返り討ちにしてくれる!!」

 千代の目が少し潤む。


「ば!太斗、何言ってんの!あのさ、千代、今のを翻訳すると~」

「分かってるよ、太斗のバカの言いたいことくらい。助けてくれるって事でしょ?」

「そう、そのとおり!とにかくさ、何でも言ってよ、俺らが力になるからさ」

「うん、ありがと、漆間、太斗」


 それから僕たちは、千代の話を聞いた。それはちょっと信じられないような話だった。

 始まりは、中畑幸なかはたさちだった。

 さちは剣道部でも千代と並ぶ中心選手、そして千代の親友でもある。


「それでね、幸が放課後、3階の女子トイレの前を通りかかったとき、スマホが鳴ったんだって。見たらRINGの着信なんだけど、設定してる着信音じゃなかったから、おかしいな?って立ち止まって確認したらしいの。そしたらね、トイレの中から声がするんだって」

「う~ん、どっかで聞いたような話だなぁ、それでトイレに入ったら、一番奥の個室がギィ~って開いてぇ・・・」


 太斗は眉をひそめるけど、僕は千代の話を聞いて鳥肌が立っていた。どうも千代の霊気の色がおかしいんだ。


「私もね、そんな気がしたんだけど、違うの。幸はね、なんだろ?って思ったけど、きっと誰かが使ってるんだなって、通り過ぎようとしたら・・」

「そしたら?」

「またスマホが鳴り出して、しかもまた別のRINGの着信音で、ハッとしてスマホの画面を見たら、メッセージが入ってて、“こっちこっち”って」

「こっちこっち?女子トイレってこと?」

「うん、そしたらね、女子トイレの中からも、“こっちこっち、こっち来て”って聞こえたんだって!」

「そ、それで?」

「うん、あんまり気味が悪いから、幸は走って逃げたんだけど、今度は後ろから聞こえたらしいの・・」

「な、なにが聞こえたの?」


 太斗はゴクリと喉を鳴らした。僕の鳥肌はもう全身に立っている。


「バタバタバタって追いかけてくる足音と、こっちこっちこっちこっち!逃げるな!!っていう声!」

「ぎゃーー!なにそれ!小学校の怪談みたいじゃん!」


 太斗は両腕を組んで二の腕をさすっている。本当に小学生がするような王道の怪談話だ。でも、千代の話はそれで終わらなかった。


「でね、幸がRINGで剣道部の女子たちにその話を回したんだけど・・」



つづく


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