第13話 うるまたちの初陣 ④

 僕たちは、高校3年生になっていた。


 高校剣道の大会は夏に集中している。高校2年の終わりから高校3年の夏まで、僕たちは剣道に集中した。

 太斗は我が部の主将として奮闘したが、全国目前で敗れた。僕も選手として名を連ね、精一杯力を尽くしたが、やはり超高校級の闘いには力及ばなかった。ただ僕の名前は、剣道を始めてわずか2年余りの選手として大いに注目された。

 だが、負けは負けだ。

 千代も注目選手として期待されたが、全国には一歩届かなかった。


 僕たちの剣道部生活は、終わった。


「あーー終わった!なぁ漆間!これからどうする?OBとして後輩に稽古付けてやるか?暇だし」

「太斗、そういうのって煙たいと思わないのか?空気読めよ」

「あはは!そうだな!で、漆間も進学だろ?これから受験勉強一直線!どこに行くんだ?決めてんのか?」

「ん、うん、そうだなぁ」

 僕の頭の中に、志望校は一校しかない。だけどまだ言えない。そう思っていた。


 僕たちがそんなことを話しているところに、千代が通りかかった。


「お!千代!おまえもよっぽど暇してるな?」

「しっつれいね!太斗、私はあんたみたいな暇人じゃないの!今だって部活に顔出して、後輩の指導してきたんだから!」

「うわっ、漆間、ここにいたぞ?言ってやれよ~、空気読めって!」

「え?なんの空気?酸素?二酸化炭素?字なら読めるよ?」

 千代は意外に、中々の天然だった。

「千代さぁ、それで大学通ると思ってんのか?よっぽど勉強しないと、どこにも行けないんじゃないか?」

「もう、失礼だわ、私、あんたよりよっぽど成績いいんだから!!多分!」

 千代はやっぱり天然だ。剣道着を着ているときとは別人みたい。


「へぇ、千代って勉強出来たんだ。剣道ばっかりやってると思った」

「そ、そう言う漆間くんはどうなの?やっぱり剣道ばっかりやってたでしょ?太斗ほどじゃないけど、受験は、その~、どこに行くのかな?」

「う~ん、俺ね、もう行くとこ決めてるんだけどさ、う~ん、ちょっと頑張れば大丈夫かなぁ」

「げげ!まじか!漆間はもう決めてんの?で、大丈夫そうって?なんだよそれ!いつの間に勉強してんのさ」

「あはは、言ってなかったか、俺の母様ははさまは、学校の先生なのだよ。だからまぁ、その辺は抜かりなしって言うか、ね?」

「うぁ!反則だ!!千代!ここに反則負けの人がいるぞ?」

「え?漆間くんのお母さんって先生だったの?じゃ、どこに進学するの?大学なんだよね?」

「うん、大学。でもね、決めてはいるけど、もう少し考えようかなって」

「そうなんだ。じゃ、今度教えてね!必ずだよ?」

 僕は剣道を通じて強くなった。剣道はもちろんだが、安座真さんには剣道の他に、霊気の使い方を習っていたんだ。みんなには剣道の稽古にしか見えなかったはずだけど、僕と安座真さんの稽古は全て、霊気を鍛錬するためのものだった。


 そしてもうひとつ、安座真さんがこれまで経験してきた不可思議な現象、特に沖縄でのことを追体験させてもらっていた。それで僕の霊力は、2年前と比較にならないぐらい大きくなっているし、様々な怪異に対する知識も身についていた。安座真さんの話では、僕の力は安座真さんを遙かに超えているらしい。


 でも、あともう少し、もう少しだけ強くなりたい。安座真さんに教えてもらったことだけではなく、自分の経験として、強くなりたいんだ。


 そうだ、僕に必要なのは、実戦経験だ。




つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る