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 『6d<シックス・デイ>』。実に示唆的なネーミングだ。思うに、主催者にはネオ・ユーラシア主義者がいるのだろう。北方スラヴロシア人らが幾度にも渡り戦争を行った原因となり、その首魁たる思想人は娘を戦争で失った。彼らが歴史の終わりソ連崩壊によって寸断された国土を精神的に統合するために求められたこの思想において、キリスト教は特有の地位を持つ。……まあ、もっともこれもファスト動画で得た知識だ。俺には正教とカトリックとプロテスタントが、同じ教祖イエス・キリストを祀っているにも関わらずどうにも仲が悪く、十字架の形状一つとってもそれぞれに違いがある、程度のことしか分からない。

 プロゲーミングイベント『6d<シックス・デイ>』。それは六日間に渡って行われる。初日にド古典のゲームジャンルから始まり、六日目に最新のコンテンツ。そして七日目には閉幕となる。そう、七日目は安息日なのだ。イベント終了の儀が執り行われるだけだ。このネーミングが創世記ジェネシスを由来にしているのは明白で、冷戦の崩壊から『歴史の終わり』フクヤマ時代を経て、クトゥルフ世紀センと呼称されるに至った現代においても尚、このようなアナクロなネーミングセンスがまかり通るのだから驚きだ。人間がどのように発達――それは全く奇形的に!――しようと、人間自体の根本精神は変革を許容しないのやもしれない。

 さて、『6d<シックス・デイ>』では幾つかのタイトルマッチが並行で実施される。

 先にLazarus16が対戦をした『グランドファイター20XX』。止揚アウフヘーベンされた古典的RTSタイトル『テルミナートル・チェス』。しかしそれらよりも俺の目を惹くのがFPS『バトル・フロントライン』だった。こいつは対戦FPSというよりはパーティーゲームの類で、やってりゃ面白いのでやる奴は多いが、クソ真面目にやっている奴はそんなにいない。というようなシリーズだった。この『バトル・フロントライン』にしてみても、ここ最近続編を出してもパっとせず、第一次世界大戦をモチーフにしたゲームばっかり持て囃されるもんだから会社側が開き直り、全くウケなかった警察とマフィアに分かれて対戦するバランス調整不足のクソゲータイトルを"なぜか"ブラッシュアップし製作したタイトルで、確かにバランスこそマシになったが、今度はハード過ぎて既存ファンから冷ややかな目線を向けられた……というタイトルだった。とは言え、そのハードなゲーム性は今度、プロゲーミングの対象として数えられるほどの遊戯性を担保したわけだが、それでもやはりマイナータイトルという汚名は免れようもない。

 基本をもってここGH11443の面々はマルチプレイヤーだ。良く言えば何でもこなし、悪く言えば特化したジャンルがない。それもこれも、そもそもを言えばウチが国境地帯の御用聞き程度の存在でしかないことに理由がある。程々に何でもできる、メンタルの安定した奴にこそ価値があり、専門性を持つ人間は実務には必要でも、遊戯方面では価値がない、というのがお歴々の態度で、言ってしまえば俺もそれに同意している立場にある。他でもない俺自身がマルチプレイヤーだから好都合だ、というのもあるが。……

 俺は先に宣言した通り、戦略を考えることにした。ここからは俺の勝負ではなく、俺という人間が持つ網と糸ネットワークによる戦いとなるのである。

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