phenomenon:12

 一連の発言でさえ、俺という人間Matthew7が施した一種の作戦オペレーションであった。つまり、主導権を握るということ。そういう意味では既に"戦闘"は始まっていたのだとも言える。人間は基本をもって面倒臭がりだ。昔見た三分解説動画インスタント教養でも、どっかの偉い哲学者だかフランス人が言っていたらしい。警察官が人を呼び止めるその瞬間、既に政治は始まっているのだ、と。全ては社会の再生産工程でしかないのだ、とも。

 ここで俺は考えた。今のお歴々は大きなイベントそれ自体を疎んでいる。嫌がっている。端的に言えば面倒臭いの一言だが、その一言には多数の含意がある。即ち、彼らは保守コンサバティブ化しているのだ! シンプルな話で、彼らはこの場所GH11443の現状に満足しており、何であってここの力場が変化することを求めていない。流れ流れ着いた先である程度の地位を持つ。それが例え、世間的社会的世界的に見てチンケで面白みのない立場で、本人たちもショ糖とカフェインと薬物の取り過ぎでいつおッ死ぬかも分からん立場であったとしても、その立場はやはり代え難いものなのだ。――間隙はそこにある。

<責任は取れるのか>

 とこう返ってきた。案の定の答えで俺は思わず笑ってしまった。

 責任。この言葉は人を制止する上でもっとも効果的な言葉だ。責任感覚には実態がない。所在もない。それは生み出された瞬間にのみ生きる妖精ピクシー、人の手で作られる人工妖精ホムンクルスの類だった。

<責任? 責任がどこに生じるんだ>

<無駄骨を折る羽目になるかもしれない>

<無駄骨? オンラインの大会だ。渡航費は必要ないんだぜ>

<しかし時間が必要だ>

<小銭稼ぎに使うか、そうでないかの違いでしかないだろう?>

<何の成果も得られないぐらいならば、小銭稼ぎをしていた方がマシだ>

<お前は老いぼれのホームレスのような思考をするんだな>

<WTFあ゛?>

<人生に希望がないから。この先には岐路などなく、ただただ日々自動販売機のお釣り口とか、自販機の下なんぞを漁り、時々気が向いてみたら旅行客にchangeをねだる。そういう生活態度で得られるものはこの世に何一つ存在しやしないと。俺はそう言いたいんだ。――必要なのは変化changeなんだよ、諸君>

<随分と雄弁だな。欧州議会に立候補してみたらどうだ?>

<それを言われたのは二度目だよ>

<不愉快だな>

 と言い負かされた奴が言う。

<じゃ、つまり。大口叩いたお前は何らかの形で我々に収益を約束すると、そう言い切れるわけだな?>

 つまり、この言葉こそが核心的なのだ。話は常に窮極アルティメットへと至らなければ進まない。どんな形であれ、中途半端な提言などと言うものは、どのような問題も正否ではなく程度の問題に抑え込んでしまう。そういう意味でこの言葉は責めているようで、実際には助け舟に等しい。

 だからこそ、Matthew7はこう宣言した。

<約束しよう。我々はこの『6d<シックス・デイ>』によって、何らかの利益を得るであろう、と>

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