phenomenon:11

 昔、ウチの辺りGH11443に一人日本人ジャパニーズが来たことがある。そいつはどうも国際情勢オタクで兵器オタクという、如何にも娑婆で居場所のなさそうな奴で、そういうような人種が行き着く先としてこの場所ナード・ゲットーは的確ではあった。

 もっともこいつはド無能で、色々な言葉を中途半端に勉強して、観光客が発するような日常会話程度の語彙しか持ち合わせておらず、英語も中途半端。どこかのタイミングでここを抜けてどっかに行っちまった……多分、日本に帰ったのだろう。あの国はいい国らしいと爺さん方は言っていたから、きっと恋しくなっちまったんだろうと思う。

「あれも、これも、それも日本製メイド・イン・ジャパンだよ。アリババなんぞで物買ってみろ。二日としないうちにパアだぜ?」

 と爺さんらは言っていた。――そう言って彼らが愛用する品々を見てみると、どいつもこいつも中国に工場をもって生産している中国産メイド・イン・チャイナ日本企業バッジ付きバッジエンジニアリングに過ぎない物々だったわけだが、それでも彼らの世代にとって日本製メイド・イン・ジャパンとは信用と信頼、誠実の証商売の神様であったらしく、俺が何を言っても彼らは聞く耳を持とうとはしなかった。

 で、そう。例の軍事オタクの日本人ジャパニーズの話。そいつが言うことには

戦術タクティクスを語るのは三流。戦略ストラテジーを語るのは二流。一流は大戦略グランド・ストラテジーについて語るものだ」

とのことだった。この発言が何かおかしくて、ここのお歴々GH11443の口の悪い奴らは口上として戦術が戦略を引っ繰り返した事例を世界中の戦争から引っ張り出した。中世欧州、中東、近代におけるイカれた国家指導者フリードリヒ・デア・グローセの事例もあれば、第二次ウクライナ・ロシア戦争における伝説的な緒戦の会戦の事例まで――そんな風に痛めつけられたもんだから、あの日本人バカは出ていったんだろうと思う。とは言え、その程度のヤワなメンタリティでこういう場所に近付いていったあいつの方にも問題はあるのだが。……本題ではない。つまり俺は言いたいわけだ。次、俺達が何らかの手段でプロゲーミングの大会にでるとして、資源リソースに劣る我々がとるべきは、そうした質的・数的劣勢を補う戦略だろう、ということだ。

<必要なのは、ユダヤ人国家イスラエルもビックリな弁証法ダイアレクティック的に止揚アウフヘーベンされたプロイセン・ドクトリンだよ――諸君>

<また聞きかじりの言葉でイキってる>

<お次はフォイエルバッハのテーゼでも発表するのかね?>

<気持ち悪い。哲学やってる奴の末路なんて街頭で残飯食うホームレスぐらいなもんだぜ>

 そうした言葉を俺は無視し、こう言ってのけた。

<やるべきことを一つ一つやる。俺には案がある。諸君らは?>

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