phenomenon:1-9

 そんな人間味のない人間・Lazarus16ラザロが珍しく、全体に波及する一つの興味深い発言をする。

「何で皆さん、ゲームの大会出ないんですか?」

 その問いかけはシンプルだった。

 そう、実際問題どいつもこいつもプロゲーミングシーンには詳しいわりに、ここ最近は一切、そういった大会には出ていない。

 これには理由がある。

 元々俺達の場所GH11443国と国と中東諸国の国境の怪しい地域にある都合上、パスポートが実直に出てくるような人間はそう多くなく、この時点でまずリアルイベントには参加出来ない。このパスポートの問題がクリアできても、今度は渡航費の問題が浮上してくる。勿論、現地の滞在費まで検討をすれば俺達貧困国貧乏たれの民には到底払えぬ金額となる。賞金がアテに出来そうな大会に人を送り込めるなら話は別だが、そんな都合の良い話はまず滅多に転がっちゃいない。こういうのに詳しい奴は過去に居たが、そいつは今神の飲料ソーマのキメ過ぎで肝臓をやっちまって、あの世に出稼ぎに行って帰ってこないのが現状だ。

<諸事情あってだな>

 そういう風な導入でもって俺達はLazarus16不気味な新人に話をした。……まるで愚図る子供を相手する親じみた口調ではあったが、全員このLazarus16ラザロという人間が何かの拍子で破裂したかのように問題を起こさないか、内心では不安だったのだ。――ここに人間の不条理がある。人間というのは基本をもって不信感を基礎にして生きている。人間を信じちゃいないってことは、人間には何かしらの欠点や問題があって然るべきだ、とそう思っている。そうなると、最初から……そう、それはまるで犬が飼い主の前でのみ腹を見せるのと同じように、他人が目の前で弱み・弱点・欠点を見せれば、人間不信を基礎に置く人々――つまり我々――は安心するのだ。成る程こいつはこういう弱みがあってここに来ていて、こいつの弱点はこういう作りなのだから、こいつはこのように扱えば良く……とまあ計算が立つ。――しかしここで一つの誤算が生じる。

 Lazarus16ラザロ

 彼こそが、我々人間不信、性悪説の信奉者らを悩ませる頭痛の種なのだ。言ってしまえばこのLazarus16スーパールーキーは有能かつ明確な欠点を持ち合わせているように思えない。そのところが、つまり、。我々は性悪説の信奉者人間不信であるからして、欠点がない人間という存在を信じていない。何かしらの欠点があるに違いない。となれば、その欠点が露呈する場面において、その欠点を把握していないのは致命的な誤りだ、となる。そうでなければ、彼の見えない欠点がドン、と爆発してみせたときに爆弾処理班が一人も居ないのであれば、それがどんなに有能であったとしても、それを使う毎に弾丸の存在が脳裏を過ぎるロシアンルーレットそのものなのだ。

 そういうわけで、こだわりらしいこだわりを見せてこなかったLazarus16この新人が唐突にこのような『』らしきものを見せてくると、とうとう事ここに及んで空の拳銃はその擬制を捨て去って、ロシアンルーレットとしての本性を露わにするのではないかと我々は不安で仕方がなかったのである。

 しかし、その戦々恐々たる人々の不安とは裏腹に、あくまでLazarus16ラザロは冷静そのものだった。この場所のお歴々がする説明に納得する素振りを見せながらも、一つ一つに反証をして見せる……どうやらLazarus16コイツには、何かあてがあるらしい。そんな風な話し口だったのだ。

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