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 幾らか経った。俺達は変わらない生活を続けている。――あれから、Lazarus16アイツに対し敵対的な態度を取る人間は随分と減った。とは言え、Lazarus16コイツは相変わらず、とっつきにくい態度をとっていて、特定の誰かと親しげに話をするようなこともなく、ただ目の前に放り投げられたタスクをこなしているのみだった。ここに居る連中の大半は何かしらの趣味ライフワーク(それも業病じみたものを!)を持っていて、そういうのを共通点にして誰かと誰かが仲良くなるという、言ってしまえば俗世のそれと何ら代わり映えのしない人間同士の営みみたいなモンがこの場所にもあるわけだが、Lazarus16ラザロはそうした交流をすることがない。そのぶん他人への悪口も言わないため、気味が悪いほどに感情の波みたいな、一般の人間に備わって然るべきであろう機能の欠落があるように思われてならなかったのだ。

 Lazarus16アイツはありとあらゆるタスクをこなす。しかし、Lazarus16アイツはありとあらゆるタスクに執着しない。

 東アジア製のソーシャルゲームの虚無みてえな作業ブルシット・ジョブも、馬鹿でかい大作SFMMOの続編Eve Online 2.0で資材稼ぎをするのも、遊戯じゃねえシステム作りシステムエンジニアリングも、何でもこなす。その代わり、Lazarus16はどのタスクを投げても面白がらない。――気味が悪いと他の面々も思っているのか、俺以外とはマトモな交流がない。

 不思議な話で、あいつが住んでいる場所Square265にいる連中に話をふってみても、Lazarus16らしき人間の話は漏れ出てこない。あいつが住む場所についても、人の出入りがあるような気配はなく、ただ物資の出入りだけがあるものだから、そこに"何か"がいるということだけは確かだ、という曖昧な憶測しか出てこない。

 とは言え、だ。ゴミの出入りにしてみたって、金があれば全部依頼が可能だし、トイレに行かないというとても信じられないような人間も確かに存在する。小さきはボトル、大きくは……これ以上言うまい。何であれ、この空間においては基本的に俗世の常識というものは通用しないのだ。これであいつが無能な人間であれば、いらぬ詮索の一つや二つ受けることであろうが、なまじLazarus16ルーキーが有能なだけに、そうした言及も起こらない。俺もする気はない。あいつは、ともあれかくまれ、手元に置いておきたい人材であることに変わりはないのだから。

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