phenomenon:7

 一戦目の勝負が始まる。Lazarus16ラザロのリュウは相手がrandomで選出したキャラクターに対し、絶妙な距離を取る。初心者にありがちなコマンドミスもなく、ゲーム運びは繊細かつ慎重。目立ったミスをせず、相手の油断を誘う。

 試合が動き出したのは、そんな隙のない動きを見せていたはずのLazarus16新入りが、相手の牽制技に引っ掛かったところからだ。

 相手プレーヤーはここで一連のコンボ技を入れて、ダメージを稼ごうとした。――しかし、この動きは失敗した。randomで選出したキャラクターだったからなのか、そうでなければ緊張からか、相手はコンボを決めきれず、寧ろ隙だらけの姿をLazarus16新入りに対しさらけ出すこととなる。

 Lazarus16ラザロはこれを見逃さなかった。

 相手が一連のコンボを決め損ねたのとは裏腹に、Lazarus16ラザロは最大ダメージのコンボを確実に叩き込んだ。……一戦目の最初の試合はほぼこの一撃で決まったようなもので、相手は自分がミスをしたことよりも、Lazarus16見下していた相手がそれを見て完璧にコンボを叩き込めるだけの相手であるという事実に対する驚愕から来る挙動であろう。

 二戦目。相手は流石にrandomを選ぶようなことはせず、もっとも得意なキャラクターでLazarus16ラザロに勝負を挑んだ。そのためか、二戦目には無難に相手が勝利を収める。

 しかし、三戦目になるとまた様相が変わる。キャラクターの動きを対策し始めたLazarus16スーパールーキーがまた再度、同じキャラで勝利を収めたのだ。

 この動きに困惑してか、四戦目に相手は得意キャラクターではなく、現在のダイヤグラムでもっとも広い範囲に優位を取れるキャラクターを選択した。これに対し、Lazarus16ラザロは――一戦目、二戦目、三戦目と使用し続けたリュウの使用をやめ、ダイヤグラム上で対等の位置にある流行キャラクターを選択した。その結果は実にあっけないもので……Lazarus16新たなる怪物は四戦目に、ストレート勝ちを収め、自らの価値を俺達GH11443に向けて証明したのであった。

 ――それ以後、Lazarus16ラザロを侮るような人間は居なくなった。格付が決まったのだ……恐らくこのLazarus16ラザロという人物は相当な出来人であって、自分たちが短期決戦で相手の地位を決めようとするよりも、寧ろ長期的な目線でミスを誘う方が良いのだ、と下の連中は納得したし、上の側にいる人間は、優秀な人間が新しくこの場所に来ること自体は大歓迎であるからして、この状況はいわば当然の帰結と言うわけだ。

 彼、Lazarus16ラザロはこの場所の新しいメンバーとして確固たる地位を築き上げた。その上、勿怪の幸いとして、この恐るべき新人は俺……信頼のおける語り部。アリ・アフマドなどという没個性的な名前モブ・ネームを持つ、この場所ではMatthew7マタイを名乗る、そこそこの地位を持つ人間の下につくように指示されたことがあげられる。いわば、新入りに最初に唾を付けた人間とされたわけだが、何であれこれは、俺のオタクどもの住処ナード・ゲットーにおける生活を随分と楽なものにしてくれる、そういう出来事だったわけである。

 俺はRMT可能なゲームでは基本的にこいつを連れ回した。……こいつはよく働く。しかも合理的に、自ずから改善を図ることが可能な稀有な人材で、ここに来る大半の人間が故郷が火星テスラにあるのかと疑うような人格破綻者だらけなのに対し、こいつは最初から地球人類らしい所作が可能な人間だった。あえてこれを悪く言えば、工夫の余地のない、面白みのない人間だとも言えるが……まあ、それは余計な話だ。今はただ、優秀な部下を持つことができたことの幸福を噛みしめるべきだろうと、俺は考えている。

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