phenomenon:1-6

 Lazarus16ラザロの対戦風景は配信サイトを通じて、閉鎖的な形クローズドで行われた。我々の居場所GH11443の面々のみが閲覧可能な環境で、対戦は三本先取。これを三回やる。……極端な仲間からは

「一時間ぶっ続けでやらせたらどうだ。熱帯オンライン対戦潜っていればそんぐらいのことはあるだろ」

 などと言う。

 それに対する意見はこのようなもの。

「それはプライベートの練習の話だろ。タスクとしては想定し難い」

「それともなんだ。お前はどっかの会場でマネーマッチ百人斬りでもやるつもりなのか? 非現実的だね。どっかで疲れ果てて身包み剥がされるのがオチだろう」

 結果的にはこの反対意見の方が通った。空間内におけるパワーポリティクス政治力学の結果とも言えるが、何であれここにしてみてもオタクの楽園ザナヅーというわけではない。そういうのを求めているのであれば共産党Communist Partyにでも入るべきだ。

 対戦は、まずキャラクターセレクトから始める。これ自体が一つの駆け引きだ。格闘ゲームにある程度慣れてる奴なら、キャラクターのダイアグラム相性表は頭に入っている。相手のキャラに有利を取れるキャラを選択するのも戦略のうちだ。大抵の国の上位プレーヤーは複数キャラを扱う器用さを持っているもので、今回のLazarus16新入りの対戦相手もまた例外ではない。恐らく、奴はLazarus16スーパールーキーのキャラ選出を見てから自キャラを選択するであろう。……そう思われていた。大抵のメンバーはそのように想定していた。しかし、実際はそうはならなかった。

 Lazarus16の相手が選んだのは――ランダムセレクトだった。どのキャラクターが選出されるか分からない選択肢であり、言ってしまえば自殺行為そのものだが、俺達のチャット欄は大いに沸いた。

<Hoo!>

<Cool!>

<まるで4K.Grubbyだな!>

<お次は「Human suck」ってか?>

 こいつは一体、いつの時代の話をしているんだか。WarCraft3なんて今どきの奴には通じないだろうにな。――とは言え、こいつらの言ったのと似た感情を俺もまた感じている。相手からすればLazarus16はランダムで相手する程度のレベルでしかないという宣言でもあり、『グランドファイター20XX』のキャラクターであれば全てを操ることができるという自負心の発露だ。

 この行動に対し、Lazarus16は(少なくとも画面越しで見るぶんには)動揺する素振り一つ見せず、淡々とこのゲームの主人公格とされるキャラクター『リュウ』を選択した。

<リュウ! まるでThe Beastウメハラみたいなセレクトだな!>

<あれ、今はリュウじゃないんじゃなかったか?>

<お前ら、居酒屋談義も程々にしろよな>

 俺の発言に対しレスがつく。

<実際、仕事サボって見てんだよ。酒も入ってる>

<飲んでいるのは?>

<日本文化の粋ストロングゼロだよ>

<やめとけよ。悪酔いする>

<獅子の乳イェニ・ラクなんかよりよほどCoolだぜ。イカすジャパンガールはこれを飲むんだ>

<お前にゃ一生縁が無いだろうけどな>

 しかし、Lazarus16新入りのセレクトを見て俺は思わず唸っていた。このキャラクターは新作にあたってキャラクター刷新を図るも、保守的なユーザーから受け入れられなかった結果追加されたバランサー調整装置的なキャラクターで、駆け引き次第でどのような相手でもいなせる能力がある。案外、Lazarus16こいつはこの勝負で勝利してしまうのではないか――何となく、そんな気がしてきていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る