phenomenon:1-3

 Lazarus16ラザロ。こいつは何も知らなかった。fuckin'noobド素人と罵られたのも無理はない。確かにこいつはド素人だ。なぜ俺達の場所に来たのかも定かではない。

<お前、何ができるんだ>

 という俺の質問に対し、こいつは

<わりと何でも>

 と答える。――やる気があるんだか、ないんだか。

<いいかLazarus16fuckin'noob。ここには乞食に金を与えて喜ぶような御大尽サマもいなければ、タダでメシをくれてやるような慈善活動家もいない。いるのはただ、このゴミ溜めの中で、このクソみたいな場所を維持するために日銭を稼ぐ有象無象がいるだけだ>

 俺の長文に対し、あいつはこう答える。

<成る程>

 分かってんだか、分かってないんだか……それでも俺は話を続ける他ない。

<……あー。パソコンで金を稼いだことは?>

<色々あります>

 回答になってねえんだよ馬鹿野郎。

<あー、はい。そういうことですか。理解しました>

 だが、この発言をきっかけに、奴の言動は変化していく。酷く素人臭かったはずのLazarus16ラザロは、いつの間にか灰色の枢機卿ジョゼフ神父の顔をして、天秤を持つ審判者のような振る舞いをし始める。

<何を?>

<ここの環境には制限があるようです>

 何を言いたいんだ、こいつは。

<まさかお前、ここがGAFAのオフィスにでも見えたのか?>

<んー>

<例えば、マイニングはスペースの問題がある。コンピュータを並べるようなことはできない。とは言え、株式投資も向いていない。あれは原資が必要だし、そんなセンスがあったら証券会社にでも勤めてトレーダーを目指した方がいい。まあ、マイニングよりは合理的。多分だけれど、ゲームを複数のウインドウで展開してマクロで動作させて、RMTのためのアイテムを稼ぐ。これが分かりやすい。とは言え、これも安定的なぶん、利益率はそうでもない。第一、ハイスペックPCは無から生まれてはこないのだから>

<じゃ、結論はあるのか>

<プロゲーミング! もしくはその結果でトトカルチョを主催する。胴元になるのはマイニングで資産を作るユーザー。払いは仮想通貨>

<成る程>

 今度は俺の方がこの言葉を使っていた。

<でもやっぱ一番はゲームで名前を売ってスポンサーを作ることだよね。スポンサーで得た金を、RMT班とマイニング班、後は少しだけ投資に回す。現金を転がせばあら不思議、雪だるまは膨らんでいく>

<勘がいいじゃないか>

<ところで、お宅の洗濯機の調子はどうなんですか?>

<そこまでやったら睨まれんだよ。うちは国境地域の隙間産業だからな。そこまでずっぷしやってんのは紛争地域の連中だけだ。あそこは>

<血濡れの貨幣がたんまりと>

<そういうこった。ブラック・アフリカも北アフリカでも、介入する先進国は皆紛争資源ブラッド・ダイヤモンドにお熱なのさ。現地民の生活よりも、自分たちの消費的な生活を維持することの方が重要で、お次に始めたのはサステイナブルな生活ときた。負債は途上国に払わせて、自分たちは利益を元手に城塞を作る。国際連盟は服務規程で相対的弱者を本物の弱者にし尽くし、強者もまた都落ちを防ぐために必死こいて潰し合う。国際通貨基金IMFは途上国の市場を先進国に貢ぐために存在している、というわけだ>

<随分と雄弁ですね。次の欧州議会に立候補なされては如何>

<馬鹿にしやがる>

<私はただ優秀な人間が燻っているのが許せないだけのことですよ>

<ところで、私の答案用紙の結果はどうでしたか? 赤点ラインを突破できていればよいのですが>

<残念。実地試験がある>

<面倒な話ですね。とは言え、やりがいもあります>

 上等だ。俺はそう口にしていた。

<求めよ、さすれば与えられん。探せよ。そうすれば見出されん。門を叩け、さすれば開かれん>

<新約聖書、マタイの福音書七章七節>

 こうして、Lazarus16ラザロの戦いは始まった。

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