12、バズなんて初めて



 受付のダンジョンへ潜る為の申請待ちをしている合間に、ハルカはロビーの椅子に腰を掛けてスマホを眺めていた。


「50万再に210万再生……か。ニコラ効果が凄いなぁ」


 ハルカが確認しているのは、先日に配信した『ダンジョン探索配信』と『雑談配信』の再生回数だ。


 ダンジョン:エリア『試練の遺跡』での探索を配信した回は、動画投稿から僅か1日で210万再生を記録している。


 こちらは迷宮案内人が新種のボスモンスターに変貌し、これまたドロップしたアイテムが未発見の新種[アイテム]だったので、みんな興味本位で動画を見てくれたのだろう。


 ニコラが軽々と試練を突破したり、ボスを大した苦戦もなくあっさりと倒してしまった為、動画の再生時間が僅か15分程なので気軽に見ることが出来る。


 これも再生回数が回っている要因の一つだろう。


「ふふふ、これがバズだね。初めて」


 思わず口元が緩んでしまう。


 ハルカのチャンネルは底辺中の底辺なので収益化が済んでいない。なので広告収入を得ることが出来ず、再生回数が回っても利益なんてモノはないがそれでも嬉しい。


 そして雑談回の再生数もまた1日で50万回を記録している。


 所詮はトーク回と題しているので探索配信よりは再生数が回らないが、それでも50万という大台だ。


 これは単純に今注目されているニコラとの雑談を期待してでの数値だろう。以前ハルカが適当に自宅で雑談した回は僅か117再生だったので間違いない。


「あれ? なんかちょっとムカついてきた」


 世知辛い界隈である。


 ダンジョン探索動画に寄せられているコメントも、やはりと言うかほとんどがニコラについての言及ばかりだった。



 @user-3h7g8t5k

 やっぱりニコラくそ強ぇな

 これSSランクも普通に行けるんじゃないか?


 @user-b2n9x4mw

 スキル整えないで煙のボスにダメージ通してるのどうなってんだ


  ▽@user-p9f2j6rc

  まずアイテム無しでまともに戦えてるのがすごい

  装備とかも一切なしでしょ?

 

 @user-x8v7l2yq

 音魔法って炎属性もあったんだなw


 @user-t5c7v8mp

 今後も期待

 ビジュアル良いし普通に推せる


 @user-z4w8r6t3

 『異界洞窟』4分、『試練の遺跡』9分で踏破とか

 普通に攻略してるだけで他探索者のRTAよりタイム出てるの笑う


  ▽@user-z4w8r6t3

  そのせいで遺跡のボスがイカサマ疑ってガチ切れしてんの草

  

  ▽@user-u1j2m9fn

  イカサマ疑ってたのは別の理由じゃね?


 @user-l9k1r4tw

 次どんな音魔法披露してくれるか楽しみ!


  

「私は? 私については何かないの?」

 

 動画のコメント欄を下にスクロールしていっても、ハルカのハの字もなかった。一応このチャンネルの主なのだが一体どうなっているのか、ハルカは頭が痛くなってくる。


「まあ基本的に足手纏いだししょうがないっか……って、ん?」


 

 @user-B9SP6w9w2m

 知の試練突破したハルカちゃん地味にMVPだろ

 

  ▽@user-a7g9k2f3b

   たしかに


  ▽@user-m8c2r4j5x

   ニコラじゃ難しかったかも知れないからな


  ▽@user-v2w7y5n1l

   まあ今は攻略情報もあるしそのくらいはね?



「私この人好きだ」


 長いこと画面をスクロールした果てにようやく自身についてのコメントを見つけて、ハルカはなんだかダンジョンの宝箱を見つけた気分になってくる。


 この人とはなんだか長い付き合いが出来そうだとハルカの頭は単純だった。


「お待たせハルカちゃん」

「あ、メイさん! 手続き終わりましたか?」


 なんてスマホを眺めて一喜一憂していると、手続きが終わったのか受付のメイがハルカのIDカードを手渡してきた。


 どうやらダンジョンへ潜る為の申請は通ったみたいだったが、肝心のメイの表情がどこか浮かばない様子だ。何かあったのだろうかとハルカは椅子から立ち上がる。


「手続きは終わったんだけど……」

「どうかしたんですか? 確かにちょっと待ちましたけど」

「ハルカちゃんの持ってる[アイテム]を買いたいって人からさっき連絡があったの」

「え? 嫌ですよ」


 ハルカに直接交渉するという訳ではなく受付のメイ連絡が行くということは、話を持ちかけて来たのはダンジョン協会に通じる人物なのだろう。


 顔が利くというやつだ。

 何かしらのコネやパイプがあるに違いない。


「その相手って誰なんですか?」

「それが、顔合わせするまでは秘密だって」

「はぁ」


 絶対怪しいだろとハルカは確信した。

 


 

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