第24話 キメラの群れ

 三人で森を歩いていたら、大きな陰が飛び出してきた。

 体は熊で、頭は蛇、背にはコウモリの翼。

 間違いない。

 くだんの魔物である。


 魔法兵団たちは苦戦したかもしれない。が、俺たち三人にかかれば瞬殺だった。俺が闇の槍を心臓に。水羽が剣を脳に。ロゼットが電撃を全身に撃ち込んで、それで終了だ。


「よし。死体の原型をとどめたまま確保できたのは僥倖じゃ。あとは人避けの術を使ってから、魔法兵団にここの位置を教えれば任務完了じゃな」


 ロゼットが指を鳴らすと、空から鳩がクルッポーと降りてきた。

 その足に手紙をくくりつけると、鳩は王都の方角へ飛び立っていった。


「あとは若い連中が調べるじゃろ」


 ロゼットは安心しきった声を出す。


 ところが次の日。

 冒険者ギルドで騒ぎが起きていた。とあるベテラン冒険者が、見たことも聞いたこともない魔物と遭遇し、命からがら逃げてきたというのだ。

 その魔物は、体が馬、頭は牛、尻尾はムカデだったらしい。


 それを聞いた俺たち三人は、顔を見合わせる。

 合成生物キメラだろう。

 しかし昨日見つけたのとは違う。昨日のは魔法兵団がすでに回収しているはずだ。


 ベテラン冒険者の話を聞いたほかの冒険者たちは「そんな魔物がいるもんか。なにかの見間違いだろう」と笑っている。


 俺たちは笑えない。

 すぐに森に行く。

 そして、体が馬、頭は牛、尻尾はムカデの魔物を倒した。

 だが、現われたのはそいつだけではなかった。


 基本的には兎なのに、二本の耳が植物になっていて、先端の花から怪しげな花粉を放っている魔物。

 馬の頭部を持った猿。

 甲羅の一つ一つに眼球がある亀。

 蛸の触手をこねくり回したような謎の肉塊。

 そのほかエトセトラ――。


 新種なのか、それとも誰かが作った合成生物キメラなのか分からない、謎の魔物たちが俺たちの前に現れた。


「多すぎるのじゃ。ワシでさえ合成生物キメラを一つ作るのに何ヶ月もかかる。それを……何体じゃ? 次々と増えていく。もしこれが人為的な合成生物キメラだとすれば、それを生産する巨大組織が人知れずに暗躍しているということになるが……」


「そんな凄い組織なのに、こんな田舎に合成生物キメラを放し飼いにして、チンケな騒ぎを起こすなんて不自然だ」


「その通りじゃ。しかし自然現象で合成生物キメラが大量発生するなど、聞いたこともない」


「考えるのはあとにして、とりあえず突破して村に帰ろうよ。それで、この森には近づかないよう、みんなに呼びかけなきゃ」


「そうじゃな。それが最優先じゃ。にしても数が多いのぅ。二十体を超えたか? 森ごと薙ぎ払っていいなら楽なのじゃが」


「駄目よ。森は地域の人々の暮らしと結びついてるんだから。もっと切羽詰まってるならともかく、このくらいなら普通に倒して帰れるでしょ」


「やれやれ。ミズハは相変わらず真面目じゃ」


「水羽が言ってるんだから、森を傷つけるなよ、ロゼット」


「そしてアキトはミズハに甘々じゃな!」


 俺たちは軽口を叩き合いながら、合成生物キメラと思わしき魔物たちを倒していく。

 その途中。

 視界にチラリと人影が見えた気がした。

 冒険者か、と思って振り向けば、そこにいたのは少女だった。それもロゼットや俺と似たような身長の、幼い少女。髪色こそ薄い桃色という珍しいもの。だが服装はどこにでもいそうな村娘。

 なぜそんな少女が、こんな森の奥に。

 迷い込んだのだろうか。

 いずれにせよ、魔法兵団でさえ手を焼いた魔物に襲われたら、ひとたまりもない。

 俺は少女に近づく魔物を倒そうと魔力を練り上げた。


 が。

 少女の放つ気配が、強者のそれに変わる。

 俺たち三人と肩を並べて戦っても遜色なさそうなほどに――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る