第23話 盗賊団退治は気持ちがいい
「いやぁ、盗賊団の退治は気持ちがいいなぁ。世界から悪が減るし、俺の魔力が強化されるし。それにしても、月一くらいのペースで盗賊団を潰してるけど、あいつらって次から次へと沸いてくるよな。実に不思議だ」
盗賊団はおおむね、洞窟とか放置された古い砦などを拠点にしている。
ついさっき潰したのは洞窟を拠点にしているタイプだった。
冒険者ギルドいわく、その洞窟はもともとゴブリンの巣だったらしい。そこに盗賊団がやってきて、ゴブリンの半数を殺害。力の差を見せつけることで残ったゴブリンを従え、荷馬車などを襲う際の手駒にしていたという。
「ゴブリンを従えるってどうやるんだろう? 俺だってゴブリンの群れをいくつも潰してきたけど、ゴブリンがペコペコしてきたことなんてない。もしかして盗賊とゴブリンって生物として近いところがあるんじゃないか? 倒しても倒しても沸いてくるところがソックリだ」
「たんに、人のものを盗んで手軽に儲けようってロクデナシが多いってだけの話でしょ。それより秋斗くん。盗賊の討伐は冒険者ギルドからの正式な依頼だから、皆殺しにすること自体に異論はないわよ? けど、あんな殺し方しなくてもよくない? いちいち手足を潰したりしてさぁ」
「前にも言っただろ。苦痛を与えてから殺さないと霊として回収できないんだよ」
「まあ、あいつら悪党だから、苦しんで死んでも自業自得なんだけど……秋斗くん、盗賊殺しを楽しんじゃってるでしょ」
「そりゃそうだよ。あいつらは人を殺してものを奪う。若い女性を強姦したり売り飛ばしたりもする。そんな奴らが楽に死んでいいはずがない。苦しめてから殺すことによって、やつらの罪を精算してやっているんだ。そして死後は俺の手駒となってほかの盗賊を殺して社会貢献する。こんなに全員が得するんだから、楽しいに決まってるよ」
「そ、そういう風に言われると、本当にいいことな気がしてきた……」
「気がするんじゃなくて、いいことなの!」
別に水羽を言いくるめるために言ってるんじゃない。俺は心底からそう思っている。
自分の行いに誇りを持っているのだ。
誰に恥じることもない社会貢献である。
「分かったから、そうムキにならないで。秋斗くんがそうやって魔力を成長させて、呪いの扱いが上手になったからこそ、私は助かったんだから。本気でやめさせようとは思ってないから。ただちょっと……エグいっ! って思っただけで」
「そのうち慣れるよ」
「そういうもんかなぁ」
俺たちは盗賊団討伐完了の報告をするため、エミリエ村に向かう。
その途中、森の中で、小さな女の子と出会った。
外見年齢は十歳を少し過ぎたくらい。ゆるくウェーブがかかった金色の髪。
盗賊団のアジトの近くには似合わない可憐さだが、外見年齢なら俺だって似たようなものだし、可憐さなら水羽が勝っている。
「あ。ロゼットさん。こんなところでなにしてるの? さっきは起こしてもベッドから出てこなかったのに」
水羽は手を振って呼びかける。
「ミズハとアキトか。どうやら盗賊退治の帰りらしいな。ワシも参加したかったのじゃが、なにせ朝は惰眠をむさぼりたい性分でな」
ロゼットは今朝のムニャムニャした様子とは打って変わり、威厳さえ感じるほど堂々と俺たちのところへ歩いてきた。
なぜ俺たちが今朝ロゼットを起こそうとしたかといえば、彼女があの城に泊まったからだ。
俺は泊めるつもりなんてなかったのだが、
「こんなに部屋が余っているのに、わざわざ金を払って宿を借りるのは馬鹿らしい。もちろん泊めてくれるのじゃろうな?」
と押しかけてきて、水羽がそれを快く承諾してしまったのだ。
どうもノリ的に、昨日の一泊だけでなく、このまま住み着きそうである。
実際、あの広い城に二人だけというのは寂しい気がするし、水羽が楽しそうなら構わないのだが。
この調子で水羽が何人も拾ってきて大所帯になったら、新婚気分が台無しだ。
まあ、精の通もしていない十一歳の体で水羽とナニをするわけでもないので、いいのだけれど。
「それでロゼットは目覚めの散歩でもしてるのか?」
「いくらワシでも散歩でこんな森の奥深くまでは来ぬ。仕事じゃよ。とはいっても、お主らのように冒険者ギルドの仕事ではないぞ? 国の仕事じゃ」
ロゼットいわく。
俺らが出かけたあともベッドでだらだらしていたら、窓をコツコツと叩く音が聞こえたらしい。
それは鳩の仕業であった。ヴァルミリス王国魔法兵団が連絡に使っている伝書鳩。それがロゼットの魔力を探知して手紙を届けに来たのだ。
「魔法兵団が定期パトロール中、エミリエ村から少し離れた森で、今まで見たこともない魔物と遭遇したという。そいつは体が熊で、頭は蛇、背にはコウモリの翼が生えていたという」
「……
「うむ。そういうのを作りたがる魔法師は多いからのぅ。そして作ったはいいが自分で管理できず野放しにしてしまうなんて珍しくもない話じゃ。ただ今回のは、魔法兵団の精鋭でも仕留められずに逃がしてしまったというから、かなり強い個体のようじゃ。それで、たまたま近くにいたワシに仕事を回してきたというわけじゃな」
「……この国の魔法兵団って一人一人が精鋭よね。真聖教団も一目置いてるほどよ。で、偵察任務って十人くらいでするでしょ? それと戦って逃げ延びるなんて、かなり厄介な魔物よ。そんなのがエミリエ村の近くにいるなんて……放っておけない。ロゼットさん、私も一緒に探すわ」
「水羽が行くなら俺も行くよ」
「初代聖女と闇の少年が一緒に来てくれるなら心強い」
「なんだよ。その闇の少年って」
「お主のことじゃよアキト。あの城を浄化したときから、お主が何者なのかという話題で、王宮の魔法師たちは大騒ぎじゃった。アキトの技や実力はワシが報告しておいた。王国に仇をなす意思がないというのもな。そうしたら呪いや死霊を操るということで、王宮の連中は、お主のことを闇の少年と呼び始めたらしい。昨日報告したばかりでもう二つ名がついているとは、よっぽど注目されていたのじゃな」
闇の少年。
なんだそれ。ちょっと……いや、かなり格好いいぞ。
王宮でそう呼ばれてるってことは、国王もそう言ってるのか?
もし今後、国王と謁見する機会があれば「闇の少年よ」とか声をかけられるのか?
想像したら興奮してきた。
「闇の少年だって。秋斗くん、格好いい!」
「や、やめてよ、照れる……!」
「ん? なんじゃ、お主、顔が赤いぞ。本気で照れとるのか? くふふ、可愛いところがあるのぅ」
「か、可愛いとか言うな。可愛いのは水羽だけで十分だ」
「ワシからすれば二人とも可愛い年下。弟と妹みたいなものじゃ。くふふふ」
ちぇ、年上ぶりやがって。
反論しづらいことにロゼットが圧倒的に年上なのは確かで、おまけに俺より背がオデコ半個分ほど背が高いのだ。
そして頼れる年上がいることで、水羽が安心している節がある。
水羽は甘えん坊だ。かつての入院生活中、両親が見舞いに来たら、それはもう甘えていた。彼女が俺以外に甘えていると嫉妬が湧き上がってくる。しかし水羽が快適に暮らせることが最優先だ。
第一、かくいう俺とて、水羽を守ろうとしている者が自分以外にもいるのは心強かった。
つまり俺も水羽に劣らず、ロゼットに甘えているのだろう。
絶対に口には出したくないけど。
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